第20話 闇への一歩
「んん……..」
目の前の現状に頭を傾け、そう。琥珀は今、このダンジョンの魔力量問題に悩まされていた。
「何、深刻な顔してるのよ?」
冒険者狩りを始めてから一週間が経ち、パーティーの財力は以前と比べ計り知れないほど多くなっていた。その理由は冒険者から得た装備やアイテムを全て闇市場に流し、今では毎日のように装備品を買い求めて来る闇商売人が数組いるほどだからだ。しかし、いくら財力が上がりども、ダンジョンの魔力量が圧倒的に下がり、今ではこの『鼠ノ洞窟』へ狩りにくる冒険者の数がかなり減ってしまっている。
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~鼠ノ洞窟~(改名可)
ダンジョン魔物管理各階 :20
ダンジョン全体トラップ数:0
ダンジョン使用魔力量:670MP/週
地形 :ノーマル
ルート :ノーマル
魔力総合量 :-3800MP
ダンジョンレベル :3
経験値 :78/1000
能力:共有
能力:生成(使用制限1)
能力:吸収(使用制限1)
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これが今の『鼠ノ洞窟』の状態だ。
ダンジョンレベルと経験値とやらは以前と何の変わりも無い。
魔力総合量は以前より2200MPも下がっており、ダンジョン魔物管理各階は50。そしてダンジョン全体トラップ数はそもそも一つも設置されていない。これはダンジョンにとってかなり“ヤバい”自体と言えるのではないだろうか?
しかし、何故必ず毎回冒険者から魔力を【吸収】で奪っているというのにこれほどまでにダンジョンの魔力量は少なくなっているのだろうか?
まず、以前のダンジョンの情報画面には
ダンジョン使用魔力量:5000MP/週
とあった。つまり毎週のようにダンジョンは魔力量5000MPを使うというところまでは理解が出来る。しかし以前のダンジョン総合魔力量は-1600MP。急激に三日前、5000MPが引かれ、一時は-6436MPまで減少したことはあったが、そもそもダンジョンに魔力が無く、数値が0より少なくなっているということは魔物を生成する資材となるものが無いといいうことだ。だが、今回ダンジョンの魔物管理各階では数が20になっていた。そしてセインの情報によると全ての階に魔物が20体しか生成されていないことからしてこの魔物管理各階というのは各階につきどれ程の数の魔物が生成されているのかということだと推測できる。
今はこの一週間で数十組の冒険者たちを襲っている為、【吸収】による彼等からの魔力でダンジョンの総合魔力量は大体-3800MPにまで復活したわけだが…。3日前、つまり月曜日に総合魔力量は5000MP減り、ダンジョンの魔物数が減ったということは来週の月曜日までにこのダンジョンの総合魔力量がまだマイナスの数値だった場合、ダンジョン内の魔物の数が今以上に下がる可能性がある。そしてそれ以外にも何かしらペナルティーが課せられる可能性がある。
と、考えている内に横から「ねえ? 聞いてる?」と、エレガが何回にも亘って聞いて来るため、これ以上無視し続けると起こり始める可能性があったため、琥珀はエレガに返答することにした。
「ああ。さっきからエレガの声はちゃんと聞こえている。ところであれからダンジョンの情報画面は見ているか?」
「いえ、あんまり?」
「なら今すぐ見て見ろ」
するとエレガは情報画面を表示し、そこに書いてあることを確認した。
「え…? 総合魔力量が前より少なくなっているじゃない!」
「ああ。それだけではない。最近、ダンジョン内の魔物の量が少なくなっている理由もこの魔力量が少ないせいだ」
「魔物が少ないとどうかなるのかしら?」
不思議そうに訊くエレガ。
「ダンジョン内の魔物数が少ないということはダンジョンに来る冒険者たちが少なくなるということだ。そして今、俺達のしている冒険者狩りはダンジョンに潜りに来る冒険者たちがいなければ成り立たない」
「そうかしら? そんなに冒険者の数が減っている気はしないけれど…」
エレガは少し上を向きここ数日の事を思い出しているようだが、どうやらあまり覚えてはいないようだ。まあ、地下7・8・9階どれかの階段前の冒険者の集まる場所でディアブルとメルの待ち構える通路に向かった冒険者の情報を流す役割兼、他の冒険者たちと同じようにただ狩りをしているだけと偽装工作をしているエレガとエルクは常に冒険者たちから囲まれている為、実際どれほどの冒険者たちがこのダンジョンに来ているのかはあまりわからないのだろう。寧ろ琥珀の思惑通り、謎を解きに来る冒険者たちは大勢おり、一日に5組ほど来ていることからして魔力、装備品、アイテムを吸収されに来る冒険者たちは多いと言えるだろう。
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「で、今日はどこへ行くの~?」
琥珀にそう言うセイン。現在、琥珀はパーティーメンバー全員を集め、とある場所へと向かっていた。その場所の名は闇館。そして琥珀たちは目的地へと着いた。
「ここは…。治癒薬店だな…。俺達も何回か来た事があるが、何故ここへ?」
「そうだな。少し買いたいものがあってな」
そうして琥珀は治癒薬店へ入って行く。他の5人も琥珀につられて店内に入るとそこにはエレガたちの想像通り、様々な薬が店内中に置いたあった。
「あ! そういえば、これ。前から買いたかったのよね~。まあ、前はお金が無くて買えなかったんだけど、今の私なら!」
そう言い、エレガは店内の入り口から右に並び壁になった薬の棚から一箱の薬を取り出し、店員に買い求めた。
「あの、これ買います」
「地龍の尾を灰にして作られた速度上昇薬か、料金は2万だ。一緒に体力上昇剤はどうだ? 今なら一箱30入りで1万だ」
そう言い、店員は体力上昇剤を進めたが、
「いや、その必要は無い。それと速度上昇薬はキャンセルだ」
と、琥珀がエレガの差し出そうとしていた3万とその手を琥珀は払い、代わりに一枚の紙をその店員に差し出した。
「代わりにこの紙を買わせてくれ」
琥珀がそう言うと、店員は顔色を変え、言った。
「10万だ」
「10万!!? この紙きれが10万もするというのか? 魔力も呪文も掛かっていないぞ?」
確かにディアブルの言う通り、この紙には魔力が無く、魔法も掛けられていない。呪文の印も無く、決して紙質の良いものでもない。しかし、琥珀は店員に10万を差し出す。そして琥珀自身もこの10万を一切惜しむことはなかった。何故なら―――
「では10万頂きました。商品の受け取りはあちらからになります」
そう言い、6人は店裏へと案内され武器や防具のある個室へと通された。そして店員は琥珀たちが全員この個室に入った事を確認すると個室の部屋を閉じ、再び店内へと戻って行った。すると床が振動と共に徐々に下へと下がって行き、あっという間に床はあり得ない程の深さまで下がり、武器や防具の掛かった個室まではかなりの高さがあった。そして少しすると真っ黒な地面の壁と床の隙間からはほんの少しの光が見えて床の揺れが収まると目の前にはエレガ達にとって信じられない光景が待っていた。