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第六章 一話 御剣家にて

 さて、今一度俺の状況を振り返ってみると中々に刺激的な状況だと思う。

 家が焼かれて友人の家に居候になった。

 一般的な家である友人、もとい生徒会長の家に居るには少々人数が増えすぎたので、幼馴染である御剣刀子にお世話になることになった。

 御剣の家はとても広く部屋も余っているため歓迎とまではいかないが、親切なことに泊まってもよいという返事をいただいた。

 なので、今、俺が住んでいるのは幼馴染の家である。

 残念なことに俺の幼馴染は、男嫌いというか男性不信と言うか。

 とにかく、男と言うものが嫌いと言うことだけは確かなようだ。

 そこで、俺が、御剣の家に泊まる条件としてあったのが、出来る限り狼形態で居ることである。

 流石にいつでもとはいかないが、やることが、()()()に無いときに狼形態になることで合意している。

 と言うわけで、御剣の家の縁側で寝そべっている俺は、狼形態となっておりその横には御剣が、そして俺の上には『悪食』こと、セロニアスが乗っかっている状況だ。

 端的に今の状況を言うと暑いである。

 夏も過ぎたが、まだ残暑が残る昼下がり、風鈴が暑さをごまかそうと鳴り響くが俺には一向に効果が見られない。

 狼形態では、発汗機能がないため舌をだして必死で暑さを外に出すが、どれほどの効果があるか。

 勿論、ただその状況に甘んじているわけではない。

 そのことを訴えると御剣が颯爽とつめたい水をもって来てくれたためそれをなめ飲んで誤魔化している状況だ。


「ふふふふふ、もふもふ」

「でね、その後、怖いおじさんが出てきてね」


 因みに、御剣はさっきから目をハートにして俺の体に頬ずりをして、セロニアスは聞いてもいないことを話している。

 気がつけば話に引き込まれるが、暑さですぐに我に変えるため出来れば人間形態のときに話してはくれないだろうか?

 さて、ここで問題である。

 俺は一応健全な男子高校生だ。

 その俺が学校でも有数の美人である御剣にすりすりされて、あまつさえ美幼女に乗っかられている状況で起きることは何でしょう。

 そう、そういう事で、今は動けない状況なのだ。

 なにかやることが無いか頭の中で考えてはいるのだが、暑さのせいか一向に思考がまとまらないのである。


 そう、やることが何も無いのである。

 せめて、教会から何かしらのアプローチなりレスポンスなりあってもおかしくないはずなのだが、これまたなしの礫である。

 てっきりそれの対応に忙しくなると思っていた分、後でくるしわ寄せがどんなものになるか内心恐々としている。


「大神君、全く持っていいゴミぶんですね」


 教会からの唯一派遣されていたクライシスこと倉井妹子が、俺に張り付くようになったぐらいか。

 しかし、なぜ怒っているかは知らないが、敬語はやめてくれ怖い。


「出来れば代わってほしいんだが」

「ふう、まあ苦しんでるみたいだしそれで帳消しってことで」


 ほっと一息を入れるが、その発言はさりげなく人が苦しんでいるのを喜んでいるってことだよな。


「お前、それでも修道女(シスター)かよ」

「いいえ、このたび執行師(エクソシスト)に昇格いたしました」

「それ、絶対に言っちゃいけないことだろ、で表向きは?」

修道女(シスター)です」

「お前は、修道女(シスター)じゃねえ」

「もちろん」


 全く、執行師(エクソシスト)って、思いっきり何か執行させるつもりじゃねえか協会側。

 そして、それに対抗するように配置されたのが、寝瑠の奴らしいんだが、あいつどこに居るんだ?

 まあ、いつも寝ているあいつだが、俺が知っている人物の中で一番神出鬼没だから気にしなくていいだろう。

 仕事も俺より出来るしな。

 そして、中庭に佇む俺と同じ年齢の男に声をかける。


「で、お前も何でここに居るんだ」

「僕がどこに居ようと僕の勝手でしょう。

 あえて言うならここに居るから居るんですよ」


 この面倒くさい言い方をするのは最後の生徒会役員である馬場(ばば)直倫(なおみち)だ。


「相変わらずだな」

「何が相変わらずなのですか?」


 ああ、面倒くさい。

『相変わらず』の発音が独特なのもイラッとする要因だ。


「お前の面倒くささだ。

 俺の目の前以外なら別に気にならないけどな」

「つれないことを言いますね。

 僕も傷つく時は傷つくんですよ?」

「今ので傷つくようなら俺はお前のことを見直すんだがな」


 ため息交じりに言ってはみたものの全くこたえた様子が無い。


「で?

 態々、御剣の家にまで入ってきてるんだ何か用事があるんだろ」

「投げ槍ですね流石大神君です」

「褒められるような気がしねー褒め言葉はいらないって」

「それでは端的に言いましょうか」

「前置きが無いのはいいな」

「大神君、一度死んでくれませんか?」

「……やっぱ前置きって重要だよな」


 俺は左と上から流れてくる殺気を感じてしみじと思った。


「私のもふもふを奪う気か?」

「乗り物とるなら食べるよ?」

「あはは、なるほどそう来ますか」


 馬場がそう言った直後、馬場の頭が飛んで来た。

 あまりのことに殺気を放っていた二人も呆然とする。


「死なれると困りますのであなたが死んでください」


 馬場の後ろには敬語の倉井さんが立っていた。

 俺は飛んで来た首を見る。

 馬場の生首の口が動いているのが見えた。


「(くわしくはあとで)」


 俺が首肯すると馬場の生首は満足そうに笑い破裂するように煙が吹き出す。

 煙が晴れると馬場がいた場所には人型の紙が残されていた。


「っち、式神でしたか」

「お前、式神じゃなかったら人殺しだぞ」

「大丈夫ですよあなた達は殺しても死ぬような存在じゃあ無いですから」

「いや、殺されたら死ぬからな?」

「どうだか」


 クライシスがため息交じり呟く。

 まあ、言いたいことは分かる。

 御剣は俺より強いし何より彼女の兄以外に負けるビジョンが見えない。

 『悪食』の方は、謎の怖さがある。

 クライシスに関してもなんだかんだで生き延びそうだし、馬場は考えるだけ無駄だ。

 守らないといけないと思うのは会長ぐらいだ。

 寝瑠のやつは、守れる気がしないしな。

 などと考えていると電話の着信音が鳴り響く。


「この着信音は、寝瑠のやつか」

「着信音をわざわざ変えているのか?」

「まあな、それと少し離れてくれ電話が取れない」

「……仕方がないな」


 そう言って残念そうに離れる御剣。

 狼形態ときのみのデレとはわかっているが、毎回ドキッとするのでその表情はやめていただきたい。

 狼形態から人形態になり携帯をとる。


『やあ、はじめましてかな』


 その声を聞いて俺は身を起こした。


「誰だお前!」

「むぎゅ」


 後ろでなにか声が聞こえたがそれよりもまずこの連絡主だ。

こいつが寝瑠の携帯電話で掛けてきているということは寝瑠になにかあったということだ。


『誰だとはつれないなぁ。

 最近話題になっているだろう?

 知らない?知らないこと無いよね?

 知ってるだろう?知らないとか無責任だろう?』


 独り言のように畳み掛けて来る連絡主。

 いや、待てこいつの正体より先に確かめないといけない事がある。


「てめぇ寝瑠に何をした」

『大丈夫だよただちょっと起きてもらっているだけだからね。

 彼女に身を案じなくても大丈夫すぐに会えるさ。

 そんなことより君に頼みがあるんだよ。

 君の直ぐ側にいる女の子。

 そう、幼くて幼くて幼女と言うに値する彼女だよ。

 彼女を譲ってくれないかなぁ?

 なに心配はいらないよ悪いようにはしないさ。

 丁寧に慎重に大胆に可愛がってあげるだけだらさぁ』


 こいつと話していると頭が痛くなってくる。

 こいつは、どこかで味わったことがあるような気がするが思い出せない。

 しかし、言い返しておきたいことはある。


「譲る?

 おいおい、人一人を譲るなんていい方するようなやつに友人を差し出すやつがあるかよ」


 俺が発言すると急に連絡主が静かになった。


「おい」

『ふざけるな!

 譲るってのはちょっとした言葉の綾じゃないか!

 人の言葉尻を取ってそれっぽいことを言いやがって!

 いいか、『悪食』をこちらに引き渡せと言ってるんだ!

 この電話からお前に電話をかけている意味がわかってないのか!?』

「おい、お前さっき寝瑠のやつは大丈夫だって言ってたよな?」

『これだからバカは嫌なんだ!

 いいか少し考えたらわかるだろう!?

 お前の仲間のうち一番干渉されにくいやつが攻撃を受けたんだぞなんとも思わないのか!?』


 確かにあいつは長年付き合っている俺でもなかなか居所がつかめない。

 姿は見せるが意識を保った状態では見たことがないのだ。

 何より俺の仲間内で一番干渉されにくいと言うのも本当だ。

 確かに厄介な状況だ。


『全く、ようやく自分の状況が理解できたか?

 これは交渉なんかじゃないんだよ。

 わかるか?わからないわけないよな?

 わかるよな?わからなかったらとんだ馬鹿だぞ?

 いいか? これは警告だ『悪食』を引き渡さなければお前の身内に不幸が襲い掛かるぞ』


 問題は、こいつが何者かと言うことだ。

 クライシスの呆けた顔を見るに教会の関係者ではないことは明らかだ。

 あと、心当たりがあるとすれば、尾崎の仲間である人形師とかいうやつだろう。


「人形師か」

『今更分かったのか。

 遅いよ。遅すぎる。

 どうしようもないほど遅い』

「お前は何で『悪食』狙うんだ?」

『はあ、これ以上馬鹿と話すのはうんざりだ。

 いいか場所と時間は彼女に伝えてあるからしっかり聞け。

 もしその時間その場所に居なかったら。

 私は容赦なく君たちに攻撃する。

 わかったな?』

「待て!彼女って……切りやがった」


 一方的にまくし立てた後、連絡主は電話を切った。


「人形師とか言いましたか?」

「ああ」

「何所にいるか知ってるんですか?」

「知ってたら直ぐにでもお前に教えてる。

あいつは生徒会長に手を出そうとしたからな」


剣呑な雰囲気を放つクライシスが万が一にも誤解しないように冷静に返答する。


「そう、ならこれからどうするの?」

「取り敢えず伝言待ちだな」


クライシスが落ち着いたので俺も胸をなで下ろした。


「おい、犬。

人形師って、あの少女二人の黒幕じゃなかったか?」

「俺は、大神、だからな!?」


さっきまでの態度が嘘のように豹変している御剣に少し呆れつつも質問に答える。


「はあ、まあ、確かにその通りだ。

あの教頭先生生徒会突入事件も奴の仕業だったからな」

「そんな奴がなんで犬に電話をかけてきたんだ?

いや、目的は犬の関係者か」

「意地でも変えないつもりか。

全く。

その通りだ。

目的は『悪食』セロニアスらしい」


 俺の言葉を聞いてビクリとするセロニアス。

 御剣が、気遣ってかどうかは分からないが尋ねてくる。


「でどうするんだ?」

「そうだな、言った通り引き渡すつもりはないが、何もしないというのも癪だな」


困ったことにこういうときに限って、組織の人間である姉ちゃんものじゃロリも居ない。

連絡役の寝瑠の奴にも連絡がつかない。

教会はどう動くか予想がつかないから助力を願うのは違う気がする。

今できることと言えば、人形師が言っていた『彼女』だが、


「少なくとも誰かが来ると思って良いか」

「その誰かが来るまで時間があるだろう?」

「……まあな」


御剣が期待した表情でこちらを睨みつけてくる。


「さて、やることはないのだし約束は守ってもらおうか」


御剣の有無を言わさぬ迫力に頷かざるおえなかった。

拙作をご覧いただきありがとうございます。

一年は経つの早いなぁ。

流石に週で投稿し続けることは無理です。

毎日投稿とかどんな苦行だよと最近思います。

まあ、大抵はストックがあるんでしょうけれどね。

ただ大神のほうが書くの楽しい。

タイミングがずれますが節分の閑話も載せます。

ノリで書いたのでいろいろごちゃごちゃしてます。

投稿は翌日の20時です。

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