第五章 五話 鍋奉行
お鍋の食材を買いに出ることになった。
もちろん一人ではない。
「大根に白菜、ネギと鶏肉に豆腐あとしいたけにしめじ」
「お姉さんは鶏肉を入れるのですか?」
「ん? 千秋ちゃんの家は違うの?」
「ええ、豚肉を入れます」
「へえ、じゃあ豚肉も買おうか」
「あとしらたきも入れますね」
「ああ、それは私のところも入れる。 忘れてた」
せっかくなのでと言って姉と会長が付いて来たのは必然だろう。
姉の性格からして俺に付いて来ないという選択はしないだろうし会長は、居候である俺に買い物を任せるなんてことをするはずがないからな。
美咲ちゃんとのじゃロリこと花楽里鳴知は家でお留守番だ。
会長の母親が帰ってきたのでちょうどよかった。
「タロちゃんはなにか入れてほしいものとかある?」
「いや、特にこれと言ってないな」
「じゃあ、いつも通りで」
と言うことで近くのスーパーに行くことになった。
規模はそれほど大きくないがかなり便利だ。
そのおかげで商店街がダメージを受けていると言うのはどこにでもある話だろう。
姉と会長の話は止まることなく俺のことを中心に学校のことやこの地域のことさらに少しだけ怪異についてなどなど話題に事欠かないようだった。
「タロちゃんはどう思う?」
「こっちのほうがいいよね? 犬太郎君」
「どっちも入れたらいいんじゃないか?
いつもより人数多いんだし」
「あ、そうだね! ナイスタロちゃん」
「あ、そっかー、いつもの感じで買おうとしてたよ」
「そういえば、会長の家は鍋奉行はいるか?」
「鍋奉行?」
「知らないのか? 珍しいな」
「そりゃ何でも知ってるわけじゃないからね」
「鍋奉行ってのはどれが出来たかできていないか見極めて食べていいかを決める人のことだ」
「う~ん、うちの家にはいないかな?」
「へえ、じゃあ、姉ちゃん鍋奉行にならないよう注意しろよ」
「わ、わかってるよぅ」
本当にわかってるのか?
「お姉さん鍋奉行なの?」
「ああ、鍋をするととたん仕切りだすんだよ」
「さすがに人の家ではしないよ」
「どうだか」
「むむむ」
まあ大丈夫だと思うがな、切り替えに関して言えば俺は姉以上の性格の落差があるのを見たことはない。
消防士? あの程度まだましなほうだ。
「なんと! お姉さんはお奉行様でしたか」
大げさに驚く会長、わざと驚いて姉ちゃんに助け舟をよこしたのだろう。
……わざとだよな?
「ん? ふ、ふふ、ふはははは、そう、そのとおり我が家では私は鍋奉行だったのだ」
「しらたき二袋入れるけどいいか?」
「はい」
「タロちゃん? もうちょっとお姉ちゃんを大切にしよう?」
「大丈夫ですよお奉行さま」
まあ、その助け舟を叩き壊すわけだが、
「わかったよう、ちゃんと我慢するから怒らないでぇ」
情けない声を出す姉、ただここがスーパーの中だというのを忘れてないだろうか?
「怒ってないって、ほら、さっさと必要なものを買って帰って鍋をするぞ」
「は~い」
たまに、仕事中の姉になってほしいと思う俺は罰当たりなのだろうか?
そんな感じで買い物をして帰る途中で会長が思い出したように声を出した。
「カセットコンロのガスボンベ買うの忘れてた」
会長がそれを思い出したのがすでに家が見えるところまで来たところだった。
「ガスボンベってもう無かったのか?」
「うん」
「無かったらお前の母親から連絡来そうだけど」
「多分、残りとか確認してないと思う」
「そうか」
さて、ここからまたスーパーまで行くのは少し面倒だな。
「はあ、仕方が無い。
俺がちょっと走って買ってくるよ」
「いいの?」
「まあ、途中でガスボンベが無くなったらそれこそ興醒めだしな」
「タロちゃん私が行ったほうがいいと思うのだが」
ん? どうしたんだろうか?
姉ちゃんらしくない
「いや、変化していくから問題は無い。
どうせボンベしか買わないし、全力で走ったほうが速いからな」
「そこまで言うなら仕方が無い」
「じゃあお願い、これガスボンベ代」
そう言って会長が千円札を二枚渡してきた。
「おお、じゃあ行ってくる。
お鍋用意して待っていてくれ」
「わかったよ」
「タロちゃん、早く帰ってきてね」
「勿論」
そして俺は、スーパーに向かって走り出した。
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