未来
お待たせしました。
久しぶりの更新です。
現状を変えたかった。
もっと言えば、逃げ出したかった。
心が壊れそうだった。
本当はそれが正しく無いと、知っていた。
それでも、逃げ出さなければ気が狂いそうな気がした。
一瞬でも、死んだ方がマシだと思ってしまった。
だから、青年は走り出しました。
その場所には居たくないと言う様に。
逃げ出してやる、と言わんばかりに。
『お兄さん、だあれ?』
そんな時、青年は知らず知らずの内にある森に迷い込み、一人の少女に会いました。
少女は既に精霊様と呼ばれていましたが、青年はそれを知りませんでした。
―――――
迷いの森に季節はありません。
それでも、視界の端々に現在の季節を現す物がありました。
迷いの森に時間はありません。
それ故に、時間を気にする事無くゆっくりする為の物がありました。
少女はこの永遠とも言える夜の森を、綺麗な月の映る湖を眺め、蝶と共に戯れる事で過ごしていました。
迷い人が現れる度、少女は僅かな一時を迷い人と共に過ごしていました。
いつの間にか、少女は精霊と呼ばれていました。
そして精霊と呼ばれた少女は、今宵も迷い人の道を一緒に探すのです。
私は精霊様に、全てを話した。
本当は怖くて仕方ない、この感情を表に出さないよう注意しながら。
なるべく淡々、と語った。
「きっと、今のお姉さんに必要なのは、休息だったんだよ」
「きゅう、そく?」
「お姉さんの心は、余りにも疲れ切ってる
存在が薄いのはそのせいだったんだね
お姉さん、ずっと頑張ってたんだね」
彼女の心に、少女の言葉がじんわりと染みる様に響く。
少女は同情でも悲哀でも無くただただ、優しい瞳で認めていました。
彼女は憑き物が落ちた様な、清々しい笑顔で涙をほろり、と流しました。
「あれ?
何で涙が……」
そんな私を、精霊様は優しく抱きしめてくれた。
その後は蝶を眺めたり、触れ合ったり紅茶を飲んだりと気が付けば笑っていた。
試しに湖の上でピアノを弾いてみた時には上手く弾けて感動したり、この一時を精霊様と共に過ごして沢山お礼を言った。
「認めてくれて、有難う。」
「お姉さん、もう大丈夫?」
「えぇ、私はもう自分で立ち上がれるわ
大丈夫よ」
そろそろ精霊様とお別れ、なのかな。
ちょっと悲しいな。
「そっか、お姉さんは自分の未来を見付けて、選んだんだね」
精霊様は、本当に嬉しそうに微笑んだ。
私は最後に精霊様を抱きしめた。
精霊様も私の背中に手を回して耳元で呟いた。
「どうかお姉さんに、蝶の導きと湖の幸があらんことを」
気が付けば、私は見覚えの無い部屋で寝ていた。
そこが病院の病室だと知ったのは、私のお見舞いに来てくれていたらしい友人から聞いたからだった。
どうやら私は病室で一週間程、意識が無かったらしい。
家族にも友人にも、沢山心配をかけてしまった様だ。
「そういえば、今日は私以外にも誰かがお見舞いに来たのかな?」
「え?」
「ほらこれ、綺麗な蝶のロゴが入った袋
気が付いたらここに置いてあったみたいなのよ」
……蝶
「ふふっ、きっと精霊様がお見舞いに来てくれたのね」
窓の近くの棚に、そっと置かれていた袋の中身は紅茶だった。
ロゴの青い蝶。
それはさっきまで一緒に居た精霊様を連想させる物だった。
……有難う、精霊様。
次回も不定期更新になります。
気長にお待ちくださいませ。