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虚弱少女戦士  作者: yucury
15/21

15話 花嫁修行と真実

アリスはユウコと引き離され、気づけば冬になっていた。

アリスは家の外には出れず、閉じ込められた生活を送っていた。


アリスは中等部の成績が良く、何より父親である理事長の指示もあり、授業免除となり、出席は不要で卒業は確定していた。

そのため、家では料理など花嫁修行をさせられていた。

案外花嫁修行で家事に取り組むのは楽しくもあったが、アリスは学校に戻っていろいろなことを学びたかったし、ユウコとも会いたかった。


その日は料理の授業で、アリスは講師に教えてもらいながら、前菜からメインディッシュまで作っていた。

しかし、なかなか料理がうまく作れず苦戦していた。味見をしてもピンと来る味にならなかった。

「なかなかうまくできないわね。ユウコにでも食べさせたくなる味だわ。」

アリスはコトコト鍋で煮込んでいる最中に呟くように言った。

「ふふ。またユウコさんですか。ユウコさんってそんな素敵な方なんですね。」

教師を務める講師の先生が言う。

「全然よ。ただのアホたれよ。」

「ふふ。」

「会った時は本当にひ弱で、でも気づけば成長して大きくなって雰囲気変わったように見えるけど、

中身は同じで。大バカものよ。」

「でも婚約の話でアリスさんを助けようとしてくれたんですよね。」

「うん、ユウコはね、いつも私のことを考えてくれて、やさしいところはあるんだ。」

「好きだったんですね」

「なんでそうなるのよ!あんなやつ大嫌いよ!」

「あら?ユウコさんがアリスさんのことをって言いたかったんですが。あらあらうふふ。」

赤くなったアリスを見て、講師はからかうように笑う。

アリスもつられて笑う。

アリスは口では嫌いと言っていたが、本心は違うことには気づいていたが、素直にはなれなかった。


その日の授業が終わり、アリスは部屋に戻る。

部屋はユウコに教えてもらった本があり、授業で作った微妙な味のクッキーを食べながらアリスはそれを読んでいた。

すると、窓の方からガタリと音がした。不思議に思い、アリスが窓の方を見るとそこにはユウコの顔が見えた。

ユウコはアリスに静かにと手で合図すると、スーッと窓を開き中に入ってきた。

ユウコの格好は黒ずくめでぴっちりした服装でまるでスパイのようだった。


部屋に入るとユウコはアリスを向く。その目は潤んでいて顔も赤るんでいた。

「アリスさん、迎えに来ました。」

「ユウコ、どうやって入ってきたの?入り口や中は父の部下が見張ってるはずなのに。」

「今はみんな静かに眠ってますよ。」

ユウコは外を見ながら、笑みを浮かべる。

そして、真剣な眼差しでアリスに向き合った。


「アリスさんの机の上に置いてあった告白の返事を読みました。アリスさんも私のことを」

「えっ!?それを言いに来たの?」

「あっ、いえ、アリスさんを救い出しに来たんです。でもアリスさんの手紙の話もずっとしたかったので。」

「今はいいから、そんなこと。」

「そんなことじゃあないです。私にとって初めての告白でそれが受け入れてもらえて私は嬉しかったんです。」

「あんたねぇ。」

アリスはユウコがこんなときにそんな話をと思ったが、ユウコらしい気がして微笑んだ。

「アリスさん。」そう言うとユウコはアリスに近づき、アリスの肩に手を乗せる。

「ユウコ……。」

二人の距離が縮まっていく。


あともう少しで、というところでバーンと部屋のドアが開く音がした。

ユウコがとっさにアリスの前にたち振り向くとそこにはアリスの父親が立っていた。


「ユウコさんだね。よくここまで入ってこれましたね。私の部下たちを一体どうしたんですか?」

「しばらく眠ってもらっています。明日になれば目を覚ますはずです。理事長の部屋にも撒き散らしたはずなんですが。」

「煙に気づき、間一髪でしたが嗅ぐ前に窓から飛び出ました。」

「薄い煙なのによく気づかれましたね。」

「観察力と危機察知能力は魔物討伐には必須なんでね。」

アリスの父親はそう言うと戦闘態勢に入る。体からは闘気が溢れていていた。

しかし、ユウコを見るとその気には押されておらず、余裕を感じる表情をしていた。


「ユウコさん、君はまた強くなったみたいですね。」

アリスの父親はドアの前で立ち止まったまま、ユウコに言った。それはユウコに近づけないかのようだった。

「はい、今回は失敗できないので念入りに準備してきました。」

「私に恐れないところを見ると、すでに見切られているのかな。」

「学内でも訓練場でも理事長の動きは観察させてもらってましした。」

「なるほど。」

そう言うと理事長から闘気が消えていった。

アリスは今の間に勝負がついたことがわかった。


「ユウコさん、私の話を聞いてもらえないでしょうか?」

「お伺いします。」

「迷宮に封じめられた魔王の話は知ってますよね。」

「えぇ。理事長が封じ込めた魔王ですよね。」

「そう言わざる得なかったんです。ですが、本当はただ弱っているだけなんです。」

「どういうことなんですか?」

「封印は不完全で魔王の力を弱めただけなんです。

そして、魔王が復活するのは時間の問題です。いやもうすでに復活し力を蓄えている可能性が高いのです。」


「では、なぜ弱っている間に討伐に行かなかったんですか?」

「私一人と残された人員では太刀打ちできず、倒せないのがわかっていたからです。強い助太刀が必要だったんです。」

アリスの父親が弱々しく言い、そしてユウコの方を向いた。

「私たちが魔王を封印に行ったときには、ユウコさんの父上がいました。」

「私の父親?」

「えぇ。あなたのお父上はこの町一番の戦士でした。そして魔王を町から追い払い、北上の迷宮まで追い込むことに一役買われました。

しかし、迷宮で魔王の策に嵌り、毒を浴びてしまったんです。

我々は魔王をあともう一息というところまで追い込んだのに、町に撤退せざる得ない状況になりました。」

「そんな、ことが。」

「町に戻って、治療を受けたのですが、毒に対して処置の施しようはありませんでした。

お父上は徐々に弱くなられていき、最後はあなたのお母上に看取られ、お亡くなりになったのです。」

「……。」ユウコはただ寂しそうな顔をして、静かに話を聞いていた。

「ですが、あなたのお父上は最後に、希望を残されていたんです。

ユウコさん、あなたを宿されていかれたんです。」


「私の体が弱かった理由ってもしかして、」

「えぇ。恐らくは魔王の毒でしょう。」

「そんな。」

「しかし、あなたはそれを耐え切った。お父上が耐えきれなかった毒をです。」

「……。」

ユウコは今まで知らなかった自身の出生の話を聞き、驚いた表情をしていた。


「私にとって、魔王討伐は、悲願なんです。魔王は信じられないくらい強く、一対一でやりあうと敵わないんです。

だから、私は戦士大学を創設し、戦士隊を整備しました。ここでディーオ君など優秀な戦士を育成するには理由があったんです。

迷宮の中で、魔王はまだ生き長らえています。そして、私が生きているうちに退治することが私の最後の役割なんです。」

アリスの父親の目には涙が浮かんでいて、その姿から気持ちが伝わってくるようだった。


「私は優秀な戦士を育てようとしましたが、あなたほどの戦士は出てきませなんでした。

小さい頃のあなたを見た時に、この子は長くはないと思っていた私の見かけは誤りでした。あなたはお父上以上に立派な戦士に育たれています。

ユウコさん。お願いします。魔王討伐に力を貸してください。」

アリスの父親はユウコに頭を下げた。


「理事長、もし私が魔王を討伐できたら、アリスさんの話はなかったことにしていただけますか?

アリスさんの未来はアリスさんの自由に選べるようにしてくれますか?」

「はい、約束します。」

「私がアリスに婚約者をつけようとしたのはあなたのお父上と同じようなことになったときに、しっかり後継者を残せるようにしたかっただけなんです。」

「お父さん……。」

アリスは婚約の話は、魔王討伐とユウコの父親の話に関わりがあったとは知らず、何も言えなかった。

「アリスは本当に素敵なお相手を見つけたんだね。」

アリスの父親はアリスに振り向き、やさしい顔をしていった。アリスは本当に久しぶりに父親のそんな表情を見た気がした。


その日、ユウコはアリスの隣の部屋に泊まらせてもらうことになったが、

アリスはユウコに話したいことがあったので、ユウコが部屋に行く前に自室に迎えた。

そして、二人はアリスのペッドを席にして、隣同士に座りあった。

「あんた、魔王討伐とか何考えてんの?」

「正直なところ、私もそんなことを考えたことがなかったので驚いています。」

「じゃあ別に、そんな危ないことしなくていいじゃない。」

「確かにそうかもしれません。でも、魔王が復活し、町に来るかもしれないんです。

それに私の父親が魔王からこの町を守り、魔王の毒にやられたと聞いた以上、私も立ち上がらなくてはならないと思っています。」

「ユウコ……。」

「私はこの町が好きですし、何よりアリスさんの自由がかかっているんです。」

「私のことはいいから。」

「では、私のためにです。アリスさん、魔王討伐した暁には、暁には私と結婚してください。」

「!?あんた段階二、三個吹っ飛ばしてるわよ!」

「すいません。では正式にお付き合いしてください。」

「だ、だれがあんたなんかと。」

「えぇ!手紙には愛してるって書いてあったのに。」

「手紙はいいの。あんたは……。相手が目の前にいるならちゃんといいなさいよ。」

そういうとアリスはユウコをじっと見つめる。ユウコの目にも熱が宿り、ユウコを見つめる。


「私はアリスさんを愛しています。」

「……。」

アリスはドキドキしていた。そしてユウコのことを愛おしく思わないでいられないなかった。

アリスはこの気持ちが愛しているということなんだ、とわかった気がした。

「私もユウコのこと多分愛してる。」

ユウコはアリスをそっと抱きしめた。アリスもユウコを抱きしめ返した。


「今日は部屋に戻ります。アリスさん、大好きです。」

そういうと、ユウコは自室に戻った。

アリスは胸が高鳴り、今までにないくらい幸せな気持ちになっていた。

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