とある諜報員の覚書き
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「傍観者な侯爵の妹観察日記」感謝記念の番外編です。
上記の短編を読んだ上でご覧になることを強く推奨します。
また前作と違い、かなりきな臭い話となっており、前作とジャンルは揃えていますが、今回は恋愛要素がありません。
相変わらずのクオリティです。
あまり期待せず、気楽にご覧下さい。
☆重要☆
これは前作を受け入れてくださった読者の方への、"感謝"という名のオマケ作品です。
面白くない、つまらない、期待したものと違うなど思いましたら、何も言わずにそっと閲覧をおやめください。
なろう作品には、もっと面白くて素晴らしい作品が山のようにあります。
あくまで、別な形で楽しんで貰えたらと思い、書いた作品です。
他の方が不快にならない配慮をお願いします。
05.Aquri
父から新たにある男の調査を命じられた。
古くから続く、有力貴族の人間だ。
何度か見かけたことがあるが…
個人の印象で述べるなら、『やる気のなさそうな男』その一言に尽きるだろう。
社交の場であるのに笑みを作ることさえせず、ただひたすらに会場の壁にもたれては、そこにいる人々をぼんやりと眺めている…
そんな無害そうな男に何故調査が命が与えられたのか些か不思議だが、彼には国家転覆を企らむ、国家反逆罪の疑いが掛かっている。
数日前に明らかになった元王太子、ジルベルト殿下とその側近候補者たちにまつわるスキャンダル記事。
貴族たちが普段あまり目にしない大衆新聞に載せられたそれは、王宮における各部署、さらには王都にある貴族の屋敷全てに、その発売当日の朝届けられていたそうだ。
平民たちに対しては号外として、街中にばら撒かれるという徹底ぶり…
文字通り、国を揺るがす大事件となってしまった。
大衆新聞の発行元に情報提供先を訊ねようにも、
『ある確かな身分のある方からのタレコミ』
としか口を割らず、さらにはそのスキャンダルが事実だと知らしめる決定的な証拠が、これまた王宮に直接届いたというのだから…驚きである。
こうしてジルベルト殿下および、その他有力貴族の子息たちと一部のその親貴族たちに、厳しい処分が言い渡された。
この事件の『ある確かな身分の貴族』であり、裏で糸を引いていた男こそ…パラマ侯爵ではないかと言われている。
…この仕事についてから、人は見かけによらないと言うことを身に染みて実感している。
いつものごとく何かあった時のために、調査報告書とは別にこの覚書きを記しておくことにする。
12.Aquri.
表立って集められる情報は全て集めてみた。
彼の経歴で気になったのは一点。
異様に当主になった年齢が若いこと。
前パラマ侯爵夫妻が事故で亡くなったためと書かれているが…
何故かそれ以上のことはわからなかった。
その他の情報では、
交流のある友人や親戚が極端に少ないこと。
それと宮殿や領地の仕事を必要最低限しかしないこと。
この2点は気になるには気になったが…あの性格なら納得だろう。
周囲の評価も『仕事はできるのにやる気がない人』と、やはり皆思うことは同じのようだ。
他のツテからも情報を集めつつ、今度我が家で開く夜会があるので、その時に本人にも接触してみようと思う。
17.Aquri.
何事もなかったかのように開催された我がクルトワナ伯爵家の夜会。
しかしそれは表面的なことであって、来賓の口に登るのは例のスキャンダル騒動のことだ。
…個人的意見で言えば、国家の動揺を悟らせないようにという意味での夜会開催は、逆効果だったと思わざるを得ない。
言葉の端々に滲む、王宮への不信感…
貴族たちの信頼回復のため、なんらかの打開策を早急に打つべきだろう。
パラマ侯爵はというと、終始どこか落ち着かない周囲とは違い、呆れてしまうほどにいつも通り…
本当にこの男は大丈夫なのだろうか?と思ってしまうほどにはやる気がない。
ひとつ意外だったのは、彼が挨拶で一度顔を合わせたくらいでしかない私のことを覚えていたことだ。
仕事ができるというのは本当なのだろう…やる気が無いだけで。
それでもやはり、父が疑うような人物には見えないというのが今のところの見解。
本当に…疑いようがないくらい、彼は他者との交流に受け身であり、消極的だ。
…これから本人に探りを入れるための足がかりを得たということで、今回は良しとしよう。
25.Aquri.
大したことない情報しか集まらない。
たまに突発的な発作のように仕事を休もうとする…って、もうただのやる気のない人なんじゃないか?
それほどまでに怪しい情報がない。
しかし、まだ調査を始めてひと月も経っていないし…
引き続き情報を集めつつ、本人や周囲の人間からも探ってみようと思う。
08.Meyi.
ようやく落ち着きを取り戻しつつある社交界。
今日もパラマ侯爵はやる気がない。
微笑みすら作ることもなく、話を続ける気すらなく…
この男、ほんと苦手だ。
私との会話で、唯一語ってくれたのは彼の妹であるエリザベス侯爵令嬢のこと。
先日、久しぶりに外に出れたそうだ。
…例の廃嫡騒動の前にあった、婚約破棄が原因なのだろう。
ジルベルト殿下とエリザベス嬢は冷え切った仲として有名だったが、それを踏まえても随分…穏便とは到底言えないような、一方的な断罪のようだったと聞いている。
…無気力な人だけど、家族はきちんと大事にしているらしい。
それしか探れなかったので、収穫はほぼないに等しかった。
22.Meyi.
この2週間、全くと言っていいほど情報がない。
夜会で話して得られることといえばエリザベス嬢の近況のみ。
他の情報もいつも通り仕事して、いつも通り定時に帰宅する…
そしてたまに休みたがる。
もう反逆者とかただの思い過ごしってことで、調査を終わらせてもいいのではなかろうか?
今まではパラマ侯爵家の使用人からは口が固いのか情報が得られなかったが、今度侯爵家に直接潜り込めるツテを手に入れたので、行ってみることにする。
もうそこで何も引っかかることがなかったら、何もないという結論で上に提出しよう。
27.Meyi.
仕立て屋の縫い子の1人としてパラマ侯爵家に侵入した。
エリザベス侯爵令嬢を間近で見るのはこれが初めてだったのだが…
本当に侯爵そっくりな可愛らしい顔立ちをしている。
しかし人見知りなのか、気が弱いのか…
侯爵の後ろにずっと隠れているのが気になった。
こんな女性が何故未来の皇太子妃として選ばれていたのか、甚だ疑問ではある。
侯爵家の使用人は他の貴族と比べると圧倒的に人数の少ない、少数精鋭といった印象だったが、それ以外はなんら変わらないように感じた。
…ただ、ひとつだけ気がかりなのは、侯爵に数秒ほど見られていたこと。
いつものごとく、ぼけっと視線を投げていただけとも考えられるが…どうも嫌な感じだ。
変装がバレたとは思わないけど…
父からも一応まだ調査を続けろと言われたので、観察を続けるつもりだ。
01.Juno.
あまりにも情報が出ないので、もう虱潰しで小さなことでも調査することとする。
前パラマ侯爵夫妻の事故。
情報が出ないからと後回しにしたが、ここが何かに繋がっている気がするので、改めて調査してみる。
あとはパラマ侯爵の母方の親戚筋…そっちも一応洗い直すべきだろう。
03.Juno.
王宮主催の夜会だったが、今日はパラマ侯爵とは挨拶程度の接触しかできなかった。
お互い、挨拶周りで忙しかったのもあるが…
エリザベス嬢のあの様子だと、しばらく探りは難しいだろう。
こちらの存在をエリザベス嬢に慣れさせつつ、そこからパラマ侯爵も懐柔できれば…などとプラス思考に考えておこう。
いい加減、この調査を終わらせたい。
05.Juno.
急に父から調査を辞めるように言われた。
理由ははぐらかされてしまったが…何故このタイミング?
調査が終わるのは心から嬉しいが、疑問が残る。
どこかからの圧力だろうか?
…一応、観察だけは続けようと思う。
最悪、何かを掘り当てて存在を消されたとしても、ここに情報を残しておけば、父の不利になることはないだろう。
23.Juno.
夜会で挨拶ついでに少し会話するのがほぼお決まりになってきた。
エリザベス侯爵令嬢も私に慣れてきてくれたらしい。
それにしても…独特な言い回しをする女性だ。
婉曲な言い回し過ぎて、たまに嫌味にすら聞こえる。
そして、エリザベス嬢と話すことが増える一方で、パラマ侯爵と会話することが極端に減った。
私の心労的にはとても助かるが…それでいいのか、侯爵家当主。
07.Jelliy.
パラマ侯爵がすっかり夜会に顔を出さなくなった。
最近は珍しく積極的に出てきてただけで、これが彼のデフォルトらしい。
エリザベス侯爵令嬢はよく従兄弟と出席してるのを見かけるが…
何故か最近、クラウスに絡まれているのをよく見かける。
奴は何というか…可愛いものはいじめたいというちょっと変わった性癖の持ち主だ。
あまりにもエリザベス嬢が哀れで、何度か助けに入ったが…
全くアイツは何を考えているんだか。
お陰でエリザベス嬢とかなり親しくなったから、結果良しとしておこう。
16.Jelliy.
クリストフォード公爵家ともなると流石に断れなかったのか、パラマ侯爵がおよそひと月ぶりに夜会に出席していた。
相変わらず、やる気がないのは変わらない。
ただ今回は、何故か向こうから話しかけてきた。
意外な展開に驚いたが、クラウスのことをいくつか質問されたので納得がいった。
どうやら私とクラウスが友人として親しいことを知っていたらしい。
…しかし、その情報はどこで手に入れたのだろう?
私がかつてクラウスと同じ特殊訓練校で学んでいたことは秘匿とされているし、それを知らなければ私とクラウスが接点があるとわかるはずがない。
…私は、この男について何も探れていなかったのではないかと、考え直さずにはいられない。
しかし、本当に困ったことに、潜入調査は禁止されている…
20.Agustra.
このひと月、夜会で会えば挨拶と軽い会話をするだけで、何も変化はなかった。
それを逆に不気味に感じてしまう程度には、パラマ侯爵の"何か"を理解し始めている。
彼はいつもただぼんやりと周りを眺めているようで、一歩引いた視点で常に周りを細かく見ている。
アレは私たち諜報員と同じ、観察する目だ。
…今まで何故気がつかなかったのだろうと思ってしまうほど、彼の瞳は異質だ。
そうなると…
彼が前に話しかけてきたのは、ある種の牽制だったのかもしれない。
…どうしよう。
今更関わりたくなくなってきた。
でも、仕事なので観察は頑張って続ける。
26.Agustra.
クラウスがエリザベス侯爵令嬢に公開プロポーズしていた。
年甲斐もなく何をやってるんだか…
この場に来た時点でクラウスのエスコートだったということは、パラマ侯爵公認なのだろう。
試しに今度会った時、クラウスから見てパラマ侯爵はどう見えるか聞いてみることにする。
31.Agustra.
クラウスに話を聞きに行った。
大半惚気話で疲れたが、奴の見解ではパラマ侯爵は"ただのやる気のないシスコン"とのことだ。
やはり私の勘違いなのか?
でも…それで片付けられないくらいには、彼に対して違和感を持ってしまっている。
あと何度か彼を観察すれば何か確証が得られるのだろうか?
30.Seratept.
このひと月、パラマ侯爵との接触はない。
というか、彼は一切社交の場に出なくなった。
代わりと言ってはなんだが、エリザベス嬢がクラウスを連れて嬉しそうに話しかけてくる。
その都度さりげなくパラマ侯爵のことを探るのだが…
なぜかその度にエリザベス嬢は、キラキラとした瞳を私に向けてくる。
…彼女も彼女でお兄ちゃんっ子なのだろうか?
これはクラウスも大変そうだ。
05.Ocstrocter.
父から別任務で、王宮に侍女として潜り込むように指示された。
社交界に出る機会はしばらく減ってしまうだろう。
最近懐かれているらしいエリザベス嬢に、やんわりとそのことを伝えたらとても残念そうな顔をされた。
観察対象と接触する流れで仲良くなったとはいえ、こうも慕われているのは悪い気がしない。
20.Ocstrocter.
王宮で第二王子の侍女として働くようになって、何度かパラマ侯爵とすれ違うことがあった。
バレていない…とは思う。
かなり入念にキャラを作り込んでいるし、外見も変えている。
…が、何故だろう?たまにふと視線が合う気がする。
気のせいだと思いたい。
22.Nobsten.
最近、パラマ侯爵が上司に首根っこ掴まれて出勤するのを見かける。
侍女たちの間でもかなり話題となっている。
…あの人は何をしているんだか。
27.Nobsten.
…いつまでアレ続けるんだろう?
しかも、日に日に沈んでいるというか、不機嫌さが増してるというか…
表情のない彼には珍しく、とてもわかりやすい感情。
クラウスが原因だろうと予想している。
12.Dectomere.
クラウスとエリザベス嬢の結婚式に呼ばれた。
婚約期間短いなとは思ったが、2人の様子を見るに早く結婚したくて超特急で準備したのだろう。
パラマ侯爵が泣いたのには本当に驚いた。
あの人、泣くんだな…などと失礼なことを思ってしまった。
28.Dectomere.
第二王子は問題ないと判断されたため、第四王子の侍女へと所属替えになった。
地味に、財務省の位置と職場が近くなったことに冷や汗を覚える。
…バレませんように。
07.Juniatlly.
…何故だろう?
王宮での仕事中、ごく普通にパラマ侯爵に話しかけられた。
しかも、
「その格好の時はお名前なんていうんですか?」
…って、これ。完全にバレてるじゃん。
動揺を必死に隠して、誤魔化したけど…
「じゃあ、そういうことにしといてあげます。我が家に入り込んだことといい、これで貸し2つですよ?」って、
…アウトですね。
父にもこのことはきちんと報告したけど…青ざめてたなぁ…
12.Juniatlly.
アレ以来、すれ違いざまには目が合うし、普通に話しかけられる。
本当に怖い。
何を考えてるんだろう?
まだ父の方に接触がないということは、私が誰の命令で諜報活動してるのかは知らないのだろう。
それにしたって時間の問題のような気もする。
15.Juniatlly.
急にクラウスが訪ねてきた。
なんでもエリザベス嬢…じゃなくてベルムンド伯爵夫人が、私をパラマ侯爵の奥方にと強く勧めているらしい。
「俺も賛成しといたから〜」
などと軽く言われたが…
冗談じゃない。
なんであんな恐ろしい人と結婚しなければならないのか。
政略結婚は覚悟の上だが、あの男だけは嫌だ!
第一、侯爵夫人になったらもうこの仕事は続けられないだろう。
そんなの父が容認するとは思えない。
…でも、何故だろう?
すごく嫌な予感がする。
21.Juniatlly
父からパラマ侯爵と婚約を結ぶことを命じられた。
避けられないという。
あの父が私に初めて頭を下げた。
それでもう、決定事項なのだと悟ってしまった。
本当にあの男はどういうつもりなのだろう?
夕方ごろ、屋敷にパラマ侯爵がやってきた。
相変わらず笑いもしない顔で、
「一応、家族は大事にするつもりなので安心してください。」
と言われたが、全く安心できなかった。
なお、この覚書は見つかると危険と判断したため、父の書斎にある隠し棚の奥底に潜り込ませておくことにする。
フローラ(クルトワナ伯爵令嬢)
ミルクティー色の長い髪に、それより少しだけ濃い色の瞳をしている、綺麗だがどこにでも居そうな顔立ちをした女性。
実は27歳と、とうに適齢期を過ぎており、表向きは王宮で働く女性官僚ということになっている。
裏の仕事は父である宰相補佐の懐刀である諜報員である。
仕事で探っていたはずのレイモンドに目をつけられ、囲われ、結婚させられた可哀想な人。
読んで頂きありがとうございます。
たぶん、大体の方が思ったこと…
「いや、読みたかったのはこれじゃない」
だと思います。
わかります…でも、すみません。
もともと傍観者…もこういう物語なんです。
要するに、本当は色々と(面倒くさがりながらも)やっている侯爵が、両親に妹とそれに関わることを綺麗に切り取って報告しているのが、前作なんです。
だから…今作書くの本当に迷いました。汗
だって、色々隠してた部分が見えちゃうんだもん。笑
そしてこの癖の強さこそ、前作を日記形式で書いた理由です。
こんなモヤっとする作品、短編で読むのは嫌だわという、作者の勝手な要望です。
この作品においての解説、ネタバレは辞めておきます。
お好きに想像してください。
ただどーしても作者としての答えが欲しい場合、感想またはメッセージなどで聞いていただければお答えします。
Twitterのほうでも構いません。
これが皆さんへの感謝としてなんとか絞り出して書けた、本当に気持ちだけの作品としてご理解頂けると幸いです。
変わり種の前作を面白いと思ってくださった読者の皆様、これからもジャンルや人気に囚われず、素敵な作品を見つけて下さることを願っています。
本当にありがとうございました。
来栖れな