博士と助手【スワンプマンとテレポート】
ここは地球によく似たある星のある研究所。
博士と助手のたった二人しかいないこの研究所で新たな成果が花開こうとしていた。
「助手くん。……助手くーん!!」
白衣を着た女性が研究所に声を響かせると、まもなくして小柄で整った顔立ちをした男が眠そうな目をこすりながらやってきた。
「おはようございます博士。どうしたんです、そんなに大きな声をだして?」
博士と呼ばれるその女は男の問いかけにニヤリと笑ってみせた。白衣の下に何故かボンテージテイストの黒い服を着たその姿に不敵な笑みがマッチして非常に悪人っぽい。
「よくぞ聞いてくれた助手くん。ついに完成したんだよ。時間はかかったがこれぞまさに世紀の発明といえる作品だ」
「よく分かりませんが、とにかくおめでとうございます博士」
「うむ、これで今まで抱えていた問題の一つが解決する。さぁ助手くん。君を呼んだのは他でもない。今すぐにこの装置へ入ってくれたまえ。そうすれば君は世紀の発明の協力者として永久に名前を残す事ができるだろう」
博士がそういってカプセル型の装置を指さす。装置には何本ものケーブルがつながっていて研究所の色々な所へとつながっていた。
これが一体なんの機械なのか、助手にはまるで想像もつかなかった。助手は眉をひそめて不満げな顔を見せたが、しかしそれ以外は不平不満も言わず、素直に装置の中へと進んだ。
今までの経験から彼女に逆らっても無駄だということはわかっている。それに少なくとも死ぬことはないだろうという博士に対して彼なりの信頼もあった。
「よし、入ったね。それでは助手くん、向こうの私によろしく言っておいてくれたまえよ」
「それって――」
一体どういう意味ですか?と訊こうとしたが、それよりも前に博士はスイッチを押し、その瞬間カプセルの中が光に包まれた。目がくらむほどの光。少ししてそれが収まると助手は自分がさっきとは違う場所にいることに気が付いた。自分の入っていたカプセルは消え失せ、目の前には戸惑う助手を満足そうに眺める仁王立ちの博士がいた。
「博士、一体なにが起きたんですか?なんだかさっきの場所と違うような」
「ふふふ。実験は成功だね。ここは研究所から2万キロ離れた場所だよ」
助手は博士の言葉に驚いた。2万キロといえば地球の反対側にたどり着けるほどの長距離だ。
「凄い!これはテレポートの装置だったんですね。さすがは博士です!」
助手が興奮気味に称賛をするも、しかし博士は首をかしげてみせた。
「おや?向こうの私に説明はされなかったのかい?これはテレポートとは少し違うよ」
「そうなんですか?でも僕たちは確かに遠く離れた場所にいるわけですし。……ちょっと待ってください。今なんだか変な言い方をしましたよね。向こうの私ってどういうことですか?それに思い出しました。装置に入ったのは僕だけだったはずです。なぜ博士がここにいるんですか?」
助手の背中に嫌な汗が伝った。なんだかとんでもないことが気が付かないうちに起こっているような気がする。
「ハハハ向こうの私はちゃんと説明をしなかったようだね。落ち着きたまえ助手くん、顔が引きつっているぞ。順に説明していこう。まずは君を転送した装置を見てくれ」
助手が振り返って博士の指さすその先を見るとそこには巨大な水たまりがあった。水たまりは茶色くにごってドロドロとしている。水たまりの中央には長い金属の棒。まるで避雷針のようなものが刺さっていた。
「向こうで君が乗ったカプセル型の装置。あれはいわばスキャナーだ。研究所の装置でスキャンされた君のデータはこの受信機に送信され、ハイボルテージな電気エネルギーに変換した後、あの避雷針に注がれる。そのエネルギーは水たまりの泥を変質させ、スキャンしたデータと寸分たがわぬモノを泥の中から生み出すことができるのだよ。簡単に言えばスワンプマンを自在に作り出せる機械だな」
博士の得意げな顔に対して説明を聞いた助手の顔はどんどんと青ざめていった。
「ちょっと待ってくださいよ博士。それってさっきまでの僕と今の僕は違う人間ってことですよね。さっきまでの僕はどうなったんですか!?」
「安心したまえ助手くん。君は無事だよ。正確にいうなら私たちだな。君も見ただろう?さっき見た私に精神への異常や身体の欠損があったかい?」
そういって博士は脱出マジックを成功させたマジシャンがやるように大げさな身振りでジャジャーンと両手を広げて見せた。博士の大きな胸が強調されるのを見て助手は思わず目をそらす。
「――異常かどうかはおいておくとして、確かに博士は完璧に博士でした。つまり、今ここにいる博士もやっぱりスワンプマンなんですね」
「その通りだ。さて、混乱する君を落ち着かせるため先に説明をしたが。更に詳しい説明はひとまず置いておこう。時間は十分にあるし、なにより物事には優先順位というものがあるからね」
「優先順位?――もしかして、転送した体にはやっぱりどこか異常が!?」
焦りだす助手に博士は用意しておいたタオルと着替えをむりやり押し付けて、ニヤリと笑った。
「まずは服を着たまえ。この装置は一度に運べる物質を一つに固定しているんだ。ハエ男のように混ざるのは嫌だろう?」
助手はそういわれて自分の状態に初めて気が付いた。
自分の今の姿は下着すら身に着けていない。生まれたままの姿だったのだ。
「うわっ!み、見ないでください博士!」
助手は渡された服を抱きしめ、慌てて近くにあったテーブルの陰へと隠れた。博士がその慌てようにため息をつく。
「はぁ。まったく君は、気が付くのが遅すぎるな。それにお互いに裸など見飽きているだろう。今更過ぎる」
「それはそうですけど…。恥ずかしいものは恥ずかしいんです。お互いに裸ならそうでもないんですけど……」
この2人。こう見えて男女の仲だったりする。
「と、とにかくこれで星の発展が更にすすみますね。これからは別の星へ行くのに宇宙船を使う必要がなくなるわけですし。それにこれで星の人口が4人になりました。一気に2倍ですよ2倍。」
「うむ。任務の進み具合がより加速するのは間違いないだろう。しかし急いで実験したのは別の理由だよ。この転送機、妊婦に影響がでるかはまだ未確認でね。妊娠する前に実験しておきたかったんだ。君はみかけによらず中々の狼だからな。いつそうなるかわからんだろう」
そういわれた助手はさらに顔を真っ赤にさせた。ちなみに机に隠れ続ける助手は気づきもしないが博士も声色こそ変わらないものの顔が少し赤い。
ここは地球によく似たある星のある研究所。人類が住める新たな星を作るべくテラフォーミングの真っ最中。彼らは2人は博士と助手で、この星のアダムとイブだ。