第二章 一話 上位者(上司)の訪問
彼のことを話すときは必ず礼を尽くすこと。
本来ならばこんなことを姉から伝えられることになるのはありえない。
姉自体が、無礼なる者だからな。
しかし、わが麗しき姉をもってしても格上と呼ばれる者が存在する。
姉の上司であり姉の組織のトップ、平清盛である。
彼、と言えば歴史上の人物と同じ名前と性別になってややこしいので姉は彼女と呼んでいるようだが、少なくとも俺にとって平清盛は彼である。
何となく彼女と呼ぶのに抵抗があるのだ。
「おい、結の弟よ、まだ茶は出んのか」
唐突に我が家に押しかけてきた、このイケメン野郎と恨むことができる。
女性でもなく男性でもないのなら、せめて戦いやすい男と思うことにしよう。
「おい、結の弟よ、茶請けはないのか」
「おい、客人、横柄な客は客じゃねえんだよ」
「そうか、ないのか」
リビングに通して、座らせたのはいいが、傲慢な物言いからの言い返すとしょんぼりするこいつを俺はどうすればいいか見当がつかん。
「なんじゃ、平殿、何しに家に来たのじゃ?」
頭に湯気を浮かべたのじゃロリが、現れた。
平清盛が来る少し前、のじゃロリこと、リミこと、花楽里鳴知が風呂に入っていたのは知っていたけど、タイミングが悪い。
「おお! みんちゃんではないか」
「みんちゃんの由来お前か!?」
「ん? ああ、私が授けた字じゃよかろう?」
物騒な字をつけやがって、おそらく時代がかった話し方もおそらくこの人の影響があるんだろうな。
「で、何しに来たのか教えてもらってもいいか? まさか、お茶を飲みに来たとか言わんだろうな」
だったら、怒るぞ。
「ふむ、聞かずとも大体は察しておるだろうに、大神結が弟可愛さに見る目が狂うなどあるわけがないからの」
「チッ」
「し、舌打ちは傷つくのう」
「さっさと教えろ」
なんか腹立ってきた。
「どうしたのじゃ大神?」
「風邪をひくから服を着てきなさい!」
「わ、分かったのじゃ」
わたわたと自分の部屋へ戻るリミを見て若干落ち着く。
「はあ、要件をお伝えください」
「お、おう、なんか、すまんの」
「いいから」
「うむ、ゴフン、みんちゃんが土地神を殺しかけたとか言う話だったのは覚えておるかの?」
「ああ、つい最近のことだからな」
「土地神は、龍脈の守り神だの」
「それも知ってる」
「で、土地神を倒すだけでは、土地神を殺すことはできんのもわかっておるかの?」
「で、それがどうしたんだ?」
「土地神殺しは土地神を倒し、そして龍脈を奪うことで初めて達成されるものだの」
「ああ、今回は龍脈が奪われなかったようだな」
「その通りだの」
「それだけじゃないだろ?」
「うむ、今回奪われなかったのはいいがの、危うく奪われかけたところでもあったようだの」
「何?」
どういうことだ?
「みんちゃんが警戒してたからなんとかなったようだの」
「まあ、そいつが元凶なんだし」
「いや、そうとも言えんの」
「え? あいつが土地神を倒してしまったことが今回のことの発端だろ?」
「それもそうだの。
しかし、それだけではない。
土地神を倒すことは出来ても少々あっさりとしすぎておるの」
「何がいいたいんだ?」
どうもこの人の言うことは要領を得ないな。
「土地神の怒りがあっさりと消えすぎておることが少しばかり気になっての」
「収まったもんならいいんじゃないか?」
「それもそうじゃが、まあ、この地域の専門家であるお主に伝えておこうかと思っての」
「御剣には伝えないのか?」
「既に他のものを向かわせておる」
若干心配だな。
この人がトップみたいだし、姉の組織は大丈夫か?
姉の組織なんていうと私の組織ではない私が所属する組織だなんていいそうだけど。
「ということで、また何かあればこちらに連絡をくれれば嬉しいの」
そう言って平さんは名刺を取り出した。
「……名刺があるのか」
「当然だの」
相変わらずよくわからない組織だな。
「では、わあしはこれで」
そう言って席を立ち玄関へ向かっていく。
「ああ、そうだの、コレをウヌに渡しておく」
そう言って小さいものをこちらに投げてきた。
コントロール抜群で受け取りやすい位置に飛んできた。
「コレは?」
一見ただのお守りだ。
ただ、中に何か入っている?
「持っているだけでご利益があるお守りだの、中身は見てもいいがどうなっても関知はせんの」
「物騒だな」
「お主の姉上にかけて悪いものではないの」
何故姉にかける?
「お主の姉のお陰で組織が運営できとるし当然であろう?」
見透かしたように言って手を振り今度こそ帰って行った。
「あれ? 平殿は?」
着物姿のリミが姿を現す。
出てくるのが遅かったな。
拙作をお読みくださりありがとうございます。




