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第八話

「おっ、そこのあんちゃん!」

「何だ?」

「さっきそこの宿屋から出てきたよな?」

「ああ、旅籠明鏡止水から出てきたが、それがどうした?」

「旅人かい?」

「だからそれがどうした?」

「いやね。あそこの宿屋は評判が悪いんだよ。泊まるとなんでもよくないことが起こるらしい。噂ではゴーストが取り憑いているらしぞ」

「それで?」

「いや、それでって、あんちゃん、悪いことは言わねぇ、宿屋を変えたほうがいい。そうだな宿屋ならあそこの精霊の住処なんてどうだい?」

「いや、あそこは気に入っているから変えるつもりはない」

「……おいおい、あんちゃん。せっかく忠告したのに無視するってのか?」

「はぁ、もう面倒だ。グダグダ抜かすなら殺すぞ?」


 殺気を込めて睨む。男は一瞬ビクッとしたが、こちらに武器がないのを見て、そして連れの女が小さいのを見て嗤った。


「へへ、あんちゃん、悪く思うなよ。これも商売でね!」


 そう言うと、懐から短剣を取り出し襲いかかってくる。が、遅い。タルトとピュアが刀を抜こうとしているのを制しし、俺が動いた。具体的には短剣を逆手に持って振り上げているやつに、それが振り下ろされるより先に顔面に軽くジャブを入れる。


「ぐぼぁ」

「お~い、大丈夫か?クリーンヒットだったみたいだが……生きてるか?」

「て、てめぇ!」


 すると、宿屋の方から集団になってこっちにやってくる奴らが居る。俺はすばやく短剣を持った手ごと踏みつけ、仰向けに倒れている男の上に乗っかる。


「おい!お前ら何をしている!」


 宿屋の方からやってきた奴らがそう言った。


「何って、短剣で脅されたんですよ。宿屋を変えないと殺すぞって」

「はっ、そんな馬鹿なことあり得るか!それ以前にお前はその男に何をした!」

「殺されかけたので、お仕置きしました」

「殺されかけた?お前が殺そうとしているようにしか見えないがどういうことだ?」

「いやいやいや、殺そうとするなら」


 俺はそう言って、短剣を奪い取る。そして、倒れている男の首元に短剣を持ってきて言う。


「こうしていますよ?それが先程まで殺す機会はいくらでもあったのに殺さなかったんですよ?どこからどう考えてもこの男が殺そうとして返り討ちに遭っただけでしょ?」

「おい!衛兵はまだか!」

「衛兵さんを呼んだんですか?」

「当たり前だ!犯罪が目の前で行われているんだ!市民の義務として、衛兵を呼ばないのはありえないだろ」


 男たちは下卑た笑みを浮かべながら言う。


「ふ~ん、そう。で?」

「お前は終わりだよ。犯罪者」

「じゃあ、こいつを離せばいいのか?短剣は返さねぇぞ?」

「おいおい、今度は窃盗か?罪が増えていくな」

「はぁ、わかったよ。殺人者に短剣は返します。これでいいか?」

「おうそうだな。じゃあ衛兵が来たらちゃんと捕まって、罪を償うんだぞ?」

「はぁ、もういいよ。お前らの三文芝居に飽きた。帰る」

「おっと、そうは行くか。犯罪者を逃すわけにはいかないな……おとなしく捕まれ」

「嫌だね。そもそもあんたら何?あそこの宿屋から大挙で押し寄せて。何?そんなにあの旅籠に泊まってる客を嵌めて遊ぶのが好きなのか?」

「何を言っている?宿屋?確かにあの方向から来たが?それがなにか?」


 やはり男たちは下卑た笑みを浮かべたままだ。そろそろ、領主様の力でも借りようかなと思っていたら、衛兵が到着したようだ。


「ここで暴力沙汰が起きていると聞いてきた!首謀者は一体誰だ!」


 そして、男と俺は互いに指をさす。


「「こいつです」」


 衛兵は固まった。


「は?」


「おい!てめぇ!何抜かしているんだ!」

「お前らこそ何いってんだ?こいつと裏でつながって卑怯なことにも俺を嵌めようとしたくせに!」

「そんな証拠何処にあるってんだ!」

「ああ、そう言えばそれ考えてなかったな」

「それ見たことか!衛兵さん!こいつが犯人なんですよ!」

「言っときますけど、そこの男に宿を移るよう脅され、返り討ちにしたら、宿屋から出てきたコイツラに因縁つけられただけですよ?」

「ちょ、ちょっと待て!わかった。互いの話はよくわかった。とりあえずそっちの男と女二人を捕らえろ」


 と衛兵が宣った。


「いいんですか?その選択で」

「口を開くな犯罪者!」


 と、いきり立つ衛兵。なるほどつながっていると。じゃあ、こういう魔法はどうだろうか。


「じゃあ、最後に一言だけ許してもらってもいいですか?」

「なんだ?一言だけでいいのか?」

「ええ構いません。よろしいですか?」

「捕まる前になにか言いたいことがあると……自首か?」

「よろしいですか?」

「ああ、かまわないぞ」

「それでは失礼して……【録音再生】!」


 そう俺が叫ぶと大音量で。それこそ街中に響くような音量で先程の男とのやり取りが再生される。


【「おっ、そこのあんちゃん!」

「何だ?」

「さっきそこの宿屋から出てきたよな?」

「ああ、旅籠明鏡止水から出てきたが、それがどうした?」

「旅人かい?」

「だからそれがどうした?」

「いやね。あそこの宿屋は評判が悪いんだよ。泊まるとなんでもよくないことが起こるらしい。噂ではゴーストが取り憑いているらしぞ」

「それで?」

「いや、それでって、あんちゃん、悪いことは言わねぇ、宿屋を変えたほうがいい。そうだな宿屋ならあそこの精霊の住処なんてどうだい?」

「いや、あそこは気に入っているから変えるつもりはない」

「……おいおい、あんちゃん。せっかく忠告したのに無視するってのか?」

「はぁ、もう面倒だ。グダグダ抜かすなら殺すぞ?」

「へへ、あんちゃん、悪く思うなよ。これも商売でね!」】


 周りはしんと静まり返っている。そして、聞こえてくる足音。今度は俺の味方が来たようだ。


「何をしている!先程の会話は一体何だ!」

「俺の魔法ですよ」

「ゼクスか!どういうことか説明しろ!」

「そこの旅籠に宿泊を決めたら、向こうのなんとかって宿屋の使いに難癖をつけられ、殺されかけたので返り討ちにした。一部始終を魔法で再生しました」

「お前さんの魔法って大概なんでもアリなんだな」

「いや~、魔法はイメージですからね」


 衛兵と宿屋のゴロツキ共はうろたえた。なにせ騎士団が出張ってきたからだ。


「騎士団の方々がなんの用事ですか。我々はその犯罪者を捕まえようとしているところです。邪魔をするのは越権行為です!」

「本来ならそうなんだろうけどな……さっきの話を聞いていたのなら何が起きたか一目瞭然じゃねぇか。それなのにこいつを捕まえるのか?というかゼクス、お前を捕まえたとして捕らえておくのは可能なのか?」

「まず無理でしょうね。魔法使えますし」

「……お前さんの魔法は規格外だからな」

「いや~それほどでも」

「いや、褒めてねぇよ!とりあえず、今の会話を聞いてもこいつを捕らえると言った。何か裏で金銭のやり取りでもあったのか?」

「い、いくら騎士団とは言え、我々衛兵を侮辱するとは!」

「我々……ねぇ……一回衛兵共を調査したほうがいいかもしれないな」

「ん~、いい魔法を思いついた」

「おい、今度は一体何をするつもりだ?」

「団長さん、世の中知らないほうがいいこともあるんです……【録画再生】!」


【「おい!宿屋に配置したやつがやられたというのは本当か!」

「本当らしい……相当の使い手だな」

「まあいい。とりあえず報酬さえ弾めばやつを捕らえるが?」

「毎度毎度というほどでもありませんが、こういうときは助かりますねぇ……これくらいでどうでしょう。」

「お互い様だろ……よし。交渉は成立した」

「そりゃ違ぇねぇ……じゃあ頼みまっせ」

「では段取りはこちらで任せてもらおう」

「おう。それじゃあ、俺らは行ってくる。あまり早く来すぎるなよ!」】


 ほぅ、こういうやり取りがあったのか。


「おい、これは事実か?」

「ちょ、ちょっと待て、何だこれは!なぜあそこに俺が写っていた!俺は知らんぞ!そんなこと!」

「お、俺も知らねぇ!」

「あ~、言っとくけど、これ時をさかのぼって、実際に起こったことを記録し、映し出す魔法だから」

「……」

「……」

「……」


 ありゃりゃ、全員黙り込んじゃった。


「ちょっと、お前のその魔法やっぱり異常だぞ?」

「まずいですか?」

「今回に限れば問題ない。騎士団はこの場にいる衛兵を捕らえろ!」

「「「「「はっ!」」」」」


 そう言うと、大捕物が始まった。


 結果から言おう。俺はその後、先程の魔法を使い、色々な衛兵の過去の悪巧み、金銭のやり取りを魔法で暴いた。そして、宿屋の方も諦めたのか、大方認めている。俺はその後領主に再度呼び出され、色々と溜まっていた未解決事件なんかの解決を依頼された。まぁ、お金ができるまで暇だったから了承した。城に泊まるかとも言われたが、旅籠に泊まりたいと言って断った。

 日が暮れて旅籠に戻ると閑古鳥が鳴いていたのが嘘のように人でごった返している。何事かと聞いてみると、街一番の宿屋が潰れて、他に流れてきたため大盛況なんだそうな。そして、この一風変わった旅籠は特に人気が出たらしい。噂に踊らされたとわかった人々も訪れているようだ。しばらく経ち夜になると、シェリーが部屋にやってきた。


「お兄さん……ありがとう」

「ん?何がだ?」

「この旅籠を救ってくれて」

「まぁ、ここ気に入ってたし、ここにいちゃもんつけてくる奴らに腹がたっただけだ。気にするな。俺が勝手にやったことなんだからな」

「私達はどうお礼をしたらいい?」

「礼は求めてない」

「……それじゃあ、私達の気が済まないんだ!」

「そう言われてもな」

「じゃあ、私が、その、サービスしてあげるよ……お兄さん格好いいし……」

「サービスって何をするつもりだ?」

「それは!その……あの……さ、察してくださいよ!」

「おいおい、ここには子供が二人居るんだが?」

「あらあら、私は刀に戻っておきますよ?」

「おにーちゃん、えっちなの!」

「おい!こら!」

「へ?刀に戻る?」

「ああ、面倒になるから説明していなかったが、この子達は本来俺が預けたあの刀だ」

「へ?」

「それを神様が肉体を与え、俺のために一緒についてきてくれたんだ」

「え?あの?え?」

「混乱すよな?だから話したくなかったんだが……」

「え?本当に?」

「本当ですよ」

「ほんとーなの!」

「じゃあ、皆さん神様とお会いしたことがあるのですか!」

「ありますよ」

「もちろんなの!パパからたのまれたおしごとなの!」

「え?パパ?」

「ああ、神様のことな」

「……ちょ、ちょっと整理させてください……でもどうして私にそんな重要なことを打ち明けたんですか?」

「ん~、ぶっちゃけると君が俺の好みの娘だからかな?」

「え?好み?本当にロリコン?」

「……まぁ、そこは否定しない」

「……ってちょっとまって、どうして私が好みだとその話をすることになるの!?」

「ん~端的に言うと、勧誘」

「勧誘?」

「そ、シェリー、亜神になってみない?」

お読みいただきありがとうございます。

誤字、脱字等ありましたらお知らせいただけると幸いです。

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