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虚弱少女戦士  作者: yucury
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5話 家庭訪問

その日も、ユウコは放課後に家庭教師として、アリスの部屋に向かった。

ユウコがアリスの部屋に入ると、アリスはぐっと近寄ってきた。

「ユウコ、あんた今週の土曜日うちに来なさい。」

「え?アリスさん?」唐突にアリスに言われユウコは驚いた。

「来るの?来ないの?」

「ええ。もちろん行きます。でも何で?」

「父から最近家に帰ってないから、帰れって言われてて。

で先生が、家庭教師の話をしちゃったみたいで連れてくるようにって。」

「へー。」

ユウコはアリスの父である理事長のことを思い浮かべた。

直接会ったことはなかったが、学内で何度か見かけたことがあり、

そのときの印象では、大きく強そうなやさしいおじさんという感じがしていた。


「何か準備してったほうがいいんでしょうか?」

「別にいらないわ。でも少しは強そうに見せるようにしなさい。」

「強くですか?」

「ええ。父は強い人が好きだから。」

「うーん。」ユウコは強さとは程遠いところにいたので、強く見せるということがわからなかった。

「まぁ、あんたには無理でしょうけど」

「へへへ。確かに強さがよくわかりません。」ユウコはそう苦笑いした。


ユウコは授業で指導している最中も、部屋に戻ってからも、強さとはとずっと考え続けた。

そして、強さを図書館で調べることにした。

「強さは周りに比べて優れているところ、か。」

ユウコは自身の強さを考えると力はなかったが、その分勉強をがんばり、学力こそが強さだった。

しかし、アリスの中では強さの尺度は戦士として戦うための力、すなわち戦闘力にあるようだった。

ユウコは小さい頃には、いつも病気と闘ってきていたが、体は弱く戦うということはできなかった。

高校生になると体調は安定してきていたが、スライムに倒されてしまったくらいで、戦闘力は皆無に近かった。

「強さがないのに、強く見せるなんて無理だから……。」ユウコはつぶやいた。


そして土曜日になり、アリスの案内されるまま学園近くのアリスの家に向かった。

アリスの家は広く立派な屋敷で、訓練施設も備えているようだった。

こんな近くなら寮に入らなくてもいいのに、とユウコは思った。

屋敷の玄関口に着くと使用人に応接室まで案内された。そこにはアリスの父が既に席についていた。

「アリスがお世話になっています。」

アリスの父は礼儀良くユウコに手を差し出す。ユウコもその手を掴む。

その手は厚く、ユウコは迫力を感じるしかなかった。

「いえ、こちらこそお世話になっています。」


「アリスは学業がおろそかになってたのに最近伸びてきたと聞いて驚きました。」

「アリスさんは頑張られましたから。」

「いえ、なんでもユウコさんの指導が良いと担任から聞いています。さらにユウコさんは学内一の秀才とか。」

「そんな、たいしたものではありません。」

「謙遜しなくても。」

「ただ、担任の方から聞きましたが、お体は強くないんですね」

「はい、あまり。」

「それは惜しいですね。戦士学の実務方面に強ければ是非とも戦士隊に入隊して欲しかったんですが。」

アリスの父は真面目な顔をして言う。

戦士隊とは優秀な戦士から編成される軍隊で、戦士高校や大学を卒業する一握りの生徒が選抜されて構成されていた。

強力な魔物が現れるなど有事の際にまっさきに派遣され、町の平和を守る役目を担っていたのだ。


「戦士学の実務なら、アリスさんが優れていると思います。」

ユウコはアリスを振り向いた。するとアリスの顔色が曇っていた。

「私もアリスには入隊して欲しかったんです。」

父親の発言に、アリスはユウコが普段見ない苦い顔になった。

「私部屋に戻るから。」アリスはそう言う、逃げるように部屋を出て行った。

ユウコはまずいことを言ったと察した。


「もうお気づきだと思いますが、私とアリスの関係はうまくいっていません。」

「えっ?」

「アリスには小さい頃から戦士学を学ばせてきました。

戦士の素質があって、小さい頃は何事も吸収し、この家を継いでもらうつもりでした。

でも、徐々にアリスは苦痛や怖さから逃げ出すようになっていきました。」

「逃げ出す?」

「中等部に入るための試験があり、精神的に疲弊していたのでしょうが、

アリスは勉強や訓練をサボるようになったんです。私は初めてきつく怒りました。」

「……。」

「なんとか中等部に入れることになったんですが、

入学式の前にアリスから戦士にはならないと言われました。

そして、家を出て寮に入ってからは、打ち解けて話すことができていません。」

「そんなことあったんですね。」

ユウコはアリスと父親の関係がわかってきた気がした。


「アリスは中学を卒業するとともに婚約者であるこの町一番の戦士と一緒の家に住むことになっています。」

「え?」突拍子もない話にユウコは驚いた。

「その様子だとアリスから聞いてないようですね。」

「はい、婚約者がいるなんて、初めて聞きました。」

「具体的な相手までは決まってはいないですが、候補はいます。」

アリスの父親は寂しそうな顔をして言った。そこには自身も本当は望んでいないことが見て取れた。


「私は今でも本当はアリスに後をついで戦士になって欲しいんです。

でも、アリスは諦めてしまいました。それでも私たちの家系を継ぐのは戦士でないといけない。

その折衷案としてそうなることになりました。」

「お言葉ですが、アリスさんはどんどん伸びていきます。そして、変わっていかれると思います。」

「本当にそうだといいんですが、小さい頃から飽きっぽくて。何より将来について何も考えていないようで」

「それは、学ぶ重要性や自分の可能性がわかってなかったからです。やっとアリスさんのやる気がなかった理由がわかった気がします。

アリスさんは未来の自身の姿が想像つかなくなっているんです。何か学んで世を変えたいと思ってもそれができない思われています。」


「……。今のアリスにそれができると思いますか?」

アリスの父親は冷たく言った。その発言にユウコは強く苛立ちを覚えた。

「できます。アリスさんは素晴らしく、可能性のある人です。」

ユウコはアリスの父親に強く言った。


「ユウコさん、今日はわざわざご足労いただいてありがとうございました。」

「こちらこそ、お話ありがとうございます。」

「ユウコさんはアリスにとって今までにない友人だと思います。これからもアリスをよろしくお願いします。」

アリスの父親は丁寧に頭を下げる。ユウコも同じように頭を下げた。

頭をあげるとアリスの父親は優しい顔をしていた。


「ユウコさんが強い男性であれば良かったのに。」

「だったたら何なんですか?」

「あなたみたいな人がアリスのそばにいて、この家を継いでくれたら安心して任せられるのに。」

「私は私です。」ユウコは泰然と言って、部屋を後にした。


応接室を出るとアリスが廊下で待っていた。

「遅い。ユウコ、帰るわよ。」

「アリスさん、お父様と最後話していかないんですか?」

「母と話したから、大丈夫よ。」

そういうとアリスはユウコの手を取って、足早に屋敷を後にした。


屋敷を出るとアリスは立ち止まり、ユウコの手を握ったまま、ユウコと向かい合った。

アリスの顔は心なしか赤くなっているようだった。

「あんた、私のこと庇ってくれたの?」

ユウコはアリスが廊下で、中の話を聞いていたことを知った。

「庇ったわけではないです。私の思いを話しただけです。」

「あっそ。」

そう言うとアリスはそっぽを向いて歩き出した。

「うれしかったよ」アリスは小さい声で言った。


アリスと別れ、自室に戻った時には、ユウコには考えがあった。

「よし、変えよう。」

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