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to the last drop of one's blood

それから数時間がたち、時刻は深夜をまわったというのにアルマは現れず、リザはイラついていた

「ったく!あの子は何時になったら来るの!ちゃんと場所も伝えてあるのに!」

「アルマは方向音痴だからなぁ…」

椅子に座りっぱなしで疲れてきた仙一郎はつい相槌をうってしまう。するとリザが顔を突き合わせて話に食いついた。

「そう!そう!あの子ったら!いつもいつも…」

リザの言葉が途中で止まり表情が険しくなる。

「やっと来たね!アルマ!」

その独り言に背後の暗闇が答える。

「キサマも予が、ちょっと道に迷いやすいのを知っておろうが!迎えくらいよこさんか!だいぶ歩き回ってしまったぞ!」

暗闇から現れた人影に仙一郎は声を上げた。

「アルマ!」

「無事か?画学生!」

仙一郎は彼女が自分のために来てくれたことがうれしかったが、同時にこれから何が起こるかを想像すると悲しくもあった。

アルマは彼の姿を確認すると隣に立つリザに目を移し語りかけた。

「久しいのぉリザ!」

「百年ぶりだからねぇ…会いたかったよ!」

「単刀直入に言う。予のモノを黙って返してもらえんか?」

「冗談!」

にらみ合う二人の間にピリピリした空気が漂い、お互いの殺気は仙一郎でも感じられるほどだった。



均衡を破って最初に動いたのはアルマだった。突如、右手に剣が現れ一瞬で消える。

それとほぼ同時にリザは仙一郎が座ったままの椅子を片手で自分の目の前に持ち上げる。次の瞬間、仙一郎の額の数センチ前に剣が静止し鋭い切っ先を彼に向けて浮いていた。

「鎧をも貫く瞬速の剣もコレは貫けないみたいだね?抵抗するなアルマ!」

「ぐぬっ…。」

仙一郎を盾替わりに不敵に笑うリザをアルマは睨みつける。剣は忽然と消え、リザは仙一郎を下ろすと高笑いをした。

「ははっ!愉快!愉快!そんなにこの子が大事かい?ならそのままそこを動くんじゃないよ!そうじゃないとどうなっても知らないからね!」

リザは太ももに隠し持っていたダガーナイフをシースから抜くと仙一郎の背後から喉元に突きつけた。

「この下衆が!」

「そうそう!その悔しそうな顔が見たかったのよ!最高!」

楽しそうにリザが空いている方の手を振ると十メートルほど離れ立っているアルマの黒髪が肩からバッサリと切れ落ちる。また振ると二の腕の皮膚が切れ血がにじむ。だんだんと興が乗り、まるで指揮者がタクトを振るうようにリザが手を動かすたびにアルマの身体中に傷が刻まれ血がにじむ。

「も…もうよいじゃろ?予は一切抵抗せん。煮るなり焼くなり好きにすればよい。じゃから…そいつは解放してくれんか?」

アルマが痛みに耐えながらそう訴えるとリザは、目を見開いてあざ笑う。

「あはは!何言ってんの!本番はこれからなんだからもっと楽しんでってよ!」

リザは持っていたナイフを逆手に持ち返ると突然、仙一郎の太腿に突き立てた。

「ぐっ!」

彼はうめき声を上げる。履いていたジーンズにはみるみる血がにじみ、まるで熱した鉄棒を押し付けられたような熱さが襲う。

「やめんかっ!」

「コールドブラッドの異名を持つあんたがそれほど人間に固執するなんて珍しいね。」

言いながらリザは太腿に刺さったナイフをぐりぐりと動かし、仙一郎の顔は苦痛で歪む。

「あぐっ!」

「やめろ。と言っている!」

アルマの口調は徐々に怒気を帯び、その様子はリザをさらに高揚させていく。そして彼女はアルマに向けて手を突き出した。

「ツィーズアズ…」

リザが、そう詠唱するとアルマを囲むように鋼鉄の棘が現れ、続けて叫んだ。

「アツェール!」

棘はいっせいにアルマに襲いかかり彼女を貫く。

「!!!」

アルマは叫び声ひとつ上げなかったが、その苛烈な攻撃にその場に片膝をついてしまう。

まるでハリネズミのように全身に棘が刺さり傷口から血がしたたり落ちる。

仙一郎はなんとか今の状況を変えようと足の痛みでぼんやりする頭を絞って考えた。そして考えた末、決心した。それは危険な賭けではあったがやってみる価値はあると思った。

静まり返った廃墟にアルマの荒い息づかいが響き、ひんやりとした夜の空気に血の匂いが混じる。仙一郎は意を決してリザに懇願する。

「お願いだからもうやめてくれないか?話を聞いてくれ!」

「何?命乞い。今さらもう遅いよ!」

「そんな、ころころ考えを変えるような美しくないことしないさ!覚悟はしてる。ただ…」

「ただ?」

「やっぱり痛いのは嫌だから、せめて情けをかけて欲しいんだ。これはリザにも得な話だと思う。」

その言葉にリザの動きが止まり話に食いついた。

「へぇ…どんな話?」

「このまま八つ裂きにするんじゃなくて血を吸い尽くして殺してくれないだろうか?吸血の快楽の中で息絶えるなら僕も楽だしリザにとっても、アルマの目の前で僕が血を吸われてミイラになる様子を見せつけるのは復讐として上等なんじゃないかな?」

リザの口元がゆるみ狂気を帯びた高笑いが響く。

「あははははっ!面白い!面白いよ仙一郎!私も別に君のことは嫌いじゃないしプライドの高い吸血鬼への仕打ちとしてそれはなかなかイイ考えだよ!」

そして彼女は刺さったナイフを抜き捨てると仙一郎の頬に両手を当て正面から顔を覗き込んで訊ねた。

「本当にそれで良いのかい?」

「背に腹は代えられないから…」

「聞いたかいアルマ?」

リザは仙一郎の後ろに回り肩から腕を回す。

「……」

アルマは口を真一文字に結び無言でリザを睨みつける。リザはアルマから目を離さずに大きく口を開け鋭い犬歯を仙一郎の首筋に突き立てた。

するとリザはすぐに仙一郎の血の美味さに目を見張った。アルマが彼に固執する理由をこのとき初めて理解した。彼女は恍惚とした表情を浮かべ無我夢中で血を吸い続ける。

やがて仙一郎は頭がぼやっとし身体中の力が抜けていくのを感じた。足の痛みもなくなり雲の上に乗っているようなフワフワとした感覚に包まれる。

リザは一心不乱に血を吸い続け、もはや仙一郎は失血死寸前だった。それはまるで心地よいまどろみのように彼を深い眠りに誘う。

すると突然、リザは彼の首筋から頭を放し胸をおさえて叫んだ。

「がぁっ!」

もんどり打って倒れると真っ青な顔に苦悶の表情を浮かべ、身体を痙攣させて意識を失ってしまった。

うとうとしながらその様子をぼんやりと確認した仙一郎もまた、ほどなくして意識を失ってしまった。



最初に仙一郎が耳にしたのは声だった。

「…ろう!…ちろう!」

はっきりしない意識の中で聞こえてきたのは必死に叫ぶ声だった。

「仙一郎!仙一郎!」

その声に導かれ目を覚ますと、かすむ視界に入ってきたのは心配そうに自分の名を呼ぶ髪を切られおかっぱ頭になったアルマの顔だった。

「やあ!アルマ!」

意識が混濁していた仙一郎は場違いな言葉で応えた。それを聞いたアルマは大きく息を吐いて安堵の表情を浮かべる。

「まったく其方は無茶をしよる!」

アルマに膝枕され横になっていた仙一郎の意識は次第にはっきりとし始める。アルマは服はぼろぼろではあるものの串刺しになった傷はもうほとんど治っていた。視界の端に倒れてピクリとも動かないリザを見て仙一郎は言った。

「なんとか上手くいったみたいだね。賭けだったんだけど…」

「薬も容量を間違えれば毒になるというヤツじゃな。其方の血は強烈すぎるからの。あやつは過剰摂取で失神しておるよ。」

「アルマが無事でよかったよ…」

「馬鹿者!自分の身体を心配せんか!もう少しで失血死するところじゃったんじゃぞ!」

「ごめん…」

アルマはやれやれといった顔で仙一郎の頭をやさしくなでた。それからアルマは表情を一変させリザを睨みつけた。

「さて、それじゃあ…あやつはどうしてくれようか!もう百年ばかり死んでてもらおうか…」

「リザのことは許してやってくれないか?また百年なんて、あまりにも可哀想だし…彼女には昼飯おごってもらった恩もあるから…」

仙一郎の言葉にアルマは呆れた様子で彼の顔を覗き込んだ。

「よかろう、生かしといてやるさ。それよりしゃべりすぎじゃ。もう少し休め!」

「ああ…そうさせてもらうよ。少し疲れた…」

仙一郎はアルマの膝のひんやとした心地良い感触を後頭部に感じながら、これまでになく穏やかな心持で眠りについた。

すでに空は白みはじめ、残月は山際に沈もうとしていた。


取りあえず終わりです。

其の二に続く予定ありますがあいだ空くと思います。

しばらくお待ちください。

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