ミルフィリア
お待たせしました。
森の奥深くに迷い込み、湖に沈んだ少女が死して尚強く願ったのは自らの家族への償いでした。
そして少女の強い願いを具体的に叶えたのは湖の奇跡と少女の願いから生まれた青い蝶でした。
少女が次に目を覚ましたのは湖の傍でした。
一度湖の底に沈んだ筈の少女は目を覚ますと、夜にしては暖かい空気と美しい模様と綺麗な生地で出来たワンピースを纏い、湖の傍で倒れていたのです。
少女のボヤけた視界の端で月が淡く美しく湖を照らし、湖の近くに柔らかな青が通り過ぎました。
「誰か、居るの?」
そんな少女のか細い不安げな声に応えたのは、青い蝶でした。
当然、蝶なので声を出すことも無くただ淡く輝き、少女に寄り添いました。
これが少女が蝶を認識した瞬間でした。
同時に、少女がミルフィリアとしての覚醒を果たした瞬間でもありました。
少女は自身が落ち着いた頃に空を見上げ、やっと月の美しさに気付き、蝶に視界を奪われ、慌てて湖を見ると湖から青い蝶が少しずつ出て来ていました。
少女はその時に湖の美しさに気付きました。
そして、少女が湖に存在する様になってから時間が経っても湖は時が止まった様に夜が明ける事はありませんでした。
そして少女は膨大な時と共に、永遠に待ち続けました。
家族に会える日と、誰かが来る事を。
――――――
「長々とごめんね
これが今までの私の過去、かな」
湖の上で蝶の羽を眺めて、そう言ったミルフィリアはどこか懐かしそうに、それでいて苦しそうに遠くを眺める。
そして僕の目の前には、小さなテーブルの上に紅茶が置かれていた。
「ミルフィリアはずっとそうやって、謝りたい相手を待っていたの?」
「うん
そう、だね」
ミルフィリアの寂しげな返答は、僕の心を締め付けた。
第三夜、ここで一度区切ります




