第二章 七話 会長の説得術
急いで生徒会室の様子を確認すると一人の男がロープでぐるぐる巻きにされていた。
「え?」
と思わず状況把握できずに間の抜けた声が出てしまった。
「あ、刀子ちゃん大丈夫だった?」
「は、はい、会長も大丈夫でしたか?」
「うん、問題なかったよ」
「この男は?」
「私を狙ってたみたい」
うん、男が会長を誘拐しようとしてたと思って間違いはないだろうけど、怪異がらみでなかったら朝のニュース確定の事件だぞ。
「みたいって、どうやってこの男を縛ったの?」
「それがね気が付いたら縛られてた」
「はい?」
「うー、自分で言っててもおかしいってわかるよ。
けど、そうとしか言いようがないんだよ」
「そうですか」
私は、縛られた男を確認する。
「ん! この人は教頭先生じゃないか」
「うん」
「うんって……」
教える人の頭、教頭先生。
名前は、……思い出せない。
「会長は教頭の名前覚えてますか?」
「うん、太田先生だよ」
「ありがとう」
そうだった、太田先生だ。
この人は、生徒会室にたまに顔を出すので顔はよく知っている。
囲碁将棋部の顧問でもある。
どこから入って来たのかと考えれば窓からと考えるのが妥当だろう。
生徒会室の前では今しがたまで私と大賀が戦っていたのだから。
それにしても何故、教頭先生が縛られているのか。
「そういえば、狙われてるってなんで思ったのですか?」
会長が狙われている可能性が高いのは解っているが、一応部屋には出雲もいるのでそちらを狙った可能性も否定できない。
もっとも、出雲が狙われているとすれば、その理由は解らないが、
「え? ええっと、私の方に向かって真っすぐ襲い掛かって来たから」
会長がそう言うなら間違いはないでしょう。
しかし、教頭先生はおそらく普通の状態ではないでしょう。
捕まれば暴れてもおかしくないはずなのに今は黙って転がっている。
一応、教頭の状態を確認するために近づく。
「大丈夫?」
「ええ、たぶん大丈夫です」
教頭の瞳孔を確認すべく顔を見る。
意識はあるようだが反応が無い。
ぼーっとこちらを見る様は非常に不気味だ。
瞳孔が開いていることを確認して、ため息をつく。
「厄介な人が敵方にいるようですね」
そう言って教頭を蹴飛ばして転がす。
「刀子ちゃん!?」
「あ、ああ! しまった気味が悪くてつい」
自意識が無いとは言えやはりおっさんと見つめあうのはあまりいい気味はしなかったので、つい蹴飛ばしてしまった。
「さて、これからどうしましょうか」
「私が聞きたいよ」
敵の狙いが生徒会長だという事は分かったのですが肝心な敵が見当たらないですからね。
あ、大賀を転がしたままだ。
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大賀を回収して椅子に縛り付けた後、事情を聞き出すために起こす。
「さて、生徒会長を襲わせて何が狙いだったか教えてもらおうか?」
「フンッ」
「……できれば私が聞いている間に答えた方が賢明だと思うのだがな」
「うっせえ、これ以上は喋るつもりはねえよ!」
敵意むき出しで言われると口を割ることが無理なような気がするんですよね。
「はあ、すみません会長、お願いできますか?」
「え? 私? 私にそんな刑事みたいなことできないよ?」
とか言いながら会長は机を刑事ドラマの尋問室風にセッティングし始める。
ライトもばっちりである。
どこから持ち出してきたんだか。
「ゴホン、君! 自分のやったことが分かっているのか!」
ドンッと机を叩く会長。
顔は真剣そのものだが、状況が茶番だ。
「はっ、知ったこっちゃないね」
ぐるぐる巻きは継続されているためぐるぐる巻きの状態で机に脚を乗せる大賀さん、
小芝居に付き合ってくれるあたり案外いい人かもしれない。
「全く! 学校の窓を何だと思ってるんだ!」
「知るか! どうせ誰かが張りなおしてくれるだろう」
私は思わずずっこけそうになった。
聞いてほしいのはそういう事ではない。
しかし、今は辛抱だ。
「君、大事な人はいるかい?」
「は? それが何の関係が」
「その大事な人が作ったものを壊されたらどう思う」
「だから、どんな関係があるんだよ」
「そしてその大事な人も傷つけられたら」
「そうなったら傷つけた人をぶっ殺してやる!」
「君がやったのはそういう事だよ」
「な! そんな訳」
「あるんだよ」
そう言って会長は私の方を見る。
「君は私の親友に攻撃を仕掛けた」
「ぐっ」
「それに君が蹴破った窓も親友の大神君が張り替えてくれたものなんだよ」
え? 初耳だ。
いや、窓が野球部の球で割れたことがあるのは知っていたが、……大神がやる必要性はあったのか?
「ちっ、でも俺様には関係ねえ」
「でも、君が割った窓のことを怒った大神君が君の大事な人を人質にして窓を直せと言われたらどうする?」
「あいつ、そんなことするのか!?」
「むしろ、親友の刀子ちゃんが傷つけられたと知ったら君の大事な人も傷つけるかもしれない」
「くっ、もしそうなら置いて来るんじゃなかった」
「けれどそれを回避する方法があるんだよ」
「な、なんだそれは」
「謝ればいいんだよ」
会長はとてもいい笑顔で言い切った。
「そ、んなことで」
「君が心の底から謝罪するのであれば私は君の味方になってあげるよ」
「いや、そんな訳はない」
「君は約束をした事が無いの?」
「……ある」
「なら、私を信用して、私も君を信用するから」
「……分かった」
机から足をおろして、大賀は頷いた。
「ごめんなさい」
ぐるぐる巻きのせいで表向きシリアスな雰囲気すら台無しである。
「じゃあ、聞かせてくれるよね? なんで刀子ちゃんを襲ったのか?」
「え? いや、その」
「何? 答えられないの? ついさっきの謝罪は嘘?」
「わ、分かったよ、喋る、喋るから嘘つき呼ばわりしないでくれ」
と言うわけで見事に会長は大賀さんの説得に成功したのでした。
大賀さんがいい子なのは私の中で確定した瞬間でもあった。
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なろうの異世界モノ補正がヤバイ




