魔槍と書いて〇〇〇と読む4
―――前回のあらすじ―――
魔槍を色々調べた結果、精霊石を装填することで礫魔法が発射できる武器であることが判明した。
ディーゴはこれに少し改良を加え、報告会を開くことにする。
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木工ギルドに頼んでいた加工品が出来上がったので、予定通り魔術師ギルドと鍛冶ギルドと武器屋を集めて報告会を行うことにした。
会場は武器屋の方から話が行って、練兵場の一角を貸してもらうことになった。
そこから噂が広まったのか、当日はラズリー騎士団長の他、数人の騎士が見物に訪れていた。
「ほいじゃ、全員集まりましたかね」
周りをぐるりと見渡して言う。
「では、以前から発掘されつつも使い方が分からずにいた、魔槍と言われる武器の報告を行います」
俺の宣言に、ラズリー騎士団長が鷹揚に頷く。
「えっと、この武器ですが、端的に言ってしまえば超初期型の火筒みたいなものです。ただ、これ単品では何の役にも立ちません。
火筒でいうところの火薬と弾丸の代わりに、精霊石が必要になってきます」
そこまで言うと、座が少しざわめいた。
「ディーゴ、精霊石が必要というのは、魔槍一振りに対して精霊石が一つ必要なのか?」
ラズリー騎士団長が魔槍をいじくりながら尋ねてくる。
「はい。精霊石を弾丸のように装填させて使いますので、どうしても魔槍一振りに対して1個かそれ以上必要になります」
「精霊石は消耗品ですか?」
「いえ、精霊石一つで約40発発射可能で、発射しきったものは一晩休ませることでまた撃つことができるようになります」
「なるほど」
「では、さっそく撃ってみましょう」
そう言って土の精霊石を取り出すと、筒先から精霊石を奥に押し込んだ。
「これは俺の精霊石なんですがね、これを筒先から奥に押し込みます」
「そして構えるんですが、筒先の穴を目標に向けてください」
「そしてこの小さな穴に繋がっている細い針金、これが火筒でいうところの引き金になります。これをぐっと押し込むと……」
鉄の筒を握るように、引き針金をぐっと押し込むと、パシュ、というかキシュ、という小さな音とともに岩の弾丸が発射された。
弾丸は100トエムほど飛んで、的である鎧に命中するとガォンという衝撃音がして鎧に穴が開いた。
「おお……!」
一同から声が漏れる。
「握れば握った回数だけ発射されるので、一応連射も可能です」
そう言って5~6回立て続けに引き金を握ると、その回数だけ弾丸が発射されて、鎧を粉々にした。
「ふむ、礫系の魔法を無詠唱で魔力の消費もなしに発射する魔道具だったか」
ラズリー騎士団長が納得したように呟く。
「命中率はどうなのだ?筒先を的に向ける以上は、外れることもあるのであろう?」
「微妙に補正の魔法がかかっていますので、百発百中とまではいかないまでも8~9割は命中しますね。礫系の魔法に比べて、速度を上げて威力も増やし、射程も伸ばしているようです」
「使い勝手は良さそうだが、問題は配備コストだなぁ」
「ぶっちゃけ威力も期待したほどでもないというか、当たり所が良ければ豚鬼を1発で倒せる、といった具合でしょうか」
「それでも弓や弩よりは威力は上でしょう」
「しかし精霊石が必要か……」
「精霊石が一つあれば、下級の魔法使いが一人作れますからな。精霊石を持たせて魔法を使わせた方が応用といった面では上ですな」
「弾丸はあの岩のようなものだけか?」
「全部が全部試したわけじゃないですが、精霊石を変えればそれに応じた弾丸が発射されるようです。火の精霊石を装填したら火の玉が出ました」
「何にしても精霊石がネックか」
「ですね」
ラズリー騎士団長のつぶやきに俺が頷いて答える。
「ディーゴさん、構造的にはどうなっているのですか?」
「作りとしてはこの紙にまとめました」
武器屋の質問に用意しておいた紙を配る。
「技術的なキモとしては、超微細な魔法陣とそれを読み込む特殊な術晶石と言ったところでしょうか。
この筒の部分を裁断すると分かるのですが、内部に線が刻まれています。この線が実は超微細化された魔法陣なわけです」
「ほう」
「なんと」
「残念ながら、ここまで細かい魔法陣を書くのは今の技術では不可能でしょう。解読するにあたってもちょいと特殊な器具を使いましたので」
エルトールに渡した顕微鏡だけどな。
「書かれている魔法陣は、礫魔法の魔法陣ではないか、と思われます。
これはレッケント氏と私の予想ですが、礫系魔法に通常組み込まれている自動追尾の文言をごっそり削って、代わりに比較的簡単な速度の増加と威力増(小)、そして射程を伸ばす魔法陣が組み込まれているのではないか、と」
「ふむ、自動追尾の文言を削ったのはなぜだ?」
「推測ですが、射程を伸ばすのと威力を少しでも上げたかったからではないでしょうか。射程も威力も礫魔法と同じでは、わざわざこれを作る意味が半減しますし。自動追尾がなくなれば躱されやすくなるので、その対策として発射速度の増加も盛り込んだ、と」
「ふむ、なるほどな」
「特殊な術晶石というのは?」
「早い話が、詠唱の代わりをする術晶石だろうと考えてます。材料自体は普通の術晶石なんですが、これまた術晶石に微細な魔法陣が彫りこまれています。こちらの魔法陣はちょっと解明ができなかったのですが、どうも術晶石に映った魔法陣を読み込んで詠唱と同じような動作をさせるもの、と当たりをつけてます」
「ほう、そのような魔法陣があるのか」
「使い方次第じゃ無詠唱の魔法具に応用が利きますね。ただ、その場合はどうしてもサイズが大きくなってしまいますが」
「どのくらいのサイズに抑えられそうだ?」
騎士団長が食い付いてきた。
「それは作り手の技量によるとしか。言ってしまえばこの魔法陣は、髪の毛の細さで魔法陣を記載していますが、実際問題その大きさでは無理でしょう。麦粒に文字を書く職人というか大道芸人がいますが、そういった方面の人たちの手を借りればある程度は小さくできるかもしれません」
「となると、術晶石もそれなりの大きさが必要になるわけか」
「ですね」
「ふぅー」
騎士団長がため息をつく。術晶石も安くはないんだよね。
「とことん金のかかる武器ですな」
「まったくだ」
「ただ、術晶石に魔法陣を刻んで詠唱の代わりという手段は他にも応用が利きそうですな」
カコカコと引き金を握りながら、レッケント氏が呟く。
「あとは取り回しの悪さだが……ディーゴ、もう一つ持っているのが改良品か?」
「ええ、木工ギルドに頼んで棒の部分を差し替えてもらいました」
そう言って見せたのは、つい先日届いた改良型の魔槍。棒の代わりに銃把をつけることで長さが50セメトほどになり取り回しが良くなっている。また、筒の部分の底を開閉式にすることによって先込め式から元込め式になり、精霊石の交換がしやすくなっている。
見た目はグレネードランチャーというか、抱え大筒っぽい。
「右手で取っ手を握り、左手で筒の部分を持ちます。撃つときは右手ではなく左手を強く握って引き金を押し込む
形になるでしょうか」
そう言って精霊石を装填しなおすと、腰だめに構えて3発ほど撃ってみせた。
「ほうほう、これなら扱いやすいな」
騎士団長が俺から改良品の魔槍を受け取ると、同じように腰だめにして撃ってみる。
その後、武器屋やレッケント氏、鍛冶ギルドの職員に、見物で集まっていた騎士たち数人を交えて試射会が繰り広げられる。
ちなみに俺が持ってきた土の精霊石は早々に40発を撃ち尽くしたので、騎士団が管理している虎の子の精霊石を借りて使わせてもらった。
試射会はこれは便利だ、という声の傍ら、この威力なら直接殴ったほうが強い、という声もあり、まぁ文句なしの新兵器、というわけにはいかなかった。
銃ってのは良くも悪くも一定の威力しか出せんからな。そりゃ手練れの人間からすれば物足りなかろう。
「簡単に使えるが、コストが嵩む上に使いどころの限られる、高級な武器、といったところか。さすがに軍として数を揃えるのは無理だな」
「魔法使いの護身用としても改良しないことには取り回しがいまいちですな」
「裕福な冒険者なら、欲しがる人も出てきましょう」
「武術にも魔法にも適性のない人間が持つには良いかもしれません」
「それは武装云々の前に冒険者に向いてないのでは?」
レッケント氏の容赦のないツッコミに、一同から苦笑が漏れる。
「それにしても、古代は精霊石が潤沢にあったのだな」
「過去の記録によれば、人造の精霊石というものがあったようです。天然物に比べるとさらに低位の魔法しか使えないようですが。されど現在にはそのような技術は失われております」
レッケント氏が補足を入れる。人造の精霊石って、そんなものがあったのか。
「あとはいくつか試したものがあるので、それも併せて報告します」
「ほう、なにを試したんだ?」
「精霊石に限らず、他の精霊力が凝縮されたものでも弾丸の代用ができないか、魔術師ギルドの協力を得てちょっと試してみました。試したのは風精晶と土の精霊鋼、風の封精石に土の精霊珠です」
「ああ、精霊珠以外なら精霊石よりも多く市場に出回ってて入手は容易いな。で、結果は?」
「残念ながら、精霊珠以外は上手く行きませんでした」
「そうか」
あからさまに気落ちするラズリー騎士団長。
「ただ、精霊珠を使った場合は、威力こそ変わらないものの発射数の制限はなくなるようです。100発くらい撃ってもまだ撃てましたから」
「しかし精霊珠となれば精霊石以上の貴重品だぞ?」
「まぁそうなんですけどね」
ラズリー騎士団長の言葉に、苦笑しながら答える。
「では総括に入らせてもらいます」
「うむ」
「今まで魔槍と呼ばれていたこの武器は、精霊石を装填することで礫魔法を打ち出すことができるようになる魔道具であること。
精霊石は魔槍1本に対し最低1つ必要となること。装弾数はおよそ40発。一晩休ませれば装弾数は回復する。
命中率は8~9割、威力はほぼ一定で、豚鬼1匹を倒せるか倒せないか、程度の威力である。
騎士団としてはこの武器は……?」
「とりあえず改良品を10、用意してもらおう。精霊石はこちらで何とかする」
「情報の秘匿については?」
「ふむ……まぁ配備コストや性能の面から言って秘匿するようなことでもなかろう」
「ありがとうございます」
「魔術師ギルドも鍛冶ギルドも、自由にこの結果を上に報告して構わんぞ。武器屋もそうだ。取引に制限は設けないものとする」
「は」
「ありがとうございます」
「あと、魔槍という名称から、精霊筒という名前に変更したいのですが異存はありますか?」
「いや、特にないな。改良品は槍という形状でもないし、その方が分かりやすかろう」
「では、他に何か質問は?」
ぐるりと見まわしてみたが、特に質問はないようだった。
「じゃあ、これにて魔槍に関する報告を終わらせていただきます」
「うむ、ご苦労であった」
「ディーゴさん、お疲れさまでした」
「あまり商売にはつながらなかったが、長年の謎が一つ解けたな」
「では、この件は魔術師ギルドの上に報告させてもらおうか」
「そっちはよろしく頼む」
そう言って集まった面子が三々五々と去っていく。
そういやレッケント氏に魔術師ギルドからの報奨金のこと聞き忘れたが……モノが微妙なだけにあまり期待はできんかな?
ちなみに報奨金は、忘れたころに金貨50枚が魔術師ギルドより支払われた。
……へぇ、金にならない割に、なかなか気張ったもんだ。




