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第24話 デンスニズム

「全員、荷物の忘れ物は無いか?」


 ディアブルが御者台からその後ろに乗っている琥珀、エレガ、エルク、メル、セインの4人全員にそう言った。ちなみに馬車は最安値の物であり安全と速さは保証できない。それに加えて馬車を覆う屋根は何かの皮で作られているらしく、今日から始まる長い旅にどれほどの影響をもたらすのか逆に興味が出てくるくらいにボロボロだ。


「うん。忘れ物は問題無いけど…ねえ、やっぱりちゃんとした馬車買った方が良かったんじゃないの?」


 ヒュ~~~~。ギシギシ、バ、バキ…。


 そよ風により嫌な音が響き渡る。そしてディアブルが馬の綱を引いたことにより馬車が動き出し、より一層音は大きくなっていく。


 ギシッギシ….バキッ…バコッ!


「…….。今、何か折れたような音がしたのだが…」


 ディアブルは慌てて音のした自分の足元から離れ、優しく「トントンッ」と、その場所を踏んだ。そして安全確認をし、注意深くいつでもその場を避けれるように座り、再びいつもの冷静さを取り戻した。


「気のせいだ…多分。今は資金が少ないのだから仕方がないだろ? 文句があるならセイン、お前がその“ちゃんとした馬車”を買ってくるか?」


「あはは…! 遠慮しときまーす!」


「お! そういえばメル、前に物の強化とコーティングが出来ると言っていなかったか?」


「は、はい。よく覚えてますね、エルク!」


 メルは声を高くし、嬉しそうに答えた。


「ということは…。メル、馬車を強化してもらってもいいか?」


「勿論です!」


「しかし、魔力は大丈夫か? メルは魔法の扱いは上手いが魔力量が少ないからな….」


 心配そうにそう問いかけるディアブル。時々、思っていたがディアブルとメルが喋っている時には必ず親子オーラのようなものを感じる。実際は違うものの、もし町中で二人を見ることがあれば必ず誰もが親子と思うことだろう。まあ、そんな事はどうでも良いとしてエルクによるとメルは物の強化とコーティングの魔法を使えるようだ。それがどのような効果を発揮するのかは解らないがとにかく物を多少なりとも丈夫にする魔法だということだけは理解できる。


「ふっふっふ…。こんなこともあると思って、闇市場へ琥珀に連れて行ってもらった時にこっそりこんなアイテムを買っていたんです!」


 そう言い、メルは指に刺した紫の宝石の付いた指輪を自慢げに見せた。すると琥珀は眉間にしわを寄せ聞いた。


「一応、聞いておくがこの指輪の効果は?」


 指輪の宝石は紫色。そして近くで見る限りその宝石の中では紫色の物体が活発に渦を巻いてうごめいている。これは確実に魔力だ。しかもこれは数ヶ月に国のとある魔法学者が発表し、かなり注目を浴びた"魔力を物体化にしたものを百分の一に圧縮し、発生した魔力粒子の引力により魔力の渦のようなものができる現象"、デンスニズムとよく似ている。とは言ったものの、琥珀は今まででまだ一度しかデンスニズムを目にした事は無いのでこれが本当にそうなのかは不確か。しかしもしそうなのであればこの指輪はかなりの代物ということになる。


「メル、一体どうやってこれを得た?」


「え? 普通に闇市場に並んでいたお店の商人がこの指輪を勧めてくれて、とても綺麗で効果も凄かったので買いました! …値段はかなり高かったですが、丁度貯金の分を持ってきていたのでギリギリ買えたんです…」


「いや、そうではなくて...........。その商人の顔は覚えているか?」


「いえ、もう全然覚えてないです」


「そうか…。」


「あっ、あの…。すみません」


 メルは申し訳なさそうに深く頭を下げ、そう言った。


「いや、メルが謝る事じゃない」


 そう。本当にメルが謝るような事では無いのだ。だが本当に誰がこの指輪をメルに売ったのだろうか…。このデンスニズムと呼ばれる現象が発表されたのはごく最近。記憶が曖昧な為、完全に思い出すのは無理だが、最低でも4か月前には発表されていたはずだ。そしてその時の発表ではかなり巨大な機械によってデンスニズムは作り出されたいたが、この指輪はその何倍も小さい。たったの数か月でこれ程までの大きさまでデンスニズムを小型化し、アイテムを作るのは不可能に近い。つまりこの指輪はダンジョンドロップのレアアイテムか、もしくはデンスニズム発表前から何者かが作成していた裏ルートの代物。


 もし二つ目の裏ルートからのものだった場合、何者かが意図的にメルに売った可能性が高い。この様なアイテムはそう簡単にそこらの人間に廻ることは無い。これはデンスニズム製作者と周囲の人間関係を調べなければなさそうだ。


「とにかく、その指輪があることによりこの馬車の強化とコーティングは可能か?」


「はい! 全然問題ないです。町を出る前からずっと魔力をこれに溜め続けていたので!」


「それは良かった。では頼む」


 するとメルは「はい! わかりました」と、元気よく返答すると物体強化魔法とコーティングを発動した。一瞬、馬車全体が緑と青のオーラに包まれその直後には先ほどまでの嫌な音や破れた皮の屋根や垂幕から漏れて流れ込んできていた風が収まった。物体強化魔法はその名の通り物体を強化する効果があるようだが、屋根や垂幕の穴から流れ込んでいた風の進入も阻害しているということはコーティングの魔法は布一枚のコーティングというよりは馬車全体のコーティング。つまり穴や板、車輪や鉄の部分などに空いた穴や折れて外れてしまっている部分もコーティングで繋ながった状態へと修正されているのだろう。


 今、改めて思うが魔法は便利なものだ。その人物が生きている限り、魔力は何回でも生み出される。そして魔法は道具が無くともある程度は使うことが出来る。自分は何故、このような力に恵まれなかったのだろうか? そう時々思ってしまうが、魔力無しに生まれてきたのであればどうあがいても仕方のない事だ。


 もし、魔力があれば。もし魔法が使えれば。そう考えだすと――――――


 自分の運の無さに吐き気がする……。


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