星降る夜
久しぶりです。
寒いですね(・・;)
いつだったか
これは星が瞬き、流れた夜空の話。
上を見上げれば、綺麗な夜空に流星群が流れていました。
『また一緒に流星群、見ようね』
この約束は、青年が少女と交わした約束のひとつでした。
あの瞬間の彼らは、今までで最も幸せだったと言えるでしょう。
でも今は――――
その青年は、居ません。
―――――
湖に少女が波紋を作り、仰向けに浮かんでいました。
少女の見つめる先は夜空。
その夜空には流れ星が流れていました。
「流れ星、綺麗だよお兄さん」
少女の小さな呟きは、誰にも届きませんでした。
少女は涙を流してこそいませんが、声には寂しさが滲んでいました。
少女がいつも抱いていた熊のぬいぐるみは、湖の側の椅子に座って居ました。
少女の視界の端に蝶が入ったので湖から出ると、既に迷い人の存在が近くにありました。
少女は髪に蝶が止まるのをくすぐったそうに笑って受け入れました。
迷い人はこの綺麗な景色に、ただただ呆然としていました。
そして少女を見つめ、聞きました。
「あの、ここは……
迷ってしまったみたいなんですけど」
迷い人の弱々しくてか細い声が少女の耳に届きます。
「ここは迷いの森、ようこそ迷い人」
微笑んでそう返す、少女の声はどことなく嬉しそうでした。
「丁度綺麗な流星群が来てるんだ、一緒に見ようよ」
そう言って迷い人に駆け寄った少女の瞳は、とても輝いていました。
迷い人にも拒否するだけの理由は、ありませんでした。
少女の冷たい手に、優しく腕を引かれて湖の前まで行くと、湖の中央に飲み物とお菓子が低いテーブルに用意されていました。
そして、少女が迷いなく湖の上に立った時、迷い人は驚きました。
軽い水飛沫と波紋を広げて、きゃっきゃっとはしゃいでいた少女は、腕の先で驚きと躊躇で、湖に足を着けられない迷い人を、根気良く待ちました。
数分後、迷い人が足を踏み出した時、足は不安定な水では無く、雨で濡れたコンクリートの上や、氷の上に立っている様な感覚に驚きを隠せませんでした。
そして、少女に腕を引かれて湖の真ん中で波紋を広げながら一緒に寝そべりました。
湖は温かく身体を包み、背中を柔らかく支え、無理なく湖面に押し上げました。
その不思議な感覚に、迷い人は軽く驚きつつも、落ち着いて夜空を見上げました。
「時間はたっぷりあるからゆっくり見よう」
迷い人の隣から、少女の優しい声が聞こえます。
本当に流れ星は綺麗だと、迷い人はそう感動していました。
キラリ、と光ったと思ったら時々夜空に流れる星々は輝きを絶やしません。
その光景はどう表現したら良いのか、という程美しい物でした。
そういえばと、顔を横に傾ければ、視界に青く輝く蝶と、色合いの異なる蝶達が映ります。
迷い人の目には、まるで流れ星を眺めながら、戯れている様にも見えたのです。
その様子が、仲の良い恋人に見えてしまった事で、迷い人は考え込んでしまいます。
「蝶の、番?」
私には、憧れている人が居る。
あの人は私よりも少しだけ年上で、おとなしい性格が、冷静な大人っぽく見えて、格好よく映った。
あの人みたいになりたいと、思っていた。
今思えば、私はきっとあの人に淡い恋心を持っていたんだと思う。
あの人は私の尊敬する人で、憧れであるはずなのに。
あの人を追いかけていれば、いつかきっと褒めて貰えると、認めて貰えると思って頑張っていた。
けど、向上心に対する動機が悪かった。
それを見透かされて指摘された時、自分が恥ずかしくなった。
何故私は、こんなに下心が透ける様な向上心しか持てないのか、と。
自分勝手にも泣きたくなった。
そして私は次に同じ様な事で傷付けばきっと、あの人にどういった態度を取れば良いのかが、判らなくなることを知っていた。
だから私は、あの人を遠ざけようとした。
結果、完全に遠ざける事は出来ず、代わりに私は恐れていた傷を負った。
目の前が真っ暗になった様な、闇の中に落ちてしまった様な感覚さえ感じた。
そして私は逃げ出し、森に迷い込んだ。
「ん、あれ……」
「あ、起きた?
おはよう、きっと疲れてたんだね
まだ流れ星流れてるけど、どうする?」
そこで会ったのは、今目の前で心配そうに私の顔を覗き込んでいる、私より体格が年下のような精霊様。
さらり、と腰まで流れる青みがかった銀髪。
私と繋いでいる手は、華奢で雪の様に白い。
私を見つめる瞳は、髪と同じ青みがかった銀色。
そして、白いフリルに紺色のリボンのアクセントが入ったロリータ風のワンピース。
精霊様の体格は小さく、雰囲気は優しい。
長年を生きてきた歳上の様にも、歳相応の少女の様にも見える。
せっかく流れ星を見ようと、誘って下さっていた。
それなのに、流れ星を少し見たら考え事に没頭してしまった上に、湖の温かさで寝てしまうとは。
優しく、美しく微笑む精霊様が、今は大人びて見える。
私の知っている御伽噺の様な、あの昔話が本当なら、この方は私より年上で、何百年と生きている精霊様と呼ばれる存在だ。
「ごめんなさい、精霊様
だけど、もう少しだけこのまま……」
「うん、大丈夫だよ
おやすみなさい」
…………君の傷が少しでも、癒えると良いな
精霊様の声は心地良く、私の睡眠を促した。
私の瞼がゆっくりと降りる中で、呟かれた精霊様の言葉は、小さすぎて聞こえなかった。
あれ、精霊様。
さっき何て、言ったんだろう。
少しだけ、気になるな。
そう思いつつも、湖の温かさと眠気には勝てず、結局私は眠ってしまった。
季節感皆無ですが、ここで失礼します。