彼女が泣くから・・・
街角で身も世もないといった風情で泣きじゃくる女性がいた。
通りすがりの人たちは無情に彼女と関わろうとしなかった。
「どうしたの?なんで泣いているの?」
私は放っておけなくて声をかけた。
「やめとけ。どうせ失恋したとかだろうから」
拓が私の肩をつかんで忠告した。
「拓のバカ」
私は拓の手を振り払った。
女性は一向に私に注意を向けようとしないので、私は大きく深呼吸すると、目をつむって意識を集中した。
「あの人が、いないの」
「あの人?」
「この時間軸の世界には、あの人は生まれてこないの」
「その人を待っているの?」
「私と対で存在している人なの」
「時間軸が違う場所にその人はいるの?」
真っ赤な世界がかいまみえた。
炎と血だまり。誰かが叫び続けている。
「私の今の人生では出逢えない」
「おい」
トリップしてる私を拓が呼び戻した。
私はおぞけで身震いする。
「だからやめとけって言っただろう?」
「うん。・・・ごめん拓」
女性は姿を消していた。彼女はきっと、さ迷い続けるだろう。
「お前、まだ霊媒師として駆け出しなんだからなんでもかんでも覗くのはやめとけ」
拓は私の震えがおさまるまで抱きしめてくれていた。




