想い
お久しぶりでございます
最新話の更新でございます
ここは、何処だろう。
俺はさっき車に……
あれ、じゃぁ俺は死んだのか。
でも、それにしては冷たい筈の身体は温かい。
それに懐かしい感じがする。
瞼は重く閉じて暗く、何も見えない。
でも何処かの空間に居る事は分かる。
暖かく優しい風が俺の頬を撫でる。
ん?
誰かが俺の髪を撫でてるのか、温かい感触もする。
それに、倒れている筈の俺の後頭部が柔らかい。
コレは一体。
目も開く事も出来ず、どこに居て周りに何があるのかわからない。
ただ、ここが怖い所じゃ無い事だけは分かる。
それでいて、何故か安心出来る暖かさが胸に溢れる。
「ねぇ、先輩
私ね、先輩の事が大好きだったよ
勿論、今でも大好き
だからね――――――
耳元であの子の声がする。
視界は変わらず真っ暗だ。
それが嫌で後輩の顔を見ようと目を開こうとする。
すると、また耳元で優しく後輩が呟いた。
「少し、先輩の時間を頂戴」
その瞬間、視界が開いた。
美しい夜空、存在感のある煌めく湖。
最近はよく見慣れた、淡い輝きを放つ蝶。
そして蝶と戯れ、俺に気が付いた瞬間に悲しげな表情を浮かべる見覚えの無い少女。
白銀色の髪と瞳の色を持ち、美しさと儚さを同居させた様な少女は人形の様にも見えた。
「こんばんは
あの子が待っているよ」
俺が何かを質問する前に柔らかくそう言った少女は、ある一点を指した。
少女が差す指の先には湖。
「あの子は君をずっと待ってる
案内するね」
そう言って少女は俺の背中を押した。
バシャンッ
大きな音の割りに痛くないなと思い、目を開く。
空気を含んでふわりと浮かぶ洋服と身体に纏わり付き、動きを鈍くさせる水の感覚があまりにも現実的で息が吸える気がしない。
息を吸ってしまわない様に鼻と口を両手で押さえる。
少し後から来た少女は静かに湖に入ったのか、空気すら含んでなかった。
そこに驚く暇も無い程に、湖面のカーテンの様な光に浮かぶ少女は危うい美しさを孕んでいた。
「こっち」
そう、声が聞こえた気がした。
不思議に思ってると、少女は俺が息を吸っていない事にやっと気付いたらしく、くすりと楽しげに微笑んだ後、息も吸えて声も出せる事を伝えてくれた。
言われた通りに息を吸ってから切れ切れの息を整えていると、少女は湖の底を指す。
底には一面真っ白な町があった。
町を照らしていたのは、俺の隣を一匹ずつゆっくりすれ違ってる蝶だった。
あまりにも幻想的で、こんな所に街が……とかなぜ真っ白なのかとか考える暇も無かった。
そうして少女に連れて来られた場所は、街の端にある教会だった。
「この先よ、久しぶりの再会になるね」
そう言って少女が両手で教会の重厚そうな扉をゆっくり開けると、湖面越しに入る月の光を上手く生かす作りのステンドグラスを沢山使った天窓のある、礼拝堂が見えた。
長椅子が並ぶ中央は絨毯の敷かれた道だった。
その先で、女神像に祈るあの頃と変わらない姿のあの子が居た。




