14話 再起
ユウコは駆け落ちに失敗し、無様に家に戻った。
そして、次の日から大学内でも学外でもユウコは監視されていると感じていた。
どうも、ディーオ一人だけでは役不足となったのか、戦士大学の他の生徒たちや先生もユウコの監視をしているようだった。
居心地の悪い状況の中、アリスを探して寮や中等部に向かったがアリスはいなかった。
中等部の先生に聞くと、アリスは成績が良く授業免除になり、家庭学習に切り替えるということだった。
ユウコは引っ掛かりを感じつつ、職員室を出るとそこにはアリスと同じくらいの背丈の女の子がいた。
「もしかしてユウコさんですか?私はアリスさんと同じクラスのエリスと言います。」
「エリスさん?アリスさんのお友達の?」
ユウコはアリスから友達の話を聞いていたので、この子のことに違いないとピンと来た。
「そう思ってもらえてたら嬉しいです。アリスさんのことでお話ししたいことがあります。」
そう言うとエリスはユウコの手を取り、教室まで案内される。
エリスはユウコを教室の中に案内するとユウコに振り返る。
「アリスさんは今はお家に軟禁されていて、外に出ることが禁じられているみたいです。」
「どうしてそれを?」
「私の姉がアリスさんの家で働いているので聞いたんです。
先生たちはアリスさんの成績が良くて家庭学習のためと言われてましたが、
本当は駆け落ちしようとして、それが見つかり、また同じようなことが繰り返さないように家に閉じ込められているみたいです。」
「そうなんですか、、。」
「ユウコさん、駆け落ちしようとしたのはあなたではないですか?」
「……。もしそうですって言ったらどうします?」
「もしそうなら、アリスさんを救って頂けないでしょうか?」
エリスは真剣な眼差しでユウコを見る。
「アリスさんは今は家で婚約のための花嫁修行をさせられているみたいです。
でも、その婚約はアリスさん気持ちを無視して進められています。今の段階なら、助けられるはずなんです。」
「エリスさんは、アリスさんのことを大切に思ってくれてたんですね。」
「はい、本当は私が救い出したいくらいです。でも私には……。」
「教えてくれて、ありがとうございます。」
ユウコはそう言うと、グラウンドを見る。
「アリスさんの家は兵で囲われ、理事長の部下である戦士隊によって守られているので、簡単には入れないでしょう。」
「はい、私一度行ったことありますが、簡単ではないでしょう。」
「でも、聞いたところ、今日はアリスさんは荷物を引き取りに一度、寮に来るみたいなんです。」
「……。」
「もし、寮で待ち構えるならお手伝いします。」
「エリスさん、ありがとう。」
ユウコはエリスに頭を深く下げる。
「では、まずは校舎周りにいる監視者をなんとかしないと。」
ユウコはそう呟く。グラウンドを見たときに何人か怪しい人影に気付いていたのだった。
ユウコは駆け落ちの失敗を繰り返さないように学んでいた。
二度とあとをつけられることは避けなれればならなかった。
ユウコは、監視者をあっさりとかわし、エリスに匿ってもらい、寮のアリスの部屋のクローゼットの中に隠れていた。
しばらく、待ち構えていると複数人の入ってくる気配がした。
その中の一人はアリスだったが、他は数名の付き人で、部屋の入り口や寮の外にも人がいるようだった。
数が数だけにユウコは出られなかった。
「ユウコさん、どうしてそんなところにいるんですか?ちょっと待ってください。」
遠くから、エリスの声が聞こえた。驚いた付き人たちはその声の元に向かい、部屋にはアリス一人残された。
エリスがチャンスを与えてくれたことにユウコは感謝した。
そして、クローゼットを少し開けてユウコは顔を出した。
「アリスさん」静かにユウコはアリスに声をかける。
「ユウコなの?」
「はい。」
アリスの顔には一瞬笑みが浮かんだが、すぐに悲しい表情になった。
「最後に会いに来てくれたの?」
「いいえ、アリスさんを助けたいと思って会いにきました。」
「ありがとう。でも今は父と戦士隊が外や寮の中に来てるの。」
「そうなんですか、。」
ユウコはアリスの父親がそこまで厳重にアリスを警護しているとは思わず驚く。
さすがにユウコは大人数を相手にアリスを連れて逃げ出せないことはわかっていた。
「私、今ね、家で花嫁修業を積んでるの。」
「……。」
「もう、学校で学べないみたい。ユウコとも会えないかもしれない。」
「なんで、そんなことに。」
「この冬に北上の迷宮に魔王の討伐隊が行くんだって。魔王たちを討伐したら、
私は討伐隊のリーダと結婚することになってるの。」
「そんな。」
「討伐隊のリーダは、いけ好かないあの婚約者よ。」
ドタバタと付き人たちが戻ってくる音が聞こえた。
「エリスには感謝しないとね。最後にこんな時間を与えてくれて。」
「絶対に家まで助けに行きます。それまで待っていてください。」
「ふふ。私の家は魔物たちの大群にも耐えられるように厳重に囲われているのよ。
ユウコ、いろいろ教えてくれてありがとう。おかげで世界は広いんだって思えた。
でもね。やっぱり運命は変えれなかったみたいね。さようなら。」
アリスはクローゼットを閉めた。
すぐに付き人たちが来て、アリスは持っていく荷物の準備が済んだと伝えると部屋を出て行った。
外が静かになり、ユウコは呆然とクローゼットを出ると
アリスの机の上に手紙が残されていた。
それはユウコ宛の手紙で、開くと、ユウコの告白に対して、アリスの回答が書いてあった。
そして、さようならと。
私は何をやってるんだ。ユウコは思った。
そもそもなんで戦士になろうとしていたんだ。ユウコは思い出す。
そればユウコとアリスとの出会いとアリスを救い出すためだったはず。
私は何をやってるんだ。ユウコは思った。
私は。私はアリスの戦士だ。絶対に救い出して、。
ユウコの心が再び燃え上がった。