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魔槍と書いて〇〇〇と読む3

―――前回のあらすじ―――

剣闘試合で喧嘩娘のクレアに勝利し、無事に2勝目を飾ったディーゴ。

今日は魔槍の解析を進めることにした。

―――――――――――――


-1-

 剣闘士のクレアに勝利し、日当をもらった翌日は、いつもの稽古は休みにした。

 といっても寝て過ごすわけじゃない。

 今日は魔槍についていろいろやってみるつもりだ。

 魔槍の内部に書かれた魔法陣を、魔術師ギルドに解析してもらったが、精霊に関するものとしか結果が得られなかった。

 仕方がないので今日は魔術師ギルドを再訪して、精霊に関する物品を借りられるなら借りて色々試してみようと思ったわけだ。


 ヴァルツについてはついてきても暇を持て余すと思うので、買い物に行くというユニや使用人たちの護衛に残すことにした。


 屋敷で朝食を済ませ、魔槍を携えて魔術師ギルドに顔を出す。

「おはようございます。本日はどんな用件でしょうか?」

「魔槍の件でレッケントさんと少し話がしたいんだが、いるかな?」

 受付に頼んでレッケント氏を呼び出してもらうと、氏はすぐに姿を見せた。

「おお、ディーゴ殿か。今日はどうした?」

「今日は魔槍の解析に時間を充てようと思いましてね。以前解析してもらった魔法陣に書かれていたことについて検証してみようかと」

「ふむ。なるほど」

「で、今日来たのは、こちらで精霊に関する品物をいくつか借りられないかな、と思ったわけで」

「なるほど、そういう理由か。普段貸し出しというのはやっていないんだが、事情が事情だ。私からも口添えしてやろう」

「ありがとうございます」

「道具を扱っている部署の者を連れてくるから、ちょっと待っていてもらえるかな?」

「ええ、大丈夫ですよ」

 俺が頷くと、レッケント氏は一旦席をはずして、しばらくしてもう一人を連れて戻ってきた。

 両脇と正面だけにひと房の頭髪が残っているという、ちょっと?変わった髪型の老魔術師だ。

「そなたが魔槍について調べているという冒険者か?精霊に関する物を借りたいと聞いたが」

 老魔術師は席に着くなりいきなり尋ねてきた。

「ええ。魔槍が射出型の魔道具らしいというのは見当が付いたのですが、弾丸が何になるのか見当がつかなくてですね。ああ、私はディーゴと申します」

 そう答えて冒険者手帳を差し出す。

「普段は魔法の道具を貸し出すことはせんのじゃが、まぁレッケントに代わって魔槍のことを調べてくれるのでは無碍には断れまい。ギルドから持ち出さぬというのなら、貸し出しても良いぞ」

 老魔術師は差し出された手帳を確認もせずに答えた。

「ありがとうございます。裏庭のような場所があれば、そこを借りて調べてみようと思いますので」

「ならば訓練場がちょうどいいかもしれませんな」

 横からレッケント氏が口をはさむ。

「ふむ、ならば問題はないか。一応5種類ほど用意してきたので預けよう。返すときはレッケントに返してくれ」

「分かりました」

「壊した場合は弁償してもらうからの」

「気を付けて、扱うようにします」

 そう言って老魔術師が持ってきた品々を受け取ると、老魔術師はそのまま去って行ってしまった。

「では、訓練場に案内しよう」

 残されたレッケント氏に従って、魔術師ギルドの訓練場へと向かう。


「では、始めようか」

「というかレッケントさん、仕事の方はいいんですか?」

 魔槍を手に今にも実験を始めそうなレッケント氏に尋ねる。

「なに、大して時間はかからんだろうし今の仕事も急ぎというほどでもない、なにより実験結果に興味がある。差し支えなければ同席させてくれ」

「まぁ私は構いませんが」

 というわけで、急遽レッケント氏と一緒に検証することになった。

 老魔術師が用意してくれた品物は5つ。それぞれについてレッケント氏が解説してくれた。


風精晶・・・風の精霊力を宿した水晶。風の精霊がいないところでも風の精霊魔法が使えるという魔法素材。

土の精霊鋼・・・土の精霊力を宿した精霊鋼。

風の封精石・・・魔法で精霊を石に封じ込めた魔道具。1回だけ低位の精霊魔法が使える。

火の精霊石・・・所持すると低位の火の精霊魔法が使えるようになる魔法具。

土の精霊珠・・・所持すると中位の土の精霊魔法が使えるようになる魔法具。精霊石の上位版。


「へぇ、精霊を宿したものといってもいろいろあるんですね」

「うむ。しかし精霊珠まで持ち出してくるとは思わなかった」

「精霊珠ってのは貴重なんですか?」

「貴重も貴重。これを持っていれば素人でも中位の精霊術師相当の魔法が使えるからな。入手方法も迷宮都市の迷宮でごくまれに見つかる程度だし、入手した者はまず手放さん」

「なるほど」

「では、なにから試す?」

「一番手頃そうな風精晶から行ってみますか」

 レッケント氏にそう言って、風精晶を魔槍の筒に入れ、狙いをつけて引き金を押し込んでみた。

「……何も起きませんね」

「そうじゃな。では次を試してみるか」

 レッケント氏と頷きあって、精霊鋼、封精石と試したが、これらもなんの効果はなかった。

「では次は精霊石ですね」

 そう言って火の精霊石を魔槍に装填し、狙いをつけて引き金を押し込んだ。

 すると、今度は魔槍の筒の先端から火の玉が飛び出し、30トエム程離れた的に命中、ボゥンという音を立てて爆発した。

「おお!火の玉が出た!!」

 レッケント氏が興奮したように叫ぶ。

「どうやら当たりっぽいですね」

「なるほど、魔槍は火筒のような兵器で、精霊石が弾丸の代わりになるのか」

「精霊珠も試してみますか?」

「うむ、やってみよう」

 というわけで、今度は精霊石の代わりに精霊珠を装填して引き金を押し込んでみた。

 すると今度は岩の弾丸が発射され、的を打ち砕いた。

「ふむ、精霊に応じた弾丸が発射されるらしいな。礫系の魔法陣の効果かな」

 その後は俺の手持ちの土の精霊石も使って、命中率や発射可能な数、射程などいくつかの項目を調べ、書き残した。

 昼食を魔術師ギルドの近くの食堂で済ませ、15時の鐘の音が聞こえたあたりで調べたことをざっくりとまとめ終えた。


「ディーゴ殿、今日は有意義な時間をどうもありがとう。お陰で懸念だった魔槍の正体を突き止めることができた」

 別れ際、晴れ晴れとした顔でレッケント氏が言ってきた。

「こちらもお役に立てたようで光栄です」

「まとめた資料はいつ提出してもらえるのかね?」

「それなんですがね、これを調べるにあたって協力してもらったあちこちから、わかったら教えてくれと頼まれてましてね。私としてもちょっと改良したいところもありますし、5日後くらいに皆を集めてお披露目して、その時に正式なものを渡すというのでいかがでしょう?」

「ふむ、そうか。5日後だな?ならば時間を空けて待っていよう」

「お願いします。では、俺はこれで」

 レッケント氏と固い握手を交わして、魔術師ギルドを後にした。


-2-

 さてお次は……と、魔術師ギルドを後にしたその足で、そのまま鍛冶ギルドに向かう。

 受付にいたおっちゃんに事情を話し、魔槍を預けて加工を依頼する。

 ついでに魔槍の正体が分かったことを伝え、改良品含めた報告会を5日後にやるから、と言伝を頼んだ。

 加工は明日には終わるとのことなので、翌日取りに来ることを伝えて鍛冶ギルドを後にした。

 そしてその日は、まとめたことを木紙に清書して時間を過ごした。部数は……最低必要なのは3部だが、念のために5部ほど用意しておくか。コピー機があれば一瞬で済むんだけどな。


 翌日、鍛冶ギルドに魔槍の加工品を受け取りに行くと、いい感じに仕上がっていたので料金を支払い、それを持って今度は木工ギルドに向かう。

 木工ギルドで、加工された魔槍を見せ、簡単な図を描いて制作を依頼する。物もさして大きくなく、作りも簡単なので2日後にはできるそうだ。


 その後、魔槍とは全く関係ないが、ふと思い出したことがあったのでカワナガラス店を訪ねた。

「おやディーゴさま、今日はどうされました?」

 店先にいた店員の一人が、俺の姿を認めて声をかけてくる。

「うん、大したこっちゃねぇんだが、奥方のリフィナさんに用があってね。いるかな?」

「ええ、奥様ならいますよ。すぐ呼んできますが、大旦那様たちの所でお待ちになってはいかがですか?」

「そうだね、そうさせてもらうか」

 店員にそう答えると、裏口からエレクィル爺さんたちの部屋に向かった。

「こんにちは」

「おやディーゴさん、お久しぶり……というにはあまり時は経っておりませんな。今日は何か?」

 部屋の中でガラス器を見ていたエレクィル爺さんが訊ねてきた。

「ええ、ちょっとリフィナさんに用がありましてね、お邪魔させてもらいました」

 そこまで答えると、扉が開いてカニャードとリフィナが姿を見せた。

「こんにちはディーゴさん。ようこそいらっしゃいました。妻のリフィナに用があるとか?」

「ええ、大したこっちゃないんですが、リフィナさん、近々セルリ村に行く予定なんてないですかね?」

「妹の嫁ぎ先ですね?残念ですが今のところ予定はないのですが……」

「あ、そですか」

 ちょっと残念。

「ディーゴさん、セルリ村がどうかなさいましたか?」

「いえね、こっちに引っ越してからというもの、なんだかんだでセルリ村の方をご無沙汰してたな、と思い出しましてね。去年作った用水路とかの調子はどうかとかちょっと気になったもんで、農作業に影響がなければ4~5日セルリ村に行こうかと考えてたとこなんですよ。幸いというか、冒険者稼業は年内は休みの予定なんで」

「なるほど、そういう理由でしたか」

 カニャードが頷く。

「この時分はたぶん村長もそれほど忙しくないと思うんですけど、どうですかね?」

「それでしたら大丈夫だと思いますよ?ディーゴさんが来てくだされば、村長さんも喜ぶと思います」

 リフィナが柔らかな笑顔でほほ笑む。

「でもいきなり行って大丈夫ですかね?」

「でしたらウチからセルリ村に使いを立てましょう。具体的にはいつごろの予定で?」

「12の月に入ったら、と考えてます。そこらへんなら剣闘士の試合もなくて暇してる頃なんで」

「分かりました。セルリ村の村長にはそのように伝えておきましょう」

 カニャードがそう言って請け負ってくれた。これで用事は済んだな。

「しかし引っ越した後もセルリ村のことを気にかけているとは、良い心がけですな」

「あの村ではいろいろと世話になりましたからね。こうやってこの街にいられるのも、あの村での生活があったからこそですし。遠い距離というわけでもなし、引っ越したからハイサヨナラってのもね……」

「ほっほ、ディーゴさんらしい」


 その後は爺さん二人と、カニャード、リフィナ夫婦とで景気や商売の話などをした。

 壁画タイプのステンドグラスは現在5年待ちのうえ、ランプシェードや小物入れなどの小品もなかなかの量が捌けているそうだ。

 ただ、人手が足りないらしく近々職人見習いを増やすらしい。

 うむ、景気がいいのはいいことだ。

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