第四章 二話 突発的な不幸
季節的にはこれから夕方になるのが速くなる秋ごろのことだった。
その日は、会長と御剣刀子と共に一緒に帰ることになった。
生徒会の仕事もあったが俺も手伝うことにより少し早く終わった。
先日の姉が綾さんに聞きだした人食いの噂について二人に話しておく必要があったからだ。
「それで? その人食いがこの町に来ているというのは確かな情報なのか?」
黒の長髪をポニーテールにした御剣刀子が問いかけて来る。
生徒会に所属しておりその肩書は副会長だ。
肩には剣道部が持ち歩く竹刀袋が掛けられている。
「確かかと聞かれれば否と答えるしかないな、ただの噂だし」
「けどそれが本当だったら怖いね」
そう言うのは、俺の唯一の友人で、生徒会長こと岩手千暁だ。
色素が薄いためか時折茶色に染めているように見える髪を肩ほどまで伸ばしている。
言葉こそ怖がってはいるが、面白い話を聞いたかのようにワクワクしているのが手に取るようにわかる表情をしている。
「会長は、何か聞いたことはないのか?」
「そうだね。
人が消えてるって噂は聞いたことがあるよ」
「私は聞いたことがないな」
御剣が知らないのは珍しいような気がする。
「それは、意外だな。
御剣なら何か知ってると思ったんだが」
「ああ、ここのところ忙しくてな。
昨日も鬼が出たので退治したのだが、最近鬼がよく出るのだ」
「鬼って、餓鬼とかじゃなくてか?」
「ああ、どちらかと言うと幽鬼の類だ」
幽鬼、幽霊を指す言葉だが、御剣が使う場合は少しだけ違う物を指す。
怪異に取り殺された者、それが幽霊になり力を持つ場合がある。
その場合にのみ使われる呼び名だ。
「幽鬼か、なんでまたそんなのが」
「今犬から聞いた話から人食いが関係してると思ったのだが」
「さらっと、犬呼ばわりしやがって、大神な。
っとそういえば、俺も最近鬼を退治したな」
「どんなのだった?」
「見た目は普通の鬼だったな。 服がオタクが来てるような服である以外は」
「都会ならともかくこんな田舎で?」
「言いたいことは分かるが、実際そんな恰好をしていたからな」
ふと、綾さんの巨乳を思い出す。
……いや、失礼、綾さんの顔を思い出す。
「そういえばストーカーだったんだよな」
「その鬼がか?」
「ああ、とある人がストーカーの被害に遭ってな。
それの犯人が鬼だったわけなんだが」
「鬼がストーカーと言うのも奇想天外な話だが、なるほどもしそうならその鬼ストーカーは都会からわざわざこんな田舎まで来た可能性があるのか」
「ああもしかするとそうかもな」
「だとすれば私の奴とは関係が……無いのか?」
「そればっかりはわからんな」
そう言ってそして少し会話が途切れる。
カラスの鳴き声が聞こえたので空を見上げると少し夕方に近づいているように思う。
「ってことで、会長、これからは本当に危ないので絶対に一人で行動しないでくださいね」
「え? う、うん、わかってるよ」
と御剣に言われた会長は、頭を縦にぶんぶん振る。
「少なくとも私か犬に連絡を取ってくださいね? 絶対ですよ?」
「そんなに信用ない?」
「暴走しなければ信用も信頼もできるのですが」
「うっ、面目ない」
御剣は、ため息を吐いて
「まあ、そのお守りさえ持っていてくれればこれ以上言うことはありません」
そう言って立ち止まる。
視線の先には会長の鞄に付いているお守りがあった。
御剣が立ち止まったので俺と会長も立ち止まった丁度交差点に差し掛かったところだったので彼女が言いたいこともすぐにわかった。
「私はここらでお別れですね」
「あ、そうかこのままついてきたら家まで逆方向だからね」
「では、ちゃんと家まで会長を送りなさい犬」
「分かってるが俺は大神だ」
「ふっ、ではまた明日」
「うん、じゃあまた明日ね!」
「はあ、じゃあな」
夕日に向かって歩く御剣が小さく手を振るのに対して会長はブンブン腕を振る。
俺は軽く手をふるだけに止めた。
会長、恥ずかしくないのか?
まあいいや。
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俺と会長の家は割りと近くにある。
家から出て徒歩三分ぐらいなのでかなり近いと言ってもいいだろう。
だからなのか、たまにクラスでも言われることなのだが、会長とは幼馴染ということかと言われればそうではない。
というのも会長は、引っ越してきた口だからだ。
むしろどちらかと言われれば御剣のほうが幼馴染だ。
残念なことこの上ないだろう。
まあ、こんなことを言えばクラスの男子どもどころか女子からも非難されるのだが、……解せぬ。
というわけで、会長はこの地域についてはここで育った俺よりも興味を持つことが多い。
これが外の人の常識か、などと考えていたときも合ったが、しかし会長が異常な程に好奇心が強いことはよくわからされた。
そんな尽きない好奇心の塊である会長でなくとも気になるものがあった。
火事だ。
家に帰ると自分の家が燃えているのだ。
あれか?
鬼とは言えオタクを地獄送りにしたから萌やされたのか。
いや、漢字が違うのは分かっているのだが、そう言いたくなるような状況だ。
好奇心で付いてきた会長も絶句している。
呆けている内に消防車やら救急車やらがやってきて鎮火したのは日もとっぷり沈んだ頃だった。
「大神くん大丈夫……じゃないよね?」
心配そうにこちらを見る会長に若干心を癒やされつつもさて今日の寝床はどうしようかということになった。
「もしよかったら私の家に泊まる?」
「いいのか?」
「うん、大丈夫だよ」
「ありがとう」
本当に持つべきは親友だな。
「じゃあ、先に家に帰ってるよ」
「ああ、そうだな。 俺も家にあったもので持ち出せるものは持ち出しとかないといけないし」
「うん、そうだね。 ゆっくり来てくれていいからね?」
その言葉に内心首を傾げつつ
「そうか、お言葉に甘えさせてもらうよ」
と返した。
拙作をお読み下さりありがとうございます。
次回、会長母登場