第五章 六話 遭遇
ガスボンベを買いに走っているとふと鉄の匂いが含まれた生臭い臭いがした。
「何の匂いだ?」
いや、わかっているこれは血のにおいだ。
ただ、認めたくなかった。
こんな片田舎にこれほどまでに強烈な血の臭いが立つことがそして、その惨劇の加害者が、誰であるかを考えたくなかったのだ。
しかもこの血の臭いはさっきはしなかった。
勿論、今は狼形態になっているため人形態より鼻は敏感になっているが、それでもこれほどの血の臭いは嗅ぎ漏らすことは無いはずだ。
つまり、ついさっきここの近くで人が殺された可能性がある。
無視することは俺には出来なかった。
最も気のせいと言うこともある。
人形態に戻り薄く感じるようになったとはいえ鼻に感じる血の臭いをたどりそしてたどり着く。
そこには一人の少女、いや、少女と言うにもあまりにも幼い女の子、いうなれば幼女がいた。
幼女は俺を見るなり尋ねてきた。
「お兄さんは悪い人なのですか?」
「さあ? 少なくとも運が悪い人なのは確かだな」
少女の問いに対して俺は自分の境遇を嘆いた言葉を伝える。
殺人鬼、いや違う、喰人鬼だ。
喰人鬼、後ろに倒れている人がその存在のあり方を指し示す。
【悪食】
最近よく聞く名だった。
まさか、本当にこの街に来ていたとは。
「そうなのですか。 これは名乗り遅れたのです。
私の名はセロニアス・ナイトウォーカー、ただのしがない偽善者なのです」
「俺は、大神犬太郎と言う、ただのしがない高校生だ」
「ケンタロウなのですか?」
「ああ、犬に太郎太刀の太郎でケンタロウだ」
「おしいですねケンタロウではなくケンシロウであれば奥義でも見せてもらうところだったのですが」
「たいていのケンシロウさんは奥義なんか持ってないからな!?」
あれ、思ったより気安い感じだ。
殺人鬼とは思えない気安さだ。
後ろの死体が無ければ漆黒のゴシックロリータがよく似合う金髪の幼女が悪食とは思わなかっただろう。
「お前が【悪食】なのか?」
思わず尋ねた。
「さあ? 私は悪い人を食べているだけなのですよ?」
幼女はふんわりと笑う。
とても、この状況には似合わない、そんな緩やかな笑みを浮かべる。
「警戒しなくてもいいのですよ? 幸いなことにあなたは悪人ではなさそうなのですし」
「そうかい、よかったよ悪名高い悪食にあって見逃してもらえるとは」
「言いたいことは分からないのですが……」
唐突に少女が視界から消える。
そして背後に悪寒を感じて
「苦しまないように食べてあげるのですから」
と聞こえたと同時に俺はしゃがみこむ。
「あら?」
それと同時に狼に変化し慌てて幼女から距離をとる。
「っち、思ったより倫理観がぶっ壊れているらしいな」
「犬なのですか?」
「狼だ!」
「どちらでもいいのですが、乗せてくれませんか?」
幼女の申し出に俺は耳を疑った。
「は?」
「ですから乗せてくれませんかその背中に」
「無理」
「何故なのです?」
「怖くて乗せられるか!
今、俺のこと喰おうとしただろ!」
やばいなこの幼女頭のねじ二、三本は飛んでやがる。
「乗せないと食べるのですよ」
「だったらなおのこと無理だな」
「むう」
「俺に危害を加えようとするやつを背中に乗せられるわけないだろ」
「じゃあ、どうすれば乗せてくれるのですか?」
「信頼関係を結んでからだ」
「どうやったら信頼関係を結べるのですか?」
「とりあえず人を喰うのをやめろ」
「はい、分かりました」
あっさりと言うその言葉を信用出来る人など皆無だろう。
彼女の後ろにある上半身が無い死体がある状態では尚更だ。
「いや、その程度の言質じゃ信頼できない」
「じゃあどうしたら良いのです?」
「最初に食べようとしなかったら信じたんだがな」
まあ、正直なところはわからないがな。
後ろに死体がある以上警戒はしていたからどちらにせよすぐには乗せなかっただろう。
「そんなぁ」
「そもそも何で俺を食おうとしたんだ?」
「証拠隠滅なのです」
「酷え」
メチャクチャだ。
「でも本当に人はもう食べないのです」
「でも、その言葉を証明できないだろう?」
「では、ケンタロウさんについていくのです」
「は?」
幼女の言葉に耳を疑う。
「ケンタロウさんが私を監視して下されば全て解決なのです」
その言葉を聞いた瞬間、俺は、発した言葉を後悔した。
証明とか言わずこの場で別れていれば問題なかったと言うのに。
「何か問題でもあるのですか?」
「人を喰う奴を四六時中監視出来るほど俺は暇じゃないんだ」
「では、勝手についていくのです」
どうやら、俺が同行することは確定事項のようだ。
拙作をご覧いただきありがとうございます。
強引な人食い幼女はお好きですか?
好きな人は頭のねじが外れてるかも。