昼の霧
大神目線に戻ります。
会長と御剣が生け贄を用意する。 と言うと少し怖い言い方だが、まあ、神様に会うためにはおみやげを用意する。
基本的には相手の好みを用意するので、今回は熊ということで鮭を用意してもらうことにした。
鮭と言っても切り身で十分なのだが、まあ、御剣ならわかっているだろう。
神様に会うための準備は一通り済ませた。
よくないものをよせつけないための結界、会長のための神酒、そして巫覡のうちの覡の役割を俺がする。
ただ、現時点で気になることが一つ、結界の外に霧が発生しているのはなぜだ?
あの少女が出て来る時間はとっくに過ぎている。
結界の中に発生しない時点で、普通の霧とは違うのは明らかだ。
俺がここを離れるわけにもいかず、しかし、この怪しげな霧の中果たして2人がここまでたどり着けるか少々不安だ。
とはいえ、御剣は退治が主体の専門家だ。
俺とは違う分野になるが、手札は向こうのほうが多い。
彼女の強さも十分に身にしみているので万が一のことがあれば、その時は俺もただではすまないだろう。
「ここで何をやっているんだ少年」
不意に声がかけられる。
いつの間にか社の前に少女が、立っていた。
「ここの神さまを喚ぶ準備をしていたんだけど、意味がなくなったかな?」
あるいは、考えていたことではある。 この少女が今はこの社の主で元の主であった大熊の主はいなくなっている可能性を
「ふむ、あの熊に用があるのか、前にこそこそとこの社を覗き込んでいたのもそれが理由じゃな?」
「まあ、本来の目的は、霧の怪人らしいです」
「らしい?」
「好奇心の塊を満足させるための答えが必要なんですよ。 で、今回、彼女の好奇心に引っかかったのが社の前で突然姿を消す霧の怪人ということです」
「お前さんは専門家じゃろう? なぜこちらに関わることに手を貸すのじゃ?」
「助けてもらった恩、と言うと少し語弊がありますけど、そうですね。 彼女にこちらの世界を教えてしまった罪滅ぼしみたいなものです」
「ふむ、それならばなおのことこちらに関わらせるべきではないのではないかのう?」
「まあ、偶然ではあるんでしょうけれど、今まで彼女がこちらの世界で好奇心を持って関わったことがすべて、現実にも影響を及ぼしている。 しかも、それが割りと深刻なことに繋がっている場合が多いんですよ」
「ほう、それは面白いことを聞いたのじゃ。 しかし、それはお主たちが関わったからじゃないのか?」
「会長が好奇心を示すのは現実に奇怪現象が現れていることだけですよ。 今回は霧の怪人が原因です。 で、それはあなたの可能性も否定出来ないんですよ」
いちいち、こちら側のいきさつについて説明するのは面倒だが、これは交渉だ。
彼女の、この少女の正体を教えてもらうための事前情報、彼女から教えてもらえること次第によっては、今回のことから手を引く。
会長を引きずってでも、ネタバレさせてもらう。
「ふむ、霧の怪人か、確かに儂は霧の中を移動することは多いが、すでに見たであろう? 儂の術は」
ああ、あの会長の動きを止めた。
「ええ、見ました。 あの術、有効範囲は?」
「霧がある範囲なのじゃ」
「会長は霧から出ていない範囲で術が解けていましたよ?」
「なんじゃと!?」
どうやら、想定外のことが起きているようだ。
「それはどういうことじゃ? 霧の中ではお主みたいな特別な存在意外は完全に無力化する術なはずなんじゃが?」
「だから、まあ、霧の怪人はあなたで間違いないとして、今回の問題点は、あなたの正体です。 この社の主か、そうでなければ主に聞こうと思っていたんですが」
「そういえばお主達はなぜわざわざ朝早くから怪しい行動をとっておったのじゃ? 目撃情報とやらが、本当にあるのであれば昼に社から出るときに見られてもおかしくないのじゃがのう?」
朝に社に入って昼に社から出ているのであれば昼に目撃されないのは確かにおかしいか。
「それと、お主が結界で弾いている霧は、儂の術とは違うものなのじゃぞ?」
「え?」
拙作を読んでくださりありがとうございます。
神の言葉を伝える人のことを巫覡といい巫は女性、覡は男性を表します。
巫はかんなぎとも読みます。




