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第五章 七話 死臭

 一つ不思議なことがある。

 殺人鬼、【悪食】セロニアス・ナイトウォーカーには死臭がしない。

 死臭は死にかかわる人間が纏う臭いというのが俺の認識だ。


 以前会った葬儀屋の異様な死臭のこともあるがこの娘は死臭がしなさすぎる。


「お前は、人を殺したことがあるよな?」


 思わず尋ねた。

 しかし、この時点で何故死に関係している彼女が死臭がしないのかはある程度わかってきている。

 死臭は、怨念に近いものだ。

 ただ、この怨念食べることが出来るのだ。

 そう、死体をすべて食べているであろう彼女は、死臭を纏わないで済んでいるのだった。

 異様の一言だ。

 死に関わりながらその関わったすべての死を食らっているのだ。


「あるのです。

 けれども私は、ちゃんと命を頂いているのです」

「ぶっちゃけ後ろの死体もお前の食い残しだろう?」

「はいなのです」

「全部食べなくて良いのか?」

「お兄さんと人を食べないと約束したのです」


 約束を守るつもりなのか。

 だが、まだ信用はしない。

 とりあえずあの死体は【隠行紅之方】に任せるしか無いか。

 しかし、この幼女をどうしたものか。

 なんとなく俺から離れない気がするのは気のせいだろうか?

 もし離れるつもりがないなら明日学校が大変そうだ。

 しかし、眼を離すわけにもいかない。

 うむむ。


「どうしたのですか?」

「お前をどうすればいいか悩んでるんだよ」

「私はいい子なので約束は守るのですよ?」


 簡単に言ってくれる。


「ちょっと電話するからおとなしくしてろよ」

「はいです」


 全く、素直すぎるのが逆に怖い。


『おや、コレは珍しいどうしたんだいオオカミ少年』

「それだと俺が嘘つきみたいじゃないですかみなごろしさん」

『私はみなごろしではない撫斬なできりだと何回言ったらわかるんだ』

「鏖さんが僕の名前を呼ぶまでです」

『いいだろう、その勝負受けて立とうではないか』

「そんなことより死体をどうにか処理したいのですが手伝っていただけませんか?」

『ほう、オオカミ少年も遂に卒業したか』

「そんな嫌な卒業はしていません。

 【悪食】に殺られた死体です」

『……今【悪食】といったか?』

「はい、言いました」

『あの連続食人鬼【悪食】で間違いないか?』

「はい」

『ふむ、なかなか面白い。

 いいだろう、今回の報酬は一晩でどうだ』

「ああ、それで頼む。

 ただ、その言い方はやめてくれ」

『細かいことは気にするな』

「はあ」

『式神を飛ばすからそいつが着いたら帰っていいぞ』

「分かりました」


 一晩モフられるだけだ何の問題もない。

 ……ただ、勘違いされると大変なことになるからな主に俺の社会的地位が、

 撫斬なできりさんに場所を伝えしばらく待つと一羽のカラスが飛んで来て塀の上に止まった。


撫斬なできりさんの使いか?」

「カァ」

「任せていい?」

「カァ」


 カラスが二つの質問に頷くのを確認すると僕は家路に付くことにした。


「あ、セロニアス、お前俺の前を歩け」

「でも私、あなたの家知らないのですよ?」

「曲がる時になったらその都度伝えるから」

「それなら問題ないのです」


 いくら素直とは言え気を許すわけにはいかない。

 何処まで言っても危険な人物であることに違いはないからな。


「で、どちらに行けばいいのですか?」


 ……でもやっぱり面倒くさい。



----------



 その男は電話を切ると一枚の人形ひとがたを取り出した。

 人形ひとがたは男が何か唱えるとカラスの姿になった。


「じゃあ、現場の確保よろしく。

 結界も人よけぐらいだったら使っていいから」


 カラスは頷くと翼を広げて飛んでいく。


「【悪食】はどうやらこちらが先に確保出来たようだね」


 男の手には一振りの刀、それも大太刀と呼ばれる刀が握られていた。


「ほんまにありえへんわ。

 なんで、あんたみたいなバケモンが彷徨いてるん」


 小柄な和服が似合う少女は蹲ることによりより一層その存在を小さく見せていた。


「グゥルルルルルル!」

「おっと、この子の首が飛んじゃうよ?

 いいのかい?」


 ボロボロになった大柄な少女がクラウチングモドキの格好で男を睨んでいた。

 それを牽制するように刀を蹲っている女の子に近づける。


「ほんまに何なんあんた」

「何、ちょっと戦闘を専門にしている専門家だよ」

「ちょっと、ね。

 ありえへんわ」

「くそぉ、俺様が力不足なばっかりに」

「さて、君たちの処理ついてはまだ決まってないんだよね」


 男の言葉を聞いて小柄な少女が男を睨む。


「どないするつもりなん?」

「ん~、それは、今のところ僕の気分次第……!」


 男は唐突に後ろに下がった。

 直後頭上から大柄な男が降ってきた。

 男が着地すると同時に地面が割れる。


「あーあ、国民の血税で作られた道路を」


 のんきな調子で刀を構える男。


「君は死んでいいよ」


 男がそう言いながら刀を振り下ろす。

 男が刀を振り下ろした直後大柄な男は袈裟斬りに切断される。


「ひっ、信じられへん、あれ、あいつの一番強いやつやん」

「やっぱり繋がってたか。

 まあ、人形遣いが表に出てこないっていうのはわかりきっていたからね。

 もう糸も切ってあるだろうな。

 はあ、こういう搦手は得意じゃないんだよね。

 あいつの居場所教えてくれないかな?

 姪っ子の同級生ちゃん?」

「知らへんてうても信じてくれへんやろ?」

「まあ、そうだろうね」

「ほんならいっそひとおもいに」

「ん? 知らなくて当然だからそんなに身構えなくていいよ」


 男から剣呑な雰囲気が消えていることに小柄な少女は気がついた。


「へ、ほんなら私ら帰っていい?」

「ああ、糸は切ってあるからこれからは自由に行動できるよ」

「は、はははは、そこまで知ってんのんか。

 専門家は怖いなぁ」

「次、敵に回ったら容赦はしないからね?」

「善処するわ」

「じゃあ、そこの手負いの虎が起きたら気を付けてお帰り」


 そう言うと男は歩いて去っていった。


「せっかくなら封印も切ってくれたら良かったのに、っていうてもしゃあないか」


 小柄な少女は一人呟くと未だ男を警戒している相棒に声をかける。


「ほら帰るで」

「だが、あいつはお前を!」

「この世にはな、手を出さんほうがいい事があるんや。

 少なくとも今がその時何は確かや。

 正直、あの男には一生かかっても勝てる気がせえへんわ」


 そう言って小柄な少女は四つん這いの少女の頭を撫でる。


「まあせっかく糸が切れたしちょっと狼で遊ぼうや」


 小柄な少女は大柄な少女を撫でつつそう呟くのだった。

拙作をご覧いただきありがとうございます。

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