17話 魔王
討伐隊は北上の迷宮に到着すると、ダンジョンを突き進んで行った。
道中で何人かの戦士たちは怪我をし、町に戻っていった。
残った戦士たちも傷つき、消耗していたが、ユウコは傷一つついていなかった。
「ユウコさんは本当にお強い。」
討伐隊を率いるアリスの父親はユウコの奮闘ぶりを見て、笑いながら言った。
「いえ、そんなことは。」
「まるで昔の私のようだ。」
「そうなんですか?」
「私も初めて魔王の元に向かった時は傷つきませんでした。
そして、ユウコさんのお父上も。」
寂しそうにアリスの父親は言った。
ユウコはその言葉から気を抜くなという、アリスの父親の気持ちが伝わってきた。
奥深くに進むに連れて魔物たちは強くなっていき、帰還するものは増えていったが、討伐隊は進んでいった。
そして、城壁のような厚い門で閉ざされる場所にたどり着いた。
「ここは、昔我々が魔王を追い詰め、封じた場所のはずです。しかし、門で閉ざされている……」
アリスの父親がそう呟いた。門があるとは想定外で、準備できていなかったのだ。
「門から離れていてもらえますか?」
そういうとユウコはカバンから大きな黒い箱を取り出す。
「ユウコさん?それは一体?」
「こういうこともあろうかと、爆薬を仕込んでいたんです。」
ユウコは門から討伐隊のメンバーを離れさせると、爆弾を入り口に配置し、起爆させる。
門はあっけなく崩れ落ちる。
「この門を破るとはな。」
ユウコが双眼鏡で、煙っている門の中を見ると、そこにはきらびやかな羽織をかぶり魔道士のような格好をしたものがいた。
表情は読み取れないが討伐隊の周りの空気が急に寒くなったかのような威圧を感じる。
「とうとう出てきたな。」アリスの父親ががぼそり言った。
それは魔王だった。即座に、ユウコは二つ目の爆薬を取り出すと、門に向かって投げ込み、爆破スイッチを押した。
「何っ!!」大きな爆音がして、魔王は奥に吹き飛ばされる。
「ユウコさん?」
「こういうこともあろかうと爆弾は何個か用意してたんです。」
「なんというひきょ……。策略を……。」
アリスの父親は呆然と見ていた。
奥に向かうと魔王が苦しそうにしていた。
「くそが、、」
先陣隊として率先して門の中に入り込み、魔王を見つけるとユウコは、事前に用意していた魔王にもダメージ与えられる剣を構えトドメを刺そうと突き進む。
魔王はすでに爆薬で大きなダメージを受けているようで、本来の力が出せないようだった。
一方でユウコはまったくの無駄がなく、魔王を壁際に追い詰める。そして、剣を魔王に突き立てた。
「くそがぁぁぁ。」
魔王はそう叫ぶ、そして力なく地面に倒れこんだ。
「やったのか?」
まだ戦闘態勢を解いていないユウコを押しのけ、選抜隊のリーダであるディーオが魔王にそう言いながら近寄る。
魔王はそこで死に絶えていた。
「魔王討伐完了です。」ディーオがそう叫ぶと全員から歓声が上がる。
ユウコはその声は無視して、二度と復活することないよう、
火をくべて、魔王の亡骸を燃え尽くそうとしていた。
「ユウコさんは本当に首尾徹底してますね。素晴らしいです。」
気づけば、アリスの父親も討伐隊の歓声を無視して、ユウコの側で魔王の亡骸を眺める。
ユウコは封印の印を地面に刻むと火をくべた。亡骸は燃えさかり、最後は灰だけが残った。
「その徹底具合は本当に君のお父上のようです。」
「こういないと気が済まないんです。」
そういうと町を出てから初めてユウコは笑った。
ユウコは町を出てから一切、気を抜くことがなかったのだった。
魔王の討伐を完了し、意気揚々と討伐隊は町に戻ることになった。
とうとう憎っくき魔王を倒し、アリスの父を含め一同は喜びに満ち溢れていた。
その帰り道に、ディーオがユウコに近寄る。
ディーオの表情は、魔王討伐に役立てず、お手柄をユウコに取られたことが悔しかったのか、不機嫌そうな表情をしていた。
「ユウコ、お疲れ。」
「お疲れ様です。ディーオさん。」
「結局、魔王は対したことなかったみたいだな。」
「そんなことないですよ。あの雰囲気からすると最初を抑えてなかったら、皆やられていた可能性が高いです。」
「なんだよ。お前が最初に卑怯にも爆弾を使って追い込んだから、倒せたっていいたいのかよ。」
「そこまでは言ってません。」ユウコもムッとして、ディーオに向き合う。
「お前は本当に気にくわないな。気づいたら、理事長の小娘も手なづけて。挙句、魔王退治も何もかも、俺から奪いやがって。」
ディーオはそう言うと酷く醜い顔をして、ユウコを睨みつける。
ユウコはディーオの感じていた気持ちに驚くとともに、何か違和感を感じた。