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森の中の出会い2

―――前回のあらすじ―――

帰り道に森の中をショートカットして進んでいると、殺気立った蜥蜴人の集団に出会う。

故郷を追われたという集団にお人よしが炸裂したディーゴは彼らが安住できそうな地を提案し、そこまで案内することになった。

―――――――――――――

-1-

 41人の蜥蜴人(リザードマン)に俺とイツキを加えた43人が、ぞろぞろと森の中を移動する。

 俺との話し合いが終わった後、ジューワックが皆を集めて説明したせいで、なんとなく群れの雰囲気が和らいだ気がする。

 まぁ当てもなく旅するよりは目的地があった方がまだ気が楽だしな。

 ちなみに後でジューワックに聞いたのだが、今は唯一精霊魔法が使える彼がこの群れを率いているらしい。

 赤大鬼の襲撃前は、長老がいて群れで一番強いという戦士の族長もいたのだが、残念ながら彼らは赤大鬼との戦いで帰らぬ人となってしまったそうだ。

 戦士としての強さが重要視される蜥蜴人の群れの中で、戦士としては2流の域を出ない自分が群れを率いることになってしまったからには、早く安住の地を見つけて群れを大きくし、強い戦士を育てるのが自分の役目だとジューワックが語ってみせた。

 ただ群れを大きくするのは構わんが、男女比率はどうなのだと尋ねたら、蜥蜴人は女(さすがに当人たちを前に雌とはちと言いにくい)も戦士として働くらしく、襲撃前と後で男女比率はあまり変わっていないという答えが返ってきた。

 うむ、避難民というから女子供ばかりかと思っていたが、そういうわけでもなかったのね。


《ジューワック、食料の方は大丈夫なのか?》

 森の中を歩きながら、ふと気になったことを訊ねた。

〈我らは虫でも草の実でも食べる故、今のところはなんとかなっている。しかし、いずれは狩りをせねばならないだろう。干し肉も干し魚も少なくなってきているのでな〉

《なら、食えそうな獣を見つけたら言うようにしよう。そのあたりはイツキが教えてくれる》

〈助かる。しかし便利なものだな、精霊憑きというのは〉

《森の中限定だけどな。ところでジューワックは何の魔法が使えるんだ?》

〈我が使えるのは水の魔法だな。我らは水や土の魔法に才能があるそうだ。長老は土の魔法の使い手であった〉

《なるほど》

 そんな感じで歩みを進める。暇に飽かせて色々聞きまくったせいで、蜥蜴人の風俗や習慣についてなかなか詳しくなったような気がする。

 その代わり、森の中で人間に出会ってしまったときの対処法や、円満に別れるための文書例などを羊皮紙に書いて渡しておいた。

 俺が昔、まだ人語を話せない頃、行き合わせた冒険者に簡単な言葉を習ったときのように、蜥蜴人が人間の言葉を話せれば手っ取り早いのだが、どうも声帯の作り的に無理そうなので。

 シューとかシャーとかグワとか言われても俺含めて人間には判別できんよ。

 そして2日ほど歩き続け、ソルテールの街が近くなってきたあたりで、一度別行動を申し出ることにした。


 蜥蜴人の集団には引き続き北を目指してもらい、俺とイツキだけでソルテールの街に入る。

 いつぞや世話になった冒険者の酒場『綿帽子亭』を訪れ、女将に頼んで手紙を4通書かせてもらった。

 内容は一律で帰着が2か月ほど遅れるという文面だが、ユニと領主に宛てて書いたものには出会った蜥蜴人のことも詳しく書いておいた。

 トバイ氏に宛てたものはもうちょっと単純に、トラブルが起きたので帰着が遅れるという程度にとどめておいた。

 石巨人亭の亭主に宛てては、マドリーンとエイミーを無事に送り届けたことを最初に書き、成り行きで厄介ごとに首を突っ込んで帰着が2か月程度遅れる、という内容にしておいた。

 これを金貨2枚で、ディーセンに早めに届けてもらうよう女将に依頼する。手紙の配達としては破格の報酬だが、ある意味急ぎなんだから仕方ない。

 女将が快く引き受けたのを見て、今度は公売所へと向かう。

 いや、蜥蜴人との食事は基本、生か素焼きなので調味料として塩が欲しかったのよ。

 贅沢言えば他の香辛料も欲しかったが、そこまで揃えてるときりがなくなるので、塩だけにとどめた。

 比較的不純物の少ない2級の岩塩を10kgほど買い込み、ソルテールの街を後にして蜥蜴人たちの後を追う。

 街を出たときにはもう夕暮れだったが、夜通し走り続けたおかげで翌朝には蜥蜴人たちの群れに追い付くことができた。


-2-

 そして9日ほど経過したその日、俺たちは昔懐かしい湯宿の里の近くにある、かつての俺の拠点で体を休めていた。

 俺はともかく蜥蜴人たちは1ヶ月以上も歩き詰めでここまで来たのだ。ここらで1~2日体を休め、英気を養っても罰は当たるまい。

 俺が住んでいた家はまだ残っていたが、43人が泊まるにはあまりにも狭すぎる。

 ただ、家の周りを切り拓いた空き地はまだ残っていたので、そこに4~5人が入れる草葺のシェルターを10個ほど作った後で、浴槽を巨大なものに作り替えて、蜥蜴人たちと交代で湯に浸かった。

〈これは温泉というのか。温かい水浴びというのも気持ちのいいものだな〉

 湯船に肩までつかり、目を細めながらジューワックが呟く。

《温かい湯に浸かると疲れが取れる。今まで歩き詰めだったからいい休憩になるだろう》

〈まったくだ。これで人里が近くなければ、我らの拠点にしたいところだ〉

《できれば俺もここを勧めたかったが、ここは人間の集落が割と近いし、赤大鬼も出たんだよな》

〈まことか?〉

《ああ。3匹組だったが、近くの里の人間と協力して何とか退けることができた》

〈そうか。赤大鬼が出たのか。それは残念だ〉

《ただ、この場所を覚えておいてたまに来るにはいいんじゃないかな?もしくは冬の間だけここに移動するとか。

 この辺りは温泉のせいで少しだけ暖かいしな》

〈うむ……そうだな。少し考えてみるか。この環境、これきりにするにはいささか惜しい〉

 どうやらジューワックも温泉の魅力に取りつかれたようだ。


 結局、ここの拠点では4日を過ごすことになった。

 実は2日で立つ予定だったが、出立の朝にイツキが大角鹿の群れを発見し、ジューワックに教えたところ、心もとなくなってきた食料を確保するためにも狩りをしようということになり、その後の食肉処理に追われていたからだ。

 今回初めて蜥蜴人の狩りに同行させてもらったが、剣や槍だけで弓などの飛び道具がないのにどうするもんかと見ていたら、5人ほどに分かれた班で見事な連携を見せて、次々と大角鹿を仕留めていった。

 なにこの連携の巧さ。蜥蜴人怖い。

 ただ、近接武器のみによる猟だけに、11頭いた獲物のうち半数に逃げられたのはちょっと痛いかも。

 まぁ逃げたうちの2頭は俺が追いかけて魔法で仕留めたけどね。

 それでも近接武器だけでは猟の効率があまりよろしくないので、握りこぶしほどの石3つをロープでくくって結び付けたボーラという投擲武器を作ってみせてジューワックに提案しておいた。

 ちなみになぜかは知らんが、蜥蜴人にとって弓や弩といった射撃武器はあまり好まれないらしい。

 アウトレンジがら一方的に攻撃できるそのやり方が、卑怯に思えて蜥蜴人の倫理観に触れるのだろうか。

 ボーラも見せた当初はちょっと否定的な雰囲気だったが、石を投げるのとさほど変わらないし、今のこの状態では効率重視だろう、と説得したら納得したようだ。


 ともあれ、温泉につかって汚れも疲れもとれた上に食料の補給もできたので、全体的につやつや度が増した一行は再び北を目指すことにした。

 しかしここから先は、だいぶあちこち寄り道しながら南下してきたので、道案内が少し心もとない。

 仕方がないので、森の中の街道をイツキに探ってもらいながら、街道に並行する形で森の中を歩いていくことにした。


-3-

〈ディーゴ、何かが後をつけてきてるわ〉

 それに気づいたのは、辺りを警戒していたイツキだった。

《何か?人間とか緑小鬼じゃないのか?》

〈違うわね。4本脚の動物みたい。まだ距離はあるけど、あたしたちの通った後をついてきてるわ。でもなにかしらこの感覚……前に見たことがあるような……?〉

《ふむ……なんだろな。とりあえずジューワックに伝えておくか》

 まぁ四つ足の動物1匹くらいなら、この蜥蜴人の群れにとっては食料なんだが、イツキの台詞がちょっと気になったのでジューワック達には先に進んでもらい、イツキと俺だけその場に残ることにした。

 その後も正体不明の追跡者はゆっくりと距離を詰めてきて、ついに俺たちの前に姿を現した。

「…………あれ?」

「ねぇ、これって……」

 待ち構えていた俺達の前に姿を見せたのは、一頭の痩せこけた漆黒の虎だった。

 漆黒の虎は俺たちを認めると、ぐるっと唸ってぺたりとその場に伏せた。

「……お前、もしかしていつぞやの虎か?」

 そう語りかけながらそろそろと近づく。思い出すのは3~4ヶ月くらい前か、豚鬼の小集落を討伐したところにやってきた、足に棘の刺さった漆黒虎のことだ。

 あの時は治療してやった後別れたが、またこうして追いかけてきたとなると、どうもあの時の漆黒虎と同一くさい。

 そろりと手を伸ばして顔を撫でてやると、虎はぐりぐりと頭を押し付けてきて、べろりと俺の手を舐める。

「この人懐こさはやっぱりあの時の虎か。また痩せこけてまぁ……」

 そう言って、深皿に水と干し肉を出してやる。

 虎は水を飲んだ後、がつがつと干し肉を食べ始める。前と同じように3回お代わりをしてやっと腹が落ち着いたようだ。

 ぐるっ、と唸ると、右前足を差し出してきた。

「……なんだお前、また棘でも踏み抜いたのか?」

 冗談を言いながら差し出された右前足を手に取ってみてみると

 ぶっとい棘が刺さっていた。

「……またかよ。お前、実は顔に似合わずドジっ()だな?」

 苦笑いしながら棘を引き抜き、残っていた初級の傷ポーションをちょこっとかけてやる。これでもう大丈夫なはずだ。

「さて、前回は一緒に一晩過ごして朝飯もつけてやったが……今回の俺たちはちょっと先を急いでてな。あまりお前に構ってやれねーんだ」

 虎の顔と頭を両手でわしわししながら語り掛ける。無論虎の答えはない。

「つー訳で、ちと名残惜しいがこれでお別れだ。もう棘踏み抜くなよ?」

 そう言って立ち上がると、虎も合わせたように立ち上がった。そして、俺の手をべろんと舐めてくる。

 少し待ってみたが、今度は立ち去る様子を見せない。

「なんだ?今回はついてくるってのか?」

 しゃがんで虎に目を合わせ、首周りをごしごししてやると、虎は目を閉じてごろごろと喉を鳴らした。

「今度はついてくるつもりかしらね」

「……じゃぁまぁ、好きにするといい」

 虎にそう言って歩き出すと、漆黒虎も俺の横について歩きだした。どうやら恩に着られたか気に入られたか。


 思わぬところで同行者が一頭、増えることになった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が変にモテないで、ちゃんと人外ならではの苦労をしてきてそれでも前むきに行動できるところに好感をもてました。 あとストーリーがしっかりしているのでとても読みやすいです。 [一言] 今…
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