19話 生贄
ユウコは、魔王に取り憑かれたディーオにアリスを人質に取られ、
対策を考えていたが、取れる対策はないかのようだった。
「アリスさんを離せ。」ユウコはそう言うことしたできなかった。
「武器を捨てろ。さもないと」魔王は冷たい声でユウコに命令する。
「わかった。だから、アリスさんには手を出すな。」
「ユウコ、こいつの言うことを聞いちゃダメ。」
アリスの声が聞こえたが、最愛の人を取られたユウコには、どうすることもできなかった。
ユウコは持っている魔王討伐用の剣を投げ捨てた。
そして、魔王が光を放出すると剣は無残にも砕け散った。
魔王はユウコを見ると怪しい笑みが浮かんだ。
そして、その姿は容れ物のディーオの姿から、迷宮で見た魔王そのものの姿に変わった。
「私を封印まで追い込んだあいつの娘だな。」
魔王はそう言うと針を吹き出す。
ユウコはとっさのことに対応できず、針は胸に突き刺さる。
「あっ、」
ユウコは地面に倒れた。魔王はユウコに毒針を放出したのだった。
そして、その毒はユウコの父親が倒されたものだった。
「ユウコ!」アリスはユウコに声をかけるが、ユウコは倒れたまま起き上がらない。
「アリスさん、すみません。私が……。」
弱々しい声でユウコはアリスに謝罪する。
アリスは駆け寄りたくても捕らえられ、その痛ましい姿をただ見ているしかなかった。
「これで、この町は再び我がものとなる。」
魔王はそう言うとアリスを連れ、家を後にした。
残されたユウコは死に絶えたように地面にはいつくばっていた。
魔王は外に出ると、町を闊歩した。町の人々は魔王の姿に驚き、逃げ惑う。
魔王は笑いながらその姿を見ていた。
「人間どもよ。お前たちの戦士どもは私が叩き潰した。
10名の生娘の生贄を捧げよ。そして、戦士の根城を教えよ。」
魔王はそう叫ぶが、しばらくすると町には人っ子ひとり姿が見えなくなった。
町の人々は、隠れ家に入ったようだった。
魔王も異変に気付き、家々を回るが、そこには人の姿はなかった。
魔王はアリスの方を向く。
「娘よ、どこに人々が隠れているか、おまえは知っているのだろう?」
「知っていても教えるわけない。」
アリスは隠れ先を知っていたが、答えるわけにはいかなかった。
「言わないと命はないと思え。」
アリスは答えようとしない。魔王はアリスの顔に手を当て、光を放出しようとする。
「アリスさんを離しなさい。」
目の前にアリスの友人であるメグミが短刀を構え、立ちはだかった。
しかし、顔は青白く、体は震えているようで、魔王に立ち向かえるようには見えなかった。
「メグミ、来ちゃダメ!」
「まずは一人。」
そういうと魔王の手から光が飛び、メグミを包み込む。
光が消えると、メグミは膝をつき、呆然とした顔をしていた。
魔王は、一瞬のうちにメグミをただの人形としてしまっていた。
メグミは持っていた短刀を自身のクビに当てる。
「メグミ!やめて。」
「もし、人間どもの居場所を言わないのならば、今すぐにあの娘の命を奪うぞ。」
「……。わかったわ。」
そう言うとアリスは隠れ家であり、戦士の居城である戦士大学の場所を示した。
魔王はそれを聞くと、不気味な笑い声をあげ、アリスと意識のないメグミを残し、進んでいった。
残されたアリスは悔しかった。ユウコや父親は倒され、仲間達が襲われることに、自身は何もできないことが悔しかった。
アリスは内ポケットに忍ばしていた短刀に触れる。
魔王は、戦士の居城である学園を見つけると、建物に攻撃を加える。
中に隠れていた人々は驚き、外に出てくるが、魔王は見つけ次第に次々と戦士や隠れていた町の人々を襲い始めた。
戦士達は抵抗しようとするも、蹴散らされ、魔王の強さに怯え、逃げることしかできなくなっていった。
そして、魔王は大きな光を出すと、大学や高校の校舎は無残にも崩壊し、後には瓦礫だけが残った。
「今すぐに生贄を10名捧げよ。」呆然とする人々の前で魔王は咆哮する。
町の人々はその姿を見て、町は以前の魔王の支配された町になるとしか思えなかった。
「私が生贄になるわ。」
アリスは魔王の元に歩いていった。
「きさまには助けになったから、逃がしてやったのに、わざわざ生贄になるとは。」
そういうと魔王はアリスに手を向け、光を出した。
アリスはその光を避け、魔王に向かって飛び込む。
そして、懐に飛び込み、アリスは短刀を魔王に突き立てた。
しかし、短刀は無残にも折れた。魔王には通常の武器ではたいしたダメージを与えられないのだった。
「バカな小娘だ。」
そう言うと魔王はアリスを捕らえる。
「くそ、離せ。」自信の父親と同じようにこの町を守りたかったが、魔王にはまったく歯が立たず、アリスは悔しむ。
「生贄はあと9名だ。」
魔王は人々に冷酷に伝える。人々は誰が行くのかとお互いに顔を見合わせることしかできなかった。
するとひとり、ローブを被った女が手を挙げた。
「私が出よう。」
「殊勝なやつだ。あと8名だ。」
魔王はローブの女に光を放出した。その光はローブに当たり、ローブは跳ね飛んだ。
しかし、女の姿はそこにはなかった。
気づけば、アリスを捕らえる魔王の腕が切り離されていた。
魔王のすぐそばに女が近づいていた。
「何!?」 魔王は驚きの声を上げる。
「アリス逃げて。」
それはユウコだった。ユウコは再度魔王に対し、切りつける。
魔王は後ろに下がり、直撃を避けたが、体には切りつけられた跡が残っていた。
「貴様は毒針で倒れたはずじゃ。」
「お前の毒は私には効かない。」
ユウコは幼少の頃から魔王の毒で弱められていたが、高等部で完治していた。
それは体に毒に対しての抵抗力がついたからだったのだ。
「しかし、剣は砕いたはず。どうしてお前はそれを持ってるんだ。」
「魔王討伐の予備はいくつも用意している。」
「なんてやつだ。」
魔王はユウコの徹底具合に驚いているようだったが、怪しい笑みが浮かんでいる。
ユウコはアリスの前に立ち、魔王に睨みをかける。
ユウコと魔王はにらみ合っていた。
アリスはユウコが無事でいてくれて、助けに来てくれたことを喜んでいた。
後ろから見るユウコの姿は光り輝いていて、アリスはユウコはアリスを明るく照らす光だと思った。