6話 進路変更
アリスは待ち合わせ時間より早めについたが、ユウコが先にいないことに苛立つ。
今日はユウコとアリスは二人で本を買いに出かけることにしていた。
数分待っていると、遠くからユウコが走って来る姿が見えた。
「遅いわよ。」ユウコが待ち合わせ場所につくとアリスは真っ先に行った。
「ごめんなさい。遅れてって、時間通りじゃないですか。」
「うるさい。私より早くきなさいよね。」
その日は二人で本の買い物に行くことにしていた。
ユウコは強くなるということに拘り始めたので、戦士のトレーニング方法や栄養学の本を、
アリスは外の世界が知りたいと世界史の本を買いに行きたかった。
本屋に着くと、ユウコとアリスはそれぞれの目的の本がある書棚に向かった。
アリスはいろいろな本があり、どの本がおもしろいかなと探していた。
「あれ、アリスさん?」
アリスが振り向くと、同じクラスのエリスがいた。
「……。こんにちわ、エリスさん」
「本屋さんでお会いできるなんて驚き。一人?」
「ううん。高等部の家庭教師と一緒。」
「あら、あの有名なユウコさんね。」
「有名?」
「そりゃあ。有名よ。奨学金がないと学べないくらいお家が貧乏で、図書館にこもりきりのガリ勉で、アリスさんの家庭教師となれば、そりゃあ。」
アリスは薄々と感じていたが、ユウコは学内では浮いているらしいのだった。
「ユウコさんは、アリスさんと不釣り合いなんじゃないかしら?」
「そうかな」
「だって、ユウコさんって小さい骸骨みたいで、二人が揃っているのを見ると、どっちが後輩かわからないわ。」
エリスは嘲笑するように話す。アリスは気分が悪くなる。
「ユウコはすごいよ。確かに変わってて、体は弱いかもだけど、
誰よりも自分の考えを持っている。」
「あら、アリスさんはユウコさんのことお嫌いなんじゃなかったかしら?」
「それは、、」
「えっとアリスさん?」
アリスが振り返るとユウコがいた。
エリスは「それではまた。」と言うとそそくさと去っていった。
「私のこと庇ってくれました?」
「別に。」アリスは素っ気なく返す。
「私、小さい頃に一人で過ごす時間が長くって、あんまりクラスメートと仲良くするの苦手なんです。
それで、変わってるってよく言われてたんです。」白状するようにユウコはアリスに言った。
「ふん、あんたは変わってるわ。私も最初あんたのこと嫌いだったし。」
「……。やっぱりそうだったんですね。」
「あんたは体は貧弱で、着ている服も貧乏くさくて、学園に不釣り合いと思ってたわ。」
「……。」
「でも、今は違うから。あなたの中身は立派な戦士学校の生徒よ。」
ユウコはアリスに振り向いた。その顔はうれしそうだった。
「アリスさん、ありがとうございます。」
次の日、アリスはまじめに授業に出ていて、グラウンドを見ると
なんとユウコが走り込んでいる姿が見えた。
「?」アリスはその意図がよくわからなかった。
ユウコがグラウンドから消えるとアリスは図書室に向かった。
図書室に着くと案の定そこにはユウコがいた。
「ユウコ、あんたなんでグラウンド走ってたの?」
「うわっと。アリスさん、今授業中なんじゃ。」
「あんたもでしょ。」
「まぁそうなんですが。」
ユウコはタオルで顔の汗を拭きながら話す。汗の量からして相当きつかったようだ。
「ちょっと、体を鍛えていこうかなって思い直したんです。」
「へぇ、あんたがねぇ。」
アリスはユウコの体を見て、体の小ささと、その線の細さを見る。
とても、体を動かすタイプには見えなかった。
「でも、なんで急に始めたの?」
「それは秘密です。」
「何よ。いいなさいよ。」
アリスはユウコにずいと近寄り、ユウコを見下ろす。
「わかりました。言います、言います。」
ユウコはアリスの目線に耐えきれず白状するしかなかった。
「私は本当は卒業したら、戦士大学に入って、司令官を目指すつもりだったんですが、今は戦士になろうと思ってて。」
「あんたバカ?スライムに勝てないくらいだったのに。」
「でも、最近少しずつ、体力ついてきたんですよ。」そういうとユウコは腕の曲げ、上腕二頭筋を強調しようとする。
「どこがよ。私より細いんじゃない。」
「これでも前より強くなったんです。」
「で、大学の戦士コースの点数は学業が50%、実務試験が50%と学業の比率が案外高いんです。」
「私の父親も体だけ強くても魔物には勝てないっていつも言ってたから。」
「でも、学力テスト満点でも、実務が0点だと、合格点に到達できなそうなんです。」
「まぁそうなるわね。」
釈然としない思いで、アリスはユウコの話を聞いていた。
「そもそも、なんで戦士になろうって言い出したの?」
「それは、、」
「この前に、私の家に来たことと何か関係あるの?」
「ないって言うと嘘になりますね。」
ユウコは苦笑いする。
「私は、体が弱く戦士になろうなんて、露ほども思えなかったんです。
でも、アリスさんのお父様と話して、戦士に興味持って調べてたんです。
調べているとアリスさんのお父さんが戦士になった理由もわかっていって、戦士になることに興味が湧いてきたんです。
それで、自分でどこまでいけるか、挑戦する気になりました。」
「あんた、別にそんなの気にしなくていいのに。」
「ついつい、気になっちゃうんで。」ユウコは笑いながら言った。
「それに、何よりアリスさんに釣り合う人になりたいんで。」ユウコの目は真剣そのものだった。
「あんたはすごいわ。」
「え?」
「自分で自分の道を開いている。自由に生きてる。」
「がんばってますからね。」
「私もそうなりたい。」
「アリスさんも絶対なれます。」
「本当にそう思う?」
「保証します。私もお手伝いします。」
「ふん。」そういうとアリスはユウコの手を取る。
「帰るわよ。」アリスはユウコのことが好きになってきていた。




