9話 試験
夏が終わり、秋に入った。
その日も、アリスの部屋でユウコは家庭教師として、アリスに指導をしていた。
授業の前半が終わって、休憩の時間となり、アリスはふぅーと息をつき、リラックスした表情になった。
ユウコはアリスが落ち着いたのを見て、先生から聞いた話をすることにした。
「アリスさん、今日先生から聞いたんですが、アリスさんの成績がクラスで一番だったと聞きました。」
「まぁね。」ふふんと、満足そうにアリスは言った。
「それって、もしかして私の授業のおかげですか?」
「ううん。関係ないかな。」悪戯っぽい表情をしてアリスは言う。
「えっ!関係ないんですか!?」
「さぁ、どうかしら。」
ユウコは、先生からはユウコのおかげでと聞いていたし、自身の指導に手応えを感じていたため、
アリスに関係ないと言われ、内心がっくりした。
「ところで、あんたも、最近実務訓練でいい感じらしいじゃん」
ユウコは顔を上げて、アリスを見ると、アリスは笑みを浮かべている。
「はい。最近なんとか上位に食い込めるようになってきました。」
「それって私との訓練のおかげ?」
「もちろんです。アリスさんには感謝しています。」
「ふふ。そうでしょ。」
アリスは満足そうな顔を浮かべる。
「ユウコはさ。えらいよ。」
そう言うとアリスはユウコの頭を撫でる。
ユウコはアリスに頭を撫でられ、照れ臭かったが、褒められ、心が浮き足立った。
「それに私は最近なんか元気です。寮の食事はおいしいし、自分で料理作って食べたり、実務訓練もできるようになって」
「ふふ。元気ならいいじゃん。」
アリスの顔をやさしく、ユウコは元気付けられた。
ユウコは前から決めていたことをアリスに伝えることを決めた。
そして、後半の授業が終った。
息をついているアリスに、ユウコは向き合う。
「アリスさん、突然ですみません。
今日先生と話したんですが、アリスさんに伝えないといけないことがあるんです。」
アリスは普段と違うユウコの雰囲気を察したようで、表情がこわばる。
「私は来年に戦士大学入学を目指しているんです。それで審査の準備を進めないといけないんです。」
「え?飛び級するの?」
「はい。元からそうしたいと思ってたんです。家のこともあって早く卒業して働きたかったんで。」
「何よ。私には相談しないで勝手に決めて。」
アリスの表情は曇って、声には苛立っていることが伝わった。
「私には何も言わないで。」
「アリスさん、違うんです。これはアリスさんに会う前から決めていたことなんです。」
「それならなおさら、話しなさい。」
「すみません。」
ユウコはアリスにきつく言われ、落ち込む。
「アリスさんには伝えるべきでした。」
「あんたにとって、私はただの生徒なの?」
「え?」
ユウコはアリスを見ると、泣きそうになっているようだった
「私のことたいしてなんとも思ってないから、教えてくれないの?」
「それは違います。アリスさんは私にとって、大切な人なんです。」
「何それ。」
ユウコの言葉に、アリスは素っ気なく返すがそれは照れ隠しのように見えた。
「それで試験があるってだけじゃないんでしょ?」
「あ、はい。試験に向けて準備しないといけないで、しばらく家庭教師は休ませてもらおうと思ってるんです。」
「……。わかったわ。」
アリスは少し悲しそうに言った。
ユウコは帰宅するために、アリスの部屋を出る。
「試験がんばりなさいよ。」
アリスはユウコに励ましの言葉をかける。
そして、ユウコは準備期間を経て、冬に入る前に飛び級審査を受けることになった。
先生や戦士大学の先生から推薦され、ユウコ自身も自信があった。
学力テストに関しては全問解答でき、苦手な実務テストに関しても、完璧でなかったが、ユウコは手応えを感じていた。
テストを終えると、ユウコはすぐにアリスの部屋に報告に向かった。
「学力テストは問題ないと思うんですが、実務側が心配なんです。」
「ふーん。あんたの実力が出せたなら、心配しなくていいわ」
アリスはユウコにそう言った。ユウコは元気付けられた。
試験の結果は一月経たずに公開された。
学力テストは満点、苦手としていた実務テストに関しても最優秀の点数で、問題なく合格していた。
ユウコは目標としていた戦士大学に入学が決まったのだった。
決まり次第、ユウコは急いでアリスの部屋に向かう。
アリスの部屋の前で息を落ち着けてから、ノックして部屋に入る。
「無事に合格しました!」
「あっそ」アリスは興味なさそうに素っ気なく返す。
「そっけないですよー。」
「不合格になるあんたが思い浮かばなかったから。」
「えっ!?それって褒めてくれるんですか?」
「うるさい。」
アリスは顔を少し赤くして言った。
ユウコは合格を報告して、ユウコに褒めてもらいたかったが、
褒めてもらえず、しょぼんとして、アリスの部屋を出た。
出てから、廊下を少し進むと背後で気配がし、次に背中に暖かな衝撃を感じた。
「合格おめでとうっ」アリスはユウコに抱きついたのだった。
「アリスさん?」ユウコはアリスに今日に抱きつかれ、驚く。心臓が飛び跳ねるようだった。
「あんたはやっぱりすごいよ。頭もいいし、体も強くなって。」
「……。ありがとうございます。」
「それと、恥ずかしいけど。いつもありがとう。これからも勉強教えてよね。」
「……。はい、もちろんです。」
ユウコは答えた。ユウコは振り返り、アリスを抱きしめたいという衝動に駆られていたが、体が動かなかった。
ドキドキが止まらないのだ。
「それだけ。じゃあまた明日ね。」アリスはそういうと自室に戻っていった。
ユウコは落ち着くまで、廊下にひとり立っていた。
「一体何が」
ユウコはアリスに抱きつかれ、褒められたときに、心臓の高鳴りと心が締め付けられるようだった。
この気持ちは何なんだ。ユウコは思った。
何なんだ一体、まるで、まるで。……。
ユウコは自身の気持ちに気づいた。ユウコはアリスのことを愛していたのだった。
だからこそ、アリスにいつも心動かされるのだった。
そして、ユウコはアリスといる時間が何より大切だったのだ。