第２６話 違和感
ミルドの土地は上空から見ると真四角と言われている。その理由は都市を中心として真四角の同じ距離の同じ高さの壁がミルド全体を大きく囲っているからだ。数百年前、この都市には囲いなど存在しなかったと書物には綴られているが、どの時期にどのような理由でどうやってこれほどまでに頑丈な壁を作り上げられたかも定かではない。しかし“壁”はいつの間にか存在している。そして数年前を境にこの都市は注目を浴び始め人々は移り住むようになった。
「何か変な気分ね」
周り一帯は巨大な壁に包まれており、一切山や森などが見えない。都市部では緑が見えないというのはありがちだが、上空以外の風景が壁というのはとても違和感がある。そしてまるで入れ物に入れられているかのような気分に襲われる。
「変な気分というのもそうですが、ダンジョンの様に何か壁からほんの少しずつ魔力を吸われているような気分ですね…」
「どういうことだ？」
「いえ、これは単なる感ですが、ダンジョンに入るといつも魔力をほんの少し吸われている気分になるんです」
近年になって有名になり始めたこの都市、ミルド。そしていつの間にかミルドを囲うように建てられていた巨大な壁。この二つには必ず何か関連性があるように感じるが、メルの言う通り壁が魔力を吸っているのだとすれば何か嫌な予感がする。
「ディアブルはそのような事を感じた事はあるか？」
試しにメルと同じ魔法使いであるディアブルならこの現象を感じ取っているのではと聞いてみるが、
「いや、俺は全く感じない」
どうやら同じ魔法使いでもディアブルは何も感じてはいないようだ。そしてメルは頭を下げ申し訳なさそうに言った。
「あ、もしかしたら私の勘違いかも知れないので…忘れて下さい….」
メルの勘はよく当たる。今回は勘ではなく、本当に何かを感じ取っているかも知れないが、とにかくこの都市は何かが変だ。活気も人口密度も他の都市同様。この巨大な壁が無ければ他の町と何ら変わりは無い。しかしどこか他とは違い、得体の知れない違和感を覚える。
少し歩くこと数分、遠くの方には噴水が設けられておりその周辺には他と比べて大きい建物が密集していた。どうやらあそこが門番をしていた警備兵の言っていた冒険者ギルド、宿泊施設のようだ。確かに冒険者ギルドと宿泊施設は彼の言っていた通りの並びであり、案内をされずともとにかく中心部に行けば嫌でも分かるくらい中心部周辺の建物はどれも道と配置の整備が整っていた。
『ミルド冒険者ギルド』
そう名の書かれた建物が一つ。どの建物よりも大きく、そして煌びやかなミルドの冒険者ギルドには大勢の冒険者や人々が出入りしているのが窺える。
「凄い人の数！ ミルドってこんなに都会だったかしら？」
「恐らくダンジョンが現れてからというものここ周辺からだけでは無く、遠くの国々からも冒険者が集まっているのだろう。まあ、大抵の冒険者たちの目的は同じだろうがな」
「知名度…だな？ 有名な冒険者になりたいと思うのは若者の特権だからな！ はっはっはっは！」
「まあ、最終的にはその内の殆どが有名にはならないんだけどね～！」
「違いない！ はっはっは！」
エルクとセインはまるで他人事のようにそう言いあう。まあ、その“有名な冒険者になりたい”と思いここへ来ているのは俺達も同じなのだが…と、琥珀は心の隅で呟きながらも黙々と冒険者ギルドへ向かう。
「まあ、最終的にここで功績を残すのは私達だけだからね！ 他の冒険者たちはただの踏み台に過ぎないわ」
この場の５人は何かが起こると琥珀が何とかしてくれるとでも思っているのだろう。しかし残念ながらここでは有名になる得策や作戦など一切存在しない。ただこのダンジョンを他の冒険者たち同様、普通にダンジョン内の魔物を倒していく。それだけだ。まあ、このパーティーメンバーは全員、この数週間で新たに隠し部屋で得たアイテムを身に着けているため注目はされると思うが…。心配なのはカインの件で売れ渡った以前のエレガたちの武器と防具を使用した冒険者たちがこのダンジョンに来ている可能性だ。防具はまだしも4人分のボス戦で得た特殊な武器の数々が売れ渡ったのはかなりの脅威だ。あれらは強力な武器だがあの時はまだ使用者がAランクのエレガたち。それも急激にAランク上がれたのは殆どが隠し部屋から得た武器と防具のお蔭だ。
これがもし低ランクの装備品でSランクまで昇りつめた冒険者たちが装着したとすると…。それらの冒険者たちは驚異的により強くなりボスさえも軽々倒した琥珀を含めるこのパーティーの何倍も強いということになる。幸い、まだ冒険者たちの活気があることからして このダンジョンのボス攻略はまだされてはいない様だが、必ず近いうちにそれらの武器を得た冒険者たちが攻略することだろう。
せめてその前に攻略しなければ…。
