10話 戦士大学
ユウコの通っていた付属高校から歩いて数分くらいの近くに戦士大学があった。
新年度になり、その日は大学の入学式が行われていた。
入学式の会場である講堂は広く、入学する生徒たちが一堂に揃っていて、
壇上には理事長を務めるアリスの父親が挨拶していた。
「本学の生徒は主にこの町を守る戦士なることが求められています。
魔物たちは今は北上の迷宮に封印によって閉じ込められていますが、いつそれを破ってくるかはわかりません。
その時に備えて、鍛錬を怠らず、そして肉体的な強さだけでなく、知力に心の強さ、
そして世をよくしようという気持ちを持って、より良い世の中にしていくことが望まれています。」
アリスの父親が新入生に向かい公演を終えると、側にいる生徒の方に向いた。
「では、本学に今年度入学する新入生を代表して挨拶をお願いします。」
そして、その生徒は講堂の演台に立つ。
「はじめまして、ユウコと言います。私は……」
ユウコは新入生代表として、生徒一同の前で挨拶をしていた。
ユウコは無事に戦士大学に入学することになったのだった。
入学時の成績はトップで、新入生代表に選ばれたのだった。
ユウコの発表する姿からは、高校入学時点のユウコの姿が想像つかないくらいの成長だった。
入学式後の、新入生説明会が終わるとすぐに、ユウコはアリスの部屋に向かった。
大学に入ってからもアリスの家庭教師を続けることになっていて、
挨拶に行く必要があるという体裁だったが、ユウコはアリスに会いたかったのだ。
アリスの部屋をノックすると中等部の服装のままでアリスは出てくる。
アリスの表情はいつものように不機嫌そうな表情だったが、ユウコはいつものアリスに心が落ち着き、何か嬉しかった。
「あんた、代表者挨拶したんだってね。」
「はい、そうなんです。」
「ふーん。すごいじゃん。」
「そういってもらえるとうれしいです。」
「ふん。」
「アリスさんも三年生に進級できてよかったですね。」
ユウコが言うと、アリスはムッとする表情になる。
「当たり前でしょ。私も最近はずっと成績いいんだからね。」
「ふふふ。さすがアリスさんです。」
ユウコはアリスの頭をなでなでする。
アリスも特に抵抗しないで、頰を赤らめる。
ユウコの身長は伸び続けていて、とうとうアリスと同じくらいの身長になっていた。
体つきもアリスと比べても遜色ないくらいにしっかりするようになっていた。
「あんた本当に大きくなったわね。」
「ふふふ。初めてお会いしたときはアリスさんと目線を合わすために見上げないといけなかったのが、
今は目線が合うようになりましたよね。」
「私も身長伸びてるんだけどな。」
「追いついちゃったみたいですね。」
「でも、中身はあんまりかわってないんじゃない。」
「そんなぁ。」
「嘘よ。中身も成長している。」
アリスはそういうとユウコにしっかりと向かい合う。
「あんた、私のこと気にして話さなくていいんだよ。」
「え?」
「私の方が年下なんだし、他人行儀な話し方はやめていいからね。」
「アリスさん?」
「べ、べつにあんたとの距離感を近くしたいとかそんなんじゃないんだかね。」
アリスは照れた表情をしていた。
ユウコはドキリとした。そして、今が高等部の時から言いたかったことを伝えられるチャンスだと思った。
「じゃあ、アリスちゃん」
「生意気ね。」
「えぇっ!そんなぁ」アリスに素っ気なく扱われ、ユウコはがっくりし、チャンスを逃した。
「半分は冗談よ。あんたも大学生になったんだから、もっとしっかりしなさい。」
「はい、アリス、、ちゃん、、さん。」
「どっちかにしなさいよ。」
アリスは笑みを浮かべていった。
挨拶もすんだので、アリスの部屋から、ユウコは自室に戻った。
「大学に入ったらと言うと決めてたのに、言えなかった……」
部屋に戻ると一人ユウコは呟く。
飛び級試験のときから、ユウコはアリスに対して、自身の気持ちに気づいていた。
そして、ユウコはアリスに自身の気持ち、想いを伝えたいと思っていた。
ユウコは振られることは承知の上で、告白しようと思っていたのだった。
振られていても伝えることで何かが変わることを期待をしていた。
「でも、他人行儀じゃなくていいって。うふふ。」
ユウコはアリスと会話した内容を思い浮かべ、距離感がますます近づいていることを喜んだ。
「アリスちゃん、、か。」
そして、ユウコは名前を呼ぶだけで胸が熱くなることを感じた。