第二章 八話 語るに落ちる
二章盛り上がってはいませんがクライマックスです
『ここにおる覚えなき八百万の神々よ、そなたたちを閉じ込めし戒めを解かんとするものなり。
いざ、越え給え、示し給え』
「っち、またか」
そのことに確信がいったのは、結界破りを始めて三回目であった。
結界破りに合わせて結界の構造を変えているのに気が付いた。
「あのなぁ、さすがにこんな露骨に結界破りに合わせて結界の形を変えられたらどんなバカな術者でもわかるぞ」
唯一、俺の結界破りを見続けている少女、尾崎弥子に言及した。
しかし、尾崎は
「へ? なにゆうてんの? うちなんもしとらんで?」
ととぼけるだけだった。
しかし、結界破りを見ているのは尾崎だけなので、結界破りに合わせて結界の形を変えれるのは尾崎だけなのは間違いない。
こいつに結界を外してもらわない限りは、どうしようもないな。
気絶させるとか無理だし、
「なあ、尾崎、俺が狼だと言えば信じるか?」
「え? 急になんなん? 狼ってあれか? ワオーンか?」
「ああ、その狼だ」
「あんたが狼やったらうちは? 羊? 食べられちゃう?」
「信じてないな」
信じてないというかはぐらかしている感じだ。
「ふう、狼になれば少しはちゃんと話してもらえるか?」
「きゃー食べられるー」
そう言って教室の隅まで行きぷるぷると震える。
「わざとらしいな」
「えーノリ悪いなー、そこはガオーやろ」
なんというか会長とは別パターンの茶番だな。
どちらにしろ乗った時点でペースを握られる。
さて、どうしたら良いだろうか?
いっそのこと本当に寝ててもらおうか?
しかし、何となくそれをやったら人としてだけでなく社会的にも殺されそうな気がする。
対人用の術はなくはないが、この結界が尾崎のものであるという証明ができないところが面倒くさい。
ルールの隙間を突いてきているとは言え苦手じゃないんだよなこういう状況は、
「はは、まあいいか。
ガオー」
「きゃあああああはははは、そうそう、ノリの悪い男は嫌われるで?」
そりゃそうだろうよノリがいいってことは人に踊らされるってことだからな。
躍らせる側はさぞかし気持ちいいだろうよ。
「ノリが悪くて悪かったな、しかし、お前もノリが悪いからな?」
「なにゆうてんのうちほどノリのいい女おれへんって」
「いやいや、大賀さんのこと気にならないのか?」
「気になるって、でもこの霧がある限り出られへんやろ?」
「いや、そうじゃなくて、会長には御剣が付いているんだぞ?」
「ん? なんや急に、何の話?」
「今頃、ぐるぐる巻きにでもされてるんじゃないか?」
「は? テトラがそんな簡単に捕まるはずないわ」
その言葉に俺は安堵のため息をついた。
「ようやく話が先に進むな」
「え? はっ!」
言質を取るのに手間取ってしまった。
彼女がこの結界で俺の足止めをしているのは確かなのはわかったが敵対しているかどうかまでは確実じゃなかったしな。
御剣からヤコらしきもののことを聞いていてよかったな。
「大賀さんが捕まるようなことをすることを知っていたな?」
「う、っち、もうちょいごまかせると思ったんやけどな~。
こうなったら力ずくにでも時間稼ぎを!」
「させないよ?」
「な!」
尾崎さんの後ろに回り込み手刀を首に打ち込む。
「う!」
倒れそうになる尾崎さんの体を支える。
そして徐々に霧が晴れて行った。
「やっぱりな」
気絶した尾崎さんを背負い保健室へ向かうのであった。
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保健室にあるベッドは二つあるのだが今日はその両方が埋まっていた。
一つは大賀照虎、もう一つは教頭先生が使用していた。
「あ、大神君大丈夫だった?」
と最初に尋ねてきたのは生徒会長だ。
「ああ、問題なかった」
「の割には遅かったな」
「いや、問題あったか」
「最初からそう言え犬」
少々辛辣な言い方をするのは御剣刀子だ。
「あらあら、今日は大量ね? 何があったの?」
そう尋ねてきたのは保健室にいつもいる養護教諭、相原瑞穂先生だ。
彼女は学校の中で数少ないこちら側の事情を知っている一人だ。
「ちょっと襲撃があってね」
「襲撃?!」
先生は、信じられないといったような感じだった。
「あれ? 御剣達から聞いてないのか?」
「いえ、聞いてはいたけど襲撃なんて言い方はしてなかったわ」
「どんな説明を受けたんだ?」
「大賀照虎さんが生徒会室に飛び込んできて急に攻撃してきたかと思い御剣さんが対応していると窓から教頭先生が飛び込んできた」
「どんなカオスだよそれ」
襲撃というにしても教頭が窓から飛び込むだけですべてが混沌になりやがる。
教頭先生が窓から生徒会室に飛び込む
字面からして混迷を極めてるな。
このネタだけで一日は話せそうな気がする。
グーグル翻訳で英語にすると
A vice-principal Teacher jumps into a student council room from a window.
く、くく
「そんなに面白いか?」
「くふっ、いや、ぜんぜくふ」
「はあ、まあ犬はこの際おいておいて」
「くふっいや、犬じゃなくて大神と」
「置いといて、なんでまた教頭先生が窓から飛び込んできたのか」
「ぶふっ!」
やべえ、頬が釣りそうだし腹も痛い。
これ自体が攻撃なんじゃないだろうな?!
「大賀と尾崎が仲間なのは確かだな」
「そうなの?」
「ああ、大神は転校生の二人を案内してのだが、そのうちの尾崎と一緒に霧の結界に閉じ込められたらしい。
そして、会長のところに大賀と教頭が飛び込んできたということだ」
「くふっ、ふへ、ふへへへへへへへ」
「大丈夫? 大神くん」
「へ、ぜんぜふっ、くくくくくははははははははははははははは」
「騒々しいぞ犬」
「犬じゃねえ、ふへっ、仕方ねえだろ教頭がふ、ふふ、窓からって、くくはははははははは」
十分後
「あ、落ち着いてきた」
「落ち着いたか? 犬」
「ふう、犬じゃねえ大神か犬太郎と呼べ、いや、すまん、ツボに入ってしまった」
「まあ、仕方ない、犬にだってそういうこともある」
「本当にすまん、だけど犬じゃねえからな大神だからな」
「犬神にしてはどうだ?」
「それもはや別人!」
「犬よりもマシだろう」
「生徒をいじるな養護教師」
「ふっ、話が先に進まなかったのでちょっとした仕返しです」
「ぐぬ」
どうも、俺の笑いが話を邪魔していたみたいだ。
しかし、対応策がこの場から去るという方法しかないのだが、
「で、何の話だったかな?」
「教頭が何故あんな奇行を起こしたかと言うのが疑問です先生」
「ああ、そうそう、で、原因がわからないと」
「はい、大賀でもましてや尾崎でも無いことは分かっているのですが」
「つまり、他に会長を狙っている者が居ると」
「そうなりますね」
その結論を聞いて頭を押さえる相原先生。
「ひとまず組織に渡りは付けておきます。
帰りはふたりとも岩手さんを送りなさい」
「わかりました」
「わかった」
「ということになったけどいいわね岩手さん」
「はい」
会長はにっこり笑って頷いた。
拙作をお読み頂きありがとうございます。
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