第二章 六話 御剣刀子対大賀照虎
初の戦闘描写ですが、戦闘っぽくありません
長い戦闘描写をできる人ってすごい
私が彼女のタックルから抜け出せたのは生徒会室から完全に出てしまった後だった。
生徒会室の明かりは見えるが、大賀を抜けて戻れるかと考えたところで少々難しいと思った。
鬼なら斬ればいい、悪霊なら祓えばいい。
しかし、人が相手となるとそうはいかない。
斬ることはできない祓うこともできない、結界戦術も使えない。
私たちは怪異の専門家であって戦闘の専門家ではないのだ。
「全く、あなたの狙いくらいは聞かせて欲しいんだけどね」
私は、刀を鞘に納めたたままの状態で構えた。
斬ることはできないが殴り飛ばす程度のことはできるのだ。
しかし、話さないのならこちらにも考えがある。
「なるほど、何も話さないつもりなら、こちらにも考えがあるわよこの大女」
私の言葉に反応したのか大賀は殴りかかってきた。
感情に怒りが少しだけ入っているところを見るに煽るのは効果的だろうと判断した。
大賀がこの霧と関係している可能性が極めて高い、いや間違いなく関係していると確信していた。
なのでこの霧を発生させた人物がフリーになっていることがまずいのではないかと思ったのだ。
それ以上に、大神の安否が少しだけ不安だ。
転校生に校内を案内していたのだ決していいことにはなっていないだろう。
「そんな大きな体で暴れまわるなんてゴリラだ。
あなたに虎とか笑えるわ大賀テゴリに改名すれば?」
引き続き大賀を煽る。
何かしら言葉を引き出さないと相手の狙いが分からない。
相手の狙いが分からない以上ゴールが見えない。
大賀は怒りに顔を歪ませながらしかし、声を出さない。
必死で口を噤んでいるようにも見える。
「全く、ゴリラなんかの転校をよく引き受けたな。
もう一人の子もどうせ腹黒かなんかなんだろう?」
「うっせえええええええええ!!!!!!」
耳をつんざくような大声を上げる大賀。
どうやらようやく地雷を踏めたようだ。
「黙っていれば人を馬鹿にしやがって、しかも友達まで悪く言うやつは許さん!」
怒りに身を任せて突撃してくる。
「はっ! 友達!? 笑わせるな! 友達ならこんな凶行を行うことを許すわけないだろう!」
突撃をかわし後ろから鞘で叩きつける。
全くふざけている。
「お前に何がわかる! 俺様にはあいつしかいないんだよ! あいつのためならなんだってやってやる!」
「だから! 本当の友達なら学校で暴れるようなことをすることを止めるでしょうが!」
鞘で叩いた攻撃が効いてないかのように再び突撃してくる。
本当にふざけている。
「うっせー! 分かったような口をきいてんじゃねーーー!」
対人戦は専門ではないが、しかし、戦闘においては大神よりも得意ではある。
その中でも一部、対人戦においても使えるものはある。
大賀の攻撃を受け流しすと同時に人形を大賀の腕に付ける。
「急急如律令、身体縛慮!」
大賀は突撃の格好のままで床に倒れる。
慣性の法則で顔を床で擦りながら。
「ふう、全く、怒らせても話にならないな」
私は、術を掛けた大賀に近づいて行く、しかし、ふと感覚に引っかかるものを感じた。
少なくとも彼女は、私が専門家で知っている可能性が高いのだ。
一つに霧の中で自由に動ける可能性があること
一つに霧を使った怪異にであるのがこれで二回目であること
一つにその霧の中で系統は違うとは言え術を使っていること
私は、念のため手裏剣を投げた。
もちろん刃が付いてる方を投げたわけでなく反対側の手持ち部分だ。
手裏剣が当たると彼女は急に体を動かして空を蹴りが通った。
「術が効いてない、のか?」
「ちっ、忌々しいな」
そう言ってのっそりと立ち上がる大賀、腕の人形を剝がそうとするがしっかり張られている上に剥がしにくいような術を掛けている。
どうも動きが鈍っているように思えた。
さっきの蹴りも最初のタックルを思えば鋭くはない。
「まさか、半妖か」
「ああ、その通りだ。 全く、俺様に黙っていろなんて無理なことなのは分かっているだろうに」
そう愚痴る大賀を見て大神と同じく半分怪異であることに厄介だなと思った。
半分は一番ややこしい、全ての術が半分は効くが半分は効かない。
その上で、大賀は素で強い。
私の術は対人用と対怪異用では反発しあうのでどちらか片方しか使えない。
しかし、今は対人用の術を貼り付けているため新たに対怪異用の術を張ることはできない。
「ちっ、ややこしい」
自分の失態に口を衝いて言葉が出る。
怪異に関係している人物であることを念頭に置いておけば可能性があることに気がついて当然なのに、大神なら気がついただろうと思うと自分の無能さを思い知らされる気分だ。
そして、そもそもこいつが現れた理由を考えた時に最初の攻撃はまるで生徒会室から私を押し出すように仕掛けてきたことを思い出しヒヤッと背中に氷を入れられた感触を感じた。
「狙いは岩手会長か?」
「なっ! ……い、いや、違うね」
全く、自分が嫌になるな。
人を守ることにおいては大神より上であることは自負していたのにあっさりと出し抜かれてしまうとは、しかも転校生は二人だ。
もう一人の行動がわからない以上、会長の身に何が起こるかわからない。
私は構えを取りこの戦いで初めてこちらから仕掛ける。
私は戦闘の専門家ではないとは言え、戦闘の訓練を積んでいるんだ。
よっぽどのことがない限りはそう簡単にはやられはしない。
「御剣流剣術、狼牙一閃」
相手の喉を狙って速度重視の突きを繰り出す。
下手をすれば死に至る技だが敵の強さが分かっている以上手加減は出来ない。
「くっ!」
大賀も私の攻撃がどういうものか分かっているのか躱しつつこちらに攻撃を仕掛けんとするが、直後、私は刀を反転させて刀ので頭で躱した大賀の頭部を叩きつける。
「ぐあっ!」
予想もしていなかっただろう御剣流剣術の二段攻撃『狼牙一閃』は初見殺しの技だ。
床に叩きつけたところで意識を失ったようだ。
「全く、一応は札を付けといて正解だったな」
退魔の刀を使っているので対人よりも対怪異の方が戦いやすいからな。
一度対人用の札を剥がして、鉤爪付きのロープでぐるぐる巻きにして、怪異を封じる御札を後頭部に貼り付ける。
もちろん鉤爪の部分はいろいろな意味で危ないので斬って外した。
「これでよし、いや、良しじゃないけど」
と呟きしかし、直ぐに自分にツッコむ。
生徒会室に他の奴が現れている可能性がある。
私は急いで生徒会室に戻ったのだ。
拙作をご覧いただきありがとうございます。
次回予告、会長の能力発動?




