12話 婚約者
アリスに告白した日、ユウコは安眠できていた。
ユウコは振られてもしかたがないと思っていたが、少なくともその場では振られておらず、
気持ちを伝えられて、内心満足していたのだった。
次の日、大学に向かうと大学でできた友達のメグミが先に席に座っていた。
「ユウコさん、今日は朝から機嫌いいみたいね。」
「はい、昨日いいことがあったんで。」
「えっ?何々?何があったの?」
「ふふふ。秘密です。」
「うーん。何よ。秘密の特訓とかしてたの?」
「ふふふ」
「学年トップは謎が多いわ。」
メグミはそれ以上ユウコから聞き出せないことを察すると授業の予習を始める。
その日は戦士大学の実習訓練の一つとして、
全学年での格闘訓練があった。
各学年で上位成績者同士はAクラス、中位成績者はBクラス、そして下位成績者はCクラスに分かれて訓練を進める。
ユウコは人との戦闘は苦手としていたが、何とかAクラスに入っていた。
訓練はAクラスの中でも力の差が大きく開いているので、同じ力を持つもの同士が訓練していた。
しかし、一年目のユウコからすれば実力差はわからないので、今回はメグミと共に見学をしていた。
「さすが学校で一番強いって言われている四年のディーオさんはすごいわ。」
メグミが訓練に見入りながら、独り言のようにつぶやく。
ユウコも見ていて、ディーオの動きを見て、初めて見る強さに驚いていた。
ユウコやアリスの戦い方とは真逆のディーオの直線的で剛のある動きは
少なくとも総合力ではユウコ自身より数段優れていることは間違いなかった。
「確かにすごいかも。」
ユウコもポツリと呟いた。しかし、剛の中に何か脆さを感じた気がした。
「ふふ。ユウコさんもそう感じるのね。さらにいうと、ディーオさんは、学業の面でも優秀で、
戦闘学の論文も何本も出してるって。」
「ふーん。」
ユウコは答えながら、あとで図書館で調べようと思った。
そして、訓練が終わるとお昼時間となった。
ユウコとメグミは食堂に向かった
「でも、ディーオさんは理事長の娘さんの婚約者らしいから。」
「……。えっ?」
ユウコはメグミの言った言葉が理解できなかった。
「あ、気になる?なんでね理事長お気に入りらしくて。
理事長の娘さんが、今年中等部を卒業されるみたいで。卒業すると同時に結婚されるみたい。」
「それって本当?」
「さぁ。噂だから。」
「ごめん、私用事あるから。」
「ユウコ?午後の授業は?」
ユウコは図書館や事務に行き、ディーオのことを調べた。
そして、そのあとにアリスのいる中等部の校舎に向かった。
この時間に帰宅するはずと校舎の入り口で待っていると、ちょうど校舎から出てくるアリスを見つけた。
「あんたなんで学校まで来てるのよ。」
「どうしても聞かないといけないことがあって。」
アリスは昨日の話が関わっているのか少し緊張した表情をしていたが、
ユウコはアリスを人気の少ない校舎裏に連れ出した。
校舎裏に着くとアリスは珍しくアセアセしている。
「……。だから、返事はまだ」
「戦士大学四年生のディーオって知ってますか?」
「……。ディーオ、知ってるかも。」
アリスの表情は一転して暗くなっていた。
「ディーオさんは、父のお気に入りみたいで、時々家に来てたわ。」
「えっと、アリスさんはディーオとお付き合いされてるんですか?」
「してない。私は誰とも付き合ったことないわ。」
ユウコは二人の関係は深まっていなかったことを知り、ホッとした。
「二人で、何かされたりはしてませんか?」
「してないわ。時々町を一緒に散歩したことはあったけど。何でそんなこと聞くの?」
「いえ、ちょっと噂で。」
「……。私の婚約者の話?」
アリスは、ユウコと会う前の何か疲れた表情をして、言った。
「はい。今日噂で聞きました。」
「そう。」
「私は婚約者がつけられることになっていたんだけど、今は相手は決まっていないはず。
でも相手がディーオであるのかもしれないわね。」
「誰が、相手を決めるんですか?」
「さぁ。父が決めるんじゃないかしら。
父から、中等部卒業するとともに結婚すると伝えられていたから。」
「そうだったんですか……。」
ユウコはアリスの婚約者の話をアリスの父親から聞いてはいたが、
まだまだ先だと思っていたので驚く。
しかし、ユウコは今年度中にアリスを救うと心に誓った。
そして日は過ぎ、夏に近づいていた。
ユウコは大学が終わり、下校しようとするとアリスが校門前にいるのを見つけた。
ユウコはアリスがいることに心躍ったが、アリスの表情が暗かった。
「父親の命令で、ディーオと毎週会うことになった。」
アリスはそう言った。
アリスに教えてもらったデートの日にユウコはどうすべきかわからなかった。
しかし、気づけばアリスとディーオのデート場所に向かっていた。
到着すると二人は一緒に歩いていて、ディーオは積極的にアリスの肩などに触れようとしている姿を見て、
ユウコは心が張り裂けそうな気持ちになった。
しかし、アリスの表情は暗く、明らかに嫌がっているのを見たときには、気づけば二人の前に立ちはだかっていた。
「アリスさんが嫌がってるじゃないですか。」
「ユウコ」アリスはユウコの姿を見ると、ディーオから離れ、ユウコの後ろに回る。
「これは、あなたは今年度代表挨拶されたユウコさんですね。アリスさんの婚約者のディーオと言います。」
「あなたのことは知ってます。」
ユウコはディーオを睨みつける。
「ふぅ、今日は何か空気が悪いようですね。
では来週また、アリスさんの家に迎に行きますね。」
ディーオはそういうと二人を後にして帰っていった。
「ユウコ来てくれたんだね。」
「もちろんです、アリスさんのことが心配になって見守ってたんです。」
「大丈夫でしたか?」
「うん、大丈夫だったけど、大丈夫だったけど、
手に触れられたり、体を見られたりで気持ち悪くて、怖かった。」
そう言うとアリスはユウコに抱きつく。
ユウコは突然のことに驚いたが、アリスを抱きしめる。
抱きしめながら、アリスを今すぐに救い出さないといけないと思った。