1話 遭遇
ここは周辺を海と山と森に囲わた平和な町。
数十年前までは魔王と呼ばれる怪物が支配していたが、
戦士たちが立ち上がり、魔王と魔物たちを北上の迷宮に封じ込めた。
そして、危険な魔物たちは姿を消し、町は平和になり、今に続いていた。
その町に、戦士とは程遠い、虚弱体質なユウコがいた。
小さい頃は特に体が弱く、いつまで生きていけるかという話も出たくらいだった。
中学生になって安定してきてはいたが、プールに入ると水圧に耐えきれず、思いっきり走るとすぐ倒れそうになっていた。
ユウコは運動はまったくダメだったが、代わりに勉強を頑張っていたため、首席を維持し続けていた。
おかけで、家には高校に行くお金はなかったが、奨学金が出ることになり、名門の戦士学校に行くことができた。
ユウコが高校に入学してからしばらくして、ユウコの母はユウコにおつかいを頼んだ。
「高校生になったんだから、自分で薬草を取ってきてみる?」
「うん、いいよ。」
「町の外の草原に生えているから、数本取ってきてね。池の周りに一杯生えているわ。」
「じゃあ、行ってきます。」
ユウコは一人で町の外に出るのは初めてだったが、町を出て薬草を探しに向った。
まず、町の外にでるために門に向かった。
「草原にある薬草を取りに出たいんですけど」
「身分証を提示してください。」
「はい。」
門番は身分証を見ると内容を確認した。
「一人で外に行くのは初めてなんですね。お気をつけて。」
門番はそういうと身分証をユウコに返し、門を開いた。
ユウコは門を通り、町の外に出た。
初めて一人で町を出て、ユウコは内心ワクワクしていた。
地図を調べながら、草原に向かう。草原の中には沼のような池があって、そこには様々な草や花があった。
虫や動物たちもいたが、危険な雰囲気はなかった。
「えーとこれかな?」
しばらく歩き回り、早速薬草を見つけ、入手した。
暗くなるまでには時間があるので、教科書や本で学んだ知識をもとに、周りにある草や花を見てまわった。
そして、有効な薬草だと認識すると、摘んで持って帰ることにした。
気づけばカバンの中には多くの草花があり、辺りが暗くなっていた。
「そろそろ帰らないと」
ユウコは町に向かった。草原を出ようとするあたりで、ずるりずるりとついてくる足音がする。
振り返るとそこには一匹のスライムがいた。
スライムは小学生でも勝てるため、退治されず放置されていた。
「す、スライムだ。逃げないと」
ユウコは体が弱く、戦うことがまったくもってできなかった。
ユウコ自身もそれを認識していたので戦うことは放棄した。
しかし、ユウコは走って逃げ切ろうとするもスライムは執拗にユウコに付いてくる。
「え、何でついてくるの?」
ユウコは体力がないため、追いつかれることは必然だった。
ユウコは戦わないといけないことを悟った。
しかし、手元には薬草しかない。
武器は握りこぶしのみ。
でもスライムくらいなら。とユウコは振り返り、逆にスライムのほうに向かいパンチをしようとする。
しかし、ユウコの貧弱な腕から繰り出されるパンチは鈍く、スライムはかわすと同時にユウコに体当たりを加えた。
「ごふっ。」ユウコはまともに受け、地面に倒れこんだ。
スライムはじっとユウコを見ていて、次の攻撃を繰り出そうとしているようにも見えた。
ま、まずい、ユウコは思ったが、体が動かなかった。
誰でも勝てるはずがユウコではスライムにも勝てないのだった。
「何してるの?」金色の髪を二つに結ったスラリとした女の子が目の前に立った。
女の子はユウコのカバンから青い花をとると遠くに投げた。
スライムはそのお花を取るとすぐに草原の中に消えていった。
「あなた、スライムの好きなお花を取っちゃったのね。
好物だから、ついてきちゃったのよ。」
「ありがとうございます、助かりました。」
「立てる?」
女の子は腰をついているユウコに手を差し出す。
ユウコはその手を取り起き上がろうとした。
「痛っ。」
ユウコの足に激痛がはしった。
「すいません、襲われた時に足を痛めたみたいで。」
すると、女の子はユウコを抱きかかえた。
「あなた軽いのね。」
「あ、そんな」ユウコは見ず知らずの少女に抱きかかえられ頬を赤らめる。
「いいのよ。あなた軽いし。というか、スライムに倒されるってまずくない?あなた小学生?」
「ち、違います!私は高校生です!」
「え、高校生なの?私より年上?」
女の子は怪訝な顔をした。ユウコは抱きかかえられながら、ますます恥ずかしくなった。
町の門に着くと、門番がユウコをだきかかえる女の子を見て驚いた顔をして言った。
「アリス様、どうされたんですか?」
女の子はアリスさんって言うんだとユウコは思った。
「この子、原っぱでスライムに襲われてたの。」
「なんと、それはいけませんね。次から通行を禁止しないと。君、身分証を見せなさい。」
「すみません。」と言いユウコは身分証を差し出す。
「うーん。君もう高校生だから、普通は通せるんだけど、
自分の身を守れないなら、次から保護者か誰かつきそいがいないと外に出られないからね。」
「はい、すみません。」
「本当に気をつけなさいよ。私がいなかったら危なかったんだから。」
アリスにもきつく言われユウコはしょんぼりする。
門番の医療室でユウコは手当を受けることができ、ユウコはひとまず歩けるようになった。
医療室を出るとアリスが待ってくれていたようだった。
「あの、今日は危ないところ助けて頂いて、本当にありがとうございました。
「別にいいわ。歩いて帰れそうだし、私は帰るわね。」
「お名前教えてもらっていいですか?」
「私はアリス。じゃあさようなら」
そう言うと、アリスはくるりと翻って去っていった。
ユウコはその姿を見て、アリスみたいな感じになれたらかっこいいだろうなと思った。
「でも年下なんだよねぇ。」ユウコはぽつりとつぶやいた。