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第28話 二人無双

 弾け散る鉄と触手から出た火花。そしてズバッと、重たく鈍い音がするとスライムにも似たもっと大きい物体が斜めに線をかいて切り落とされていく。その物体は真っ二つに切り落とされると最後に仲間を引き付ける能力のある叫び声を出すと地面に落ちて消滅した。


「エレガ、今のは上に弾き飛ばせるのではなく、後ろに押せ。上空だと魔法も剣も当たらない」


「あっ、ごめん! 次から気を付ける!」


 エレガは琥珀に注意され、気を落とした。しかしエレガの気持ちがわからないことも無い。現在、琥珀たちが戦っている魔物は中称“トラップ「触手」”。このタイプは圧倒的に女性から嫌われており、男でさえもその気持ち悪い触手からあまりこの魔物と戦う者はいない。そしてエレガがこの魔物を後方へ押すのではなく、上空へ弾き飛ばしたのはこの魔物から出る無数の触手に触れたくなかったからなのだろう。


「ははっ…なんだこれ…。早すぎる…」


 琥珀たちが戦う後ろで遠くからこちらを見守っていたベルクからそんな声がぽつりと零れる。この階はほぼ全ての魔物が触手を扱う。そのため攻略に掛かる時間はただ強いだけの魔物と戦う以上に遅い。勿論、一発で飛び交う触手の中から的確に魔物を倒すことが出来る魔法を使えるのだとすれば対象がどれだけ醜くとも攻略に時間は掛からない。しかし現在、この“トラップ「触手」”が生息する階は地下7階。ランクはB相当。このレベルの魔物を一発で倒すには最低でも-Sランクの魔法使いが必要となる。だがこれは単に一体一で戦った場合の話でありこの階層の魔物はほぼ全てが集団で行動している。つまりここからは本物の強者以外の突破は不可能。殆どの-Aランクのパーティーはこれより下に行くことは難しい。


 だが、


 スパッ、――ッ


 琥珀とエレガは“トラップ「触手」”が集団で次々と向かってくる中、それを軽々しく切断していく。力にはある程度の隙が出る。威力を高めるには構えの間が隙となる。しかし速さには誰も抗うことは出来ない。それはどのような魔物や冒険者であれ同じこと。


「前回のボスとの闘いではこのパーティー全員、新しく得た武器を試すのに夢中で力任せに戦ってはいたが、今あんたが見ているこの光景がこのパーティーの本質だ」


「なっ、なるほど。道理で簡単にボスを倒しちまうわけだ。はっはは…」


「まあ、あの速度には俺達もあまり付いてはいけないから安心しろ。二人が速すぎるだけだ」


 と、ディアブルとベルクが話していると


 ズドッン゛グガガガッ


 巨大な物体の落下音とその魔物から発生された不快なうめき声のようなものが琥珀とエレガの戦闘中の複数の“トラップ「触手」”の後方から響き渡った。


「フロアボス!? 何故、フロアボスがここに? 本来、フロアボスは人口密度の多い場所に発生するはず…」


 ベルクは驚き恐れ戦闘の準備に取り掛かるが、フロアボスは新たなうめき声を出し後方に吹き飛ばされた。先程まで巨大な宝箱から大量の触手を出したような見た目のフロアボスのいた場所にはエルクが盾を構え立っていた。


「ふぅ…。やはり盾は巨大な魔物を弾き飛ばすのに限る! はっはっはっは!」


 いや、それ盾の使い方じゃないよ?と、誰もがツッコミを入れたくなるような盾の使い方。というより真似をしようとしても誰もが出来ることではない。普通、自身の何倍もの巨体を誇る魔物との戦闘では自身とパーティーの身を守る際、盾使いはその場から動かぬ様足を踏ん張り盾を支える。


 しかしエルクの場合、盾は防御アイテムでは無く対象を後方へ吹き飛ばす際の様は武器なのだ。まあ、これも馬鹿のように鍛えられた強靭な肉体と完璧に相手の軸を把握し、それを目がけて盾を振るうことの出来るエルク以外は不可能な技。


「あの巨体を弾き飛ばしただと…?」


 ベルクは盾使いだ。殆どの盾使いは仲間を攻撃から守る事のみが盾使いの役割であると認識している為、今ベルクの用いた戦闘方法はかなり衝撃的なのだろう。


「そういえば、君達は戦わないの~?」


 ラクスはオーバースペルの魔法使いだ。その見た目は美少年であり金髪、オレンジ色の杖、オレンジ色の装飾品の数々とオレンジ色の魔女帽子。つまり彼は服以外、全てがオレンジ色で装備が統一されている。そしてラクスの質問にメルが返答した。


「ここでは私達の出番は無いです。ここは空間が他より狭いので魔法で援護しようとしても逆に邪魔になってしまうだけです」


「へ~、ということはディアブル君とメルちゃんが魔法を使うのは洞窟内が一気に大きくなる地下10階からってことか~。じゃあ、あまり見れないね~」


 くしゅん と、ラクスがしょんぼりとして琥珀とエレガの無双っぷりを再び眺める。


「えっと…言っておくが俺達は二人の様に特別な事は何一つできないぞ?」


「ん? 嘘だ~」「それは無いな」「絶対に嘘じゃのう!」「ここまで見せられて特別じゃないなんて絶対にないわね」


 と、ラクス、ベルク、老人、ヴァイスのオーバースぺルの全員がディアブルの言葉を否定した。まあ、これほどまでに圧倒的な実力差を見せられてその仲間が何の特別な特技は無いと言っても信じがたいのは確かだ。


「ふぅ…。疲れたわね」


 琥珀とエレガは魔物の死体の山を背に肩や腕を鳴らしながらこちらへ向かい歩いて来る。エレガは少し汗を顔に掻いてはいるが、すたすたと通常通りに歩いている様子からしてあまり疲労は見られない。琥珀は全く疲れの様子は見せておらず、汗を掻いているのかも分からない。ただオーバースペルのメンバー4人は同時に心でこう思ったことだろう。

「全然、疲れてねぇだろ!」と。


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