第4話 パーティーの急成長
「おはよう」
「ん? ああ、琥珀か。フードで顔が分からなかった」
「琥珀? やっと来たわね!? 私達は貴方のいた所よりもっと深くまで潜るんだから次はもっと早く来なきゃだめよ? じゃあ行くわよ」
琥珀とエレガたちはダンジョン前で待ち合わせをしており、琥珀は一応適当なアイテムを町で買ってからの集合だったため少し予定より遅れてしまった。特に何を用意すればいいのかも知らない琥珀はとりあえずアイテムショップからの情報を見て初心者冒険者用と書かれていたアイテムだけを購入したのだ。
琥珀はただ魔物の襲ってこないダンジョンを歩いていきそれが地下5階まで続いた。正確にはメルが魔物を毎回たったの一撃で倒してしまうため琥珀やその他3人に戦闘の出番はないのだ。彼女の魔法は決して強く見えないが、威力はここまででたったの一撃で必ず仕留めていたということはかなり強力なのだろう。
「ここからが貴方の仕事よ」
エレガはそう言い、琥珀を魔物の前へと腰を押した。現在、地下7層目。4層の魔物でさえ仕留めることの出来なかった自分がこの深さの魔物を倒すことが出来るのだろうかと思った琥珀だが、いつものようにその魔物の弱点らしき場所、一番柔らかそうな場所を狙い短剣を鞘から抜いた。
琥珀が短剣をその魔物“コボルトウルフ”を斬るとまるでバターのように滑らかにその首筋が一直線に切れ落ちた。勿論コボルトウルフは生命活動を停止し、その場に倒れ、紫に染まったオーラと共に消えた。コボルトウルフの消滅した場所には数個のアイテムが落ち、琥珀はそれを拾った。
『ポーション(体)C』
これは体力を回復するために使われるポーション。町のアイテムショップで売ってあったポーションはAとB。で、これは町では入手不可能なアイテム。ポーションにはポーションランクというものがあり、そのランクはどれだけアルファベットがAから遠ざかるかでその能力は良いものへと変わっていく。例えばポーション(体)ランクAは擦りむいた程度の怪我を直し、ランクBはちょっとした怪我を直すという感じの効果らしい。
ちなみに琥珀が町から買ってきたアイテムの中にポーション(体)ランクAが5つ入っている。琥珀はあまり使う予定が無いらしいが、ポーションには実際の傷以外にも回復させるものがある。疲労感、体の痛み、ネガティブ。これらのものもある程度は回復させることが出来るようだ。琥珀は怪我などを直すよりこちらの効果の方をより期待している。何故なら昨日、自分がダンジョンに潜っていた時、相手に傷を与えられない事以外にも色々と自分がイライラとしていたように感じていたのだ。そういった余計な感情や考えも戦闘時に支障を負えかねない。
まあ、これがアイテムショップから入手した琥珀の現在知っているポーション(体)の情報だ。値段の割には結構な能力だと琥珀は思う。
と、そこで琥珀は自分の周りが静かだということに気づき周囲を見回した。するとエレガ、メル、エルク、ディアブルの4人以外にもこの階層で狩りをしていた冒険者たち数人が自分を見ている。そして同時に彼らの表情はとても驚いているよう琥珀は感じた。
「一撃…」
ディアブルがそうつぶやきひたすらその場で立ち尽くす。琥珀はどうしたのかと振り向いたが、今のは物理防御壁が無かったのだから一撃で倒せるのは琥珀にとってあまり不自然なことでは無かった。だが、琥珀は一つ忘れていることがあった。それは自分の攻撃力やクリティカルと言われている相手の弱点を的確に攻撃する技が普通の冒険者とはかけ離れて優れていることを。
自分では何も不思議な事をしていないと自身の強さに気づいていない琥珀は唯々、何故周りがこちらを向いているのかと疑問で一杯だった。
「琥珀、貴方本当は凄い人だったのね!」
エレガがこちらへ飛びつきそう言った。マジで抱き着いて来るのはやめてほしい所だが、物理に弱い相手を一撃で倒すのはそこまで凄い事なのだろうか?
「いや、でもこの魔物は物理に弱いんだろ?」
「確かにコボルトウルフは物理防御壁が無いから物理攻撃は直で与えられるようになってはいるけどそれ以上にコボルトウルフの皮膚は硬い。一撃、それもそのように刃こぼれした短剣で両断出来るような相手ではない」
「え、えっと…。それは…」
「いや、しかしコボルトウルフの首筋は案外柔く、かなりランクの高い冒険者がその場所へ正確に命中させることが出来るのであれば一撃で倒すことも出来ると半年前、魔物調査委員からの発表があった。今回の一撃は偶然ながら強力で正確な場所に当てられたということだろう」
パーティーの一員であるディアブルはかなり的確な予想と情報を述べた。それは琥珀にとっても有能な情報であり、この場を納めるのにも冒険者、ダンジョン、魔物などをほぼ知らない琥珀にとってはとても助かった。
「まあ、可能性は無くもないわね。だってたったの4階の魔物ですら倒せない子なのよね!」
「エレガ、彼はまだDランクだ。本来4階はCランクの冒険者が基本だ。彼は自分のランク以上の事をやっているのだからそういう言い方はよくないと思うぞ?」
「はいはい。爺さん、早く行くわよ」
そうエレガはエルクに言い、またパーティーはダンジョン奥深くへと進んで行った。
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「はあっ! ぐっ…。ふぁっ!」
剣と魔物がぶつかり合う音。剣は何度も魔物の皮膚に当てるがその剣先は未だに皮を裂くことが出来ていない。琥珀は先程から短剣二本を魔物に向かって振っているものの、そもそも皮膚に当てることさえ出来ずにいた。何故なら琥珀の攻撃は全てこの魔物が発している防御壁によって防がれているのだから。そしてようやく最後はディアブルの魔法で魔物は横に倒れ消滅した。
「まあ、俺達ではここら辺が限界だろう。もう今頃、外は夕方だ。今日はこのガキがいたせいでいつもより調子に乗ってしまったようだ。さっさと帰るぞ。夜行性の魔物が出現する前に」
現在、このパーティーは地下11階まで潜っていた。実質、Aランク+といった所だろうか。Sランク冒険者が狩る時に来る階層、地下12階へと続く階段は目の前。エレガによるとこのパーティーは地下11階へ来るのは今回が初めてだという。いつもは魔法能力のより必要な11階に現在、地下10階ですら苦しまれている自分たちでは行けるはずがないと思っていたようだ。だが今回、地下10階で見つけた新たな隠し部屋では宝箱があり、開けるとトラップで入り口の扉が閉まり大量の魔物が一斉に襲ってくるというカオスな罠が仕掛けられていたが、範囲魔法で一気に攻撃することができ、後々見ると宝箱の中にもう一サイズ小さな箱がありその中身に入っていた二つの指輪がこのパーティーを地下11階へと進ませる台となったのだ。
ちなみにその指輪というのは装着者の魔力を高め、威力も総合的に1.3倍まで高めるという能力が付いていた。琥珀はそれで自身に魔力が多少でも使えるようになるのではとその指輪を付けてみたが、結果は予想通り、ハズレだった。やはり魔力が0の状態から1.3倍、魔力を高めたとしても結果は0なのだ。
残念な気持ちを味わったのは琥珀のみであり、残りの指輪を得たディアブルとメル、そして仲間が強力な力を手にしたことに喜ぶエレガとエルクの二人はあまりにも強力なアイテムの入手とそれによってパーティーが結果的に倍以上強くなる事を確信し、次の階へと進むことを決断したのだ。
しかし、流石にいくら地下11階とはいえ10階の倍ほどの距離と大きさのあるこの階は進むのにとても時間が掛かった。というよりたったの一日で次の階へ降りることの出来る階段へと辿り着けたのはとても運が良い。いくつもの分岐点があったのにも関わらず、最初の4択の道は全て合っていた。これは超強運と言えるのではないだろうか? この階の地図は12階へと続く階段まで書かれていない。ギルドで支給されている地図でここまで道が書かれていないということはこのパーティーがここへ立ち寄るのはギルド初であり、世界初でもあるということなのだ。いくら冒険者や旅人のよく立ち寄る場所だったとしても、ただの寄り道で本格的にダンジョン攻略をする冒険者はSランクやAランクでさえ存在しない。となるとこの地で暮らし、常連でこのダンジョンへ通う冒険者しか本格的に攻略する者はいなくなる。勿論、ただの中間点に存在するだけの町に高位の冒険者が住む理由も無く、ましてやあまり人気の無いこのダンジョンが特別大きな討伐隊を率いてダンジョンクリアを挑むというイベントも起きない。よって普通、他のダンジョンではもう攻略されているであろう階でさえも未だに誰もたどり着く事は出来ていないのだ。
「そうね。今日は大きな収穫もあったし、次はこの階での狩りが主になりそうね!」
「そういうことになるであろうな。ここまで来られたのであれば多少、手こずったとしても今まで以上の稼ぎを得る事が出来るであろうな~」
エルクは巨大な盾を支えにして立ちそう言い、エレガはとにかく今日の事がとても嬉しそうにしている。
「まあ、危険性を考慮する上では10階から11階へと降りた所の魔物を狩るのが一番だ。今日は流石に全員、俺を含めて調子に乗り過ぎた。次はより確実にここへ再び来るとしよう」
ディアブルはずれた眼鏡を中指で直しながらそう言った。メルは黙って微笑みエレガはとにかく今日の成果を喜んでいるようだった。何だかんだ言っても最後には全員、ここまで来られた事を素直に喜んでおり、今日あった出来事はこれからこのパーティーをより強くさせる。琥珀はそう思った。
なんとなく、同じ日に2話も投稿してしまいました!