第六章 6話 浅き夢見し
非常に珍しく、出雲寝瑠は起きていた。
そう、雨が降るどころか槍が降ってもおかしくはないが、今のところは雨ですんでいる。
「槍が振るってどういう状況だろうな」
ふと思ったことを口にする。
「何でまた唐突にそんなことを言い出すんだい?」
「いや、お前が起きてるのを見るとふと思ったんだ」
「なんだとぉ、ぼくが起きてるのが珍しいからって槍が降るわけないじゃん」
まあ、実際に降られると災害以外の何物でも無い。
「しかし、夢の世界に戻れないか」
「そうなんだよね。
いくら寝ても夢を見られないの。
夢ってどうやって見るんだっけ?」
「その質問は、専門外だな。
解決してくれそうなのは脳医学者ぐらいか?」
「本気で言ってる?」
「まあ、医者に診せて解決するくらいなら組織に所属する意味も無いよな」
「他に心当たりは無いの?」
そう言われて少し考える。
夢の能力を持つ人、あるいは、そういった人を知っている人。
知らないな。
夢の世界には、寝瑠の能力を利用して俺自身行ったことがあるが、その時の情報が役に立つ事は無さそうだ。
「そういえば、そう言ったことは、組織の方が得意だと思うんだが、組織ではなんとも出来ないのか?」
「うん、技術寄りなら相談できるけど私の能力は特殊寄りだからね」
「そうか」
「探すことは、犬太郎が一番得意なことでしょう?」
「手がかりがあれば、なんとかなるが、なんともな」
どうしたものかと、考えているとポケットに入れていた携帯が鳴る。
「誰から?」
「折原隆一郎先生からだ」
「ああ、あのマフィアっぽい人ね」
まあ、間違いではない。
適切な表現としては、老紳士のほうが正しいが複数の意味で。
『おう、犬坊久しぶりだな。
元気か?』
「お久しぶりです先生、どうされました?」
『あの寝坊助に用事があるんだが、繋がらねぇんだよ。
話を犬坊から寝坊助の耳に入れておいて欲しいと思ってこうして連絡を取ったってところだ』
「そうですか。
出雲寝瑠なら丁度眼の前にいます。
しかし、どうしたんですか?
今の寝瑠の状態を知らないわけじゃないでしょう?」
『ああ、そのことで良い人物を探り出せたんで報告しようと思ってな』
「良い人物?」
『ああ、犬坊は知らなかったか?
噂の主と呼ばれる人物なんだが』
「ああ、あの人ですか」
『なんだ知ってたのか』
「姉の友人です」
『ほう、そりゃ意外な繋がりがあるもんだな』
「顔が広いですからね」
『そうか。
そっちからでもいけたのか』
「しかし、夢の能力に関して噂を探っても意味ないんじゃないですか?」
不確定な情報な上にそもそも寝瑠の問題を解決するための夢の能力者に関する噂があると思えない。
『なんだ犬坊?
調子が悪いのか?』
「どういうことです?」
『どういうことも何も探すのは夢の能力者じゃねぇよ。
ここ最近、こちら側に墜ちる人がちょくちょくいることは知ってるだろぉ?』
「はい」
『人形使いもその口だ』
先生の言葉を聞いて閉口する。
まあ、黒幕にしてはあまりにも小物感たっぷりだったからな。
『流石にわかっただろ。
そうだ、能力に干渉する能力を持ってるやつがいるってことだ』
「なるほどそういうことですか」
こちら側に堕ちるというのは、言うなれば無法地帯に足を踏み入れるようなモノだ。
そして、こちら側に堕ちると言うことは、能力を持っている人物が増えるという事である。
だからこそ、能力が発現することがあるという情報が流れてきたのだ。
そうであるならば、情報は噂として流れている以上噂の主が何か知っている可能性が高いということだ。
頼りにすると言うよりはヒントを貰うだけだがな。
「しかし、できればそんな人物と関わり合いになりたくないですね」
つかみどころのない寝瑠の能力を無効化してしまう能力に関わりたくないというのが本音だ。
『犬坊の言いたいこともわからんでもないが、心配するほどのことでもない。
寝坊助の能力は確かに強力だが、その反面とても不安定だ。
寧ろ不安定な分強力になったってところだ』
「確かにそうですけど」
不安定な能力ほど強力になる傾向があるのはよく知っている。
姉しかり噂の主しかり
『だからこそ相手の能力も不安定なはずだろ
寝坊助を無力化できたのはたまたまだろうぜ』
先生の言い分は最もだ。
おそらく間違いないだろう。
だが、妙な胸騒ぎがする。
『そういうわけで、噂の主に会いに行くんだが、犬坊と寝坊助も来るか?』
本題はそれか。
「本題はそれですか」
『話はじっくり相手と分かり合うためにやるもんだからな。
話したい事だけ話して終わりじゃ味けねえもんだろぉ?』
「分かりました。
あの人も知り合いがいた方が安心して話せるでしょうしね」
『ああ、手綱を握れる人物がいた方が話も締まるもんだ』
「それでは、何所に集合します?」
『噂の主との待ち合わせ場所になっている喫茶店だ。
何所にあるか分かるか?』
「ええ、店の名前はワイルドローズで間違いないですか?」
『ああそこだ。
じゃあ、直ぐに行くからよぉ。
ひとまず向かってくれ』
「分かりました」
電話を切ると寝瑠がこちらを見ている事に気が付く。
「それってぼくも行っていいんだよね?」
「ああ、ある意味お前のために行くのだしお前が来ることを否定はしない」
賛同もしかねるけどな。
今の寝瑠は、能力が使えない。
陰陽道や修験道を修めているわけでもなく。
他の何かしらの身を守る技術があるわけではないので、不安な部分があると言うのが本音だ。
だが、縁というのもこちら側では、無視できないモノだ。
なので、連れて行かないという選択肢はない。
「やっぱり素直じゃないよねぇ」
「うるさい」
先生とあの人かどうなるだろう?
拙作をご覧頂きありがとうございます。




