第五章 八話 不協和音
翌日、セロニアスについては姉に任せて学生の本分を全うするため学校で授業を受ける。
そして、いつも通り授業が終わった後、放課後に生徒会室に向かおうとした時に声を掛けられる。
「今日も生徒会室行くん?」
転校生の尾崎弥子だ。
「ああ、そのつもりだが、何か用か?」
「私もついていくわ」
「は?」
「何マヌケな声出してんの?
生徒会室に私も用事があるってだけの話や」
「いや、お前自分がしたことを覚えてるか?」
「何? 同級生の男の子と話してたら気絶させられたこと?」
「人聞きの悪い言い方をするな!
足止めのために霧の結界まで使いやがったくせに」
「霧の結界? 何のことかわからへんなぁ?
ああ、そういえばあの時何故か霧が廊下にまででてたなぁ。
あれ七不思議になれへんやろか?」
「全く、のらりくらりと……!」
こいつと話してると要領を得ないからイラつく。
勿論、こいつは相手を苛つかせて自分が思ったように行動させるのを得意としてるかもしれないから抑えるが、
「まあいい、次は組織に突き出すだけだ」
「おおこわ、気ぃつけるわ」
「本当にいらないことをするなよ」
「分かった分かった」
「どうだか」
こうして厄介な同伴者と共に生徒会室に向かうことになった。
しかし、こういう時に限ってややこしい人が生徒会に来ていたりする。
「犬ちゃん3日ぶりだね」
クライシスこと倉井妹子、『教会』に所属する修道女でもある。
「ああひさしぶり、珍しいな教会の方は大丈夫なのか?}
「うん、いくつか問題が解決したから今暇なんだ。
ところでその後ろの人は?」
「ああ、最近転校してきた尾崎弥子だ」
「よろしゅうな」
「ほへえ、関西から来たの?」
「そやで」
「よろしく。
ああ、そう言えば犬ちゃんに私が追っていた『悪食』について聞きたことがあるのです」
「な、なんだ?」
匿ったことがバレたりしてないだろうな。
ドキドキ
「足取りを追っているとこの町で消息を断っているのです。
そちらの方で何か情報を掴んでいませんか?」
「いや、特にこれと言った情報は聞いてないな。
せいぜいこの町に来る可能性があるということは聞いたことがあるような」
「そうですか。
まあ、いいや」
尋問タイムは終了したようだ。
唐突に始まるから心臓に悪い。
「尾崎さんは生徒会に何の用ですか?」
そう口にしたのは生徒会長の岩手千秋だ。
「ちょっとやりたいことがあってな」
「やりたいこと?」
首を傾げる生徒会長にアピールするかのように尾崎弥子が唐突に俺の腕に絡み着く。
「私、大神と付き合うことにしてん」
「はぁ!?」
「む?」
「ほへ?」
因みに反応は上から俺、御剣、会長の順である。
「おや、おめでとうございます」
「違うからな!?」
倉井の反応が驚いているように見えない。
小声で尾崎が耳打ちしてきた。
「(『悪食』のこと言われたくなけりゃ黙っといてな)」
「ぐぅ」
悪魔かこいつ!
「だからちょっとばかり大神のこと借りるで」
「待ちなさい、人の犬を勝手に連れ出すとはどういう了見です」
「別に? 人を犬呼ばわりしてる人に言われたくないわぁ」
「ぐぬぬ」
ぐぬぬって、お前、俺が言った時は柳に風のくせしてこういう時にダメージ受けるなよ。
「何時から付き合うことになったの?」
「ついさっきやで」
「付き合うって」
「男と女やしなあ、関係あらへんって言うても説得力あらへんやろ?」
「うむむ」
おい、何説得されてんだよ。
そいつ一言も男女の仲であるとは言ってないぞ!
「おい、犬! どういうことだ!」
「犬じゃねえ大神だ! じゃなくて」
「あく」
「ぐぬぅ」
「ぐぬぅじゃわからん。
なんとか言え」
畜生! 連れてくるんじゃなかったよこの爆弾!
見事に爆裂しやがった!
「フフフ、ほら、犬呼ばわりするからまともな返事も返してもらわへんのやで」
「おい、大神に何をした!」
「何もないよ。
ただより良く生きる方法をを教えてあげただけやで?」
「大神君」
会長の声がいつもより鋭く感じた。
「本当に付き合ってるの?」
「無駄無駄、幾ら聞いても無駄やで」
「私は大神くんに聞いてるのよ?」
「まあええやろ。
ほら答えてやり、ちゃんと付き合ってるって」
「く」
「いいん? 言わんで」
こいつ縊り殺してやろうか。
しかし、攻撃の意思を感じたのか俺の攻撃範囲から出る。
勘がいいなこの狐女!
「おおこわ、そんなことするんやったら言おうかなぁ」
「一つ、尋ねたいことがあるのですが」
あ、何か気付いたよクライシス。
「もしや、尾崎さん、悪食について何かご存知ですか?」
しかも敬語になってる。
うわぁ。
「うん? まあ噂程度なら知ってるけど?
それがどないしたん?」
「そうですか」
あれ?
不発か?
「それは仕方ないですね。
ええ、仕方がないです」
「どないしたん? 倉井さん?」
「いえ、まあ少し用事を思い出したので今日は先に帰らせてもらいますね」
そう言ってクライシスは帰る準備を始める。
「生徒会は良いのか?」
「ええ、いつも大神君が頑張ってくれてますから問題ないようです」
「そりゃ良かった」
よくねえええええええええええ!
今、大神君呼びしたよしかも敬語が消えてない!
「では、私はこれで失礼致します」
クライシスは、そう言ってゆっくりと生徒会室を退室した。
「どないしたんやろか?」
こんの疫病神が!
「お前のせいでバレたかも知れねえ」
「は? いくらなんでもそんな簡単にわかるはずが」
「クライシスの感の良さは異常なんだよ!
お前を生徒会室に連れてきたのはやっぱり失敗だったか。
そもそもお前生徒会に何の用だ」
「大神に嫌がらせをするために来た」
「この野郎ぉおおおおおおおお!」
縊り殺してやりたいが、のらりくらりと躱しやがる。
「動揺しすぎやろ
前の動きほどキレないで」
「お前な。
一番厄介なやつを敵に回すようなことしやがって!」
「ははは、ほな私はこれで」
ひらひらと躱しながら生徒会室を出て行く尾崎。
途中まで追いかけるが、逃げ足が速かったので追いかけるのを断念した。
今はそれよりクライシス対策が必要だ。
兎に角さっさと家に帰るべきだろう。
「おい、犬」
「おま! こんな時にまで」
そう言いながら振り返ると不安そうな顔をした会長と御剣の姿が視界に入った。
「私の手は必要か?」
御剣は、背後関係をすべて知っている。
下手をすれば教会を敵に回しかねないことになることは分かっているだろうそのうえで聞いているのだ。
勿論、俺の答えは決まっている。
「大丈夫だ」
自分で蒔いた種だ。
幼馴染とは言え巻き込むつもりはない。
「大神君」
「すまない、俺は今日のところは帰る」
「気を付けてね」
「ああ」
会長には、悪いことをしたな。
聞きたいだろうし知りたいだろうけど、こちら側の事情を説明してやることはできない。
「会長を頼んだぞ」
「もちろんだ」
御剣にそう言い残し生徒会室を後にした。
寝瑠のやつが無反応だったが、あいつはいつも寝てるから行動が読みずらい。
まあ、生徒会室のいつもの自分の席に突っ伏していたので特に問題はないか。
拙作をご覧いただきありがとうございます。
倉井さんのキャラが難しい
なぜこんなキャラにした過去の俺……。




