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セヴン  作者: サトウ
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終炎

『ソヴァルディア』の南東部に位置する『ハーベル地方』に幸せに暮らしていた家族がいた。

周りの家よりひとまわり大きな家に、父と母と一人息子の3人家族が幸せに食事をしていた。

外は真っ白な雪が降り、幻想的な光景を演出し、そのうえ暖炉には火が燃え、心地よい音がさらに、穏やかな気持ちにさせる。

見ているだけで微笑ましい瞬間が一瞬で悲劇に変わることを、誰も知らない。

ある男一人を除いて。

その男の手には剣、そして火の付いたランプを妖しく光らせながら男は、家のベルを鳴らした。


「こんな時間に誰だろうか」そんな事を呟きながら玄関の方へ歩み寄る父。

母は手に持っていたカトラリーをテーブルに下ろし、父の後を追っていった。

それを見て少し不安が押し寄せたのか、両親の後を恐る恐る静かに追いかける息子。

柱の陰から覗き込むように見てみると、見知らぬ男が玄関に立っている。黒いマントに、黒い布を掛けている。顔すら見えない位に深く覆っている。

父の知り合いなのだろうか、母は父に隠れるように怯えているようだった。

「前にも言ったはずだ。あの子は私の息子だ。誰が何を言おうとも帝国に差し出す訳にはいかない」

「貴方・・・」

「ユーゼン・ノンバート。お前は帝国に仕える身でありながら、帝国の命令を無視すると言うのだな」男の声は低く、威圧を感じ得ざるおえない程だ。

「帝国の命令でも従える事と出来ない事もある。ましてや自分の家族を売るような事は絶対に出来ない。お前にも家族が出来れば分かるだろう」

ユーゼンが玄関の扉を閉めようとすると男は扉に足を掛け、勢い良く扉をこじ開けた。

「な、何を・・・!!」

「これ以上長引かせられると、俺も危うくなるのでな。強行突破させてもらう事にする」

男は父を突き飛ばし、母もつられて倒れてしまう。

「ま、待て!!」

男はそんな言葉を気にしないまま家の中へ入ってくる。

咄嗟に椅子の陰に隠れ、男に見つからないように息を潜める。体が無意識に震えていた。あの男に見つかってしまったらどうなってしまうのだろうと言う恐怖が支配していた。

そんな事を駆け巡らせながら黙っていると父の声が聞こえて来る。

「こんな事をしてただで済むと思っているのか!」

聞いた事も無いような声で男を怒鳴っている父を見てみると、手には剣が構えられている。

「貴方!」母はそんな姿の父を心配そうに見つめている。

「アリアナ!ゼクスを連れてここから逃げなさい!」

「貴方は!?」

「俺はこいつを足止めしておく、その間に・・・早く!」

母が父から視線を離せない間に「ママ!」と呼びかけ、駆け寄る。

「ゼクス!」母は力強く抱きしめ、息子を抱き上げ部屋から出ようとした瞬間、眩い光が部屋の中で弾ける。

その光が消えた瞬間、父の倒れている姿が目に入る。

「貴方!!」「パパ!」二人は大きな声を上げ、倒れ込んでいる父に駆け寄った。

息はあるが、とても苦しそうな表情で二人を見つめる。

「いい・・・から・・・、はや、く・・・にげ・・・!」

すると男は手に持っていたランプを放りなげた。投げた所から小さな火が上がり、煙を上げながら瞬く間に火は炎になってゆく。

「貴方・・・!貴方しっかりして!」母は父に何度も呼びかけるが、全く反応が返ってくる様子は無かった。

男は炎にも動じずにこちらに向かってくる。そんな姿が恐ろしくなり、母の服を強く握る。

「ママ・・・!」

母はその声で我にかえり、息子を再び抱え部屋を出ようとするが、いつの間にか男が立ち塞がるように立っていた。

「そこを退きなさい」

「アリアナ・ノンバート。大人しくその子をこちらに渡せば、命は助けてやる。あの男のように死にたくはないだろう」

その言葉に母は、悲しみを抑えきれずに涙した。父が死んだと言う事を、殺した本人に言われた事がショックで体が震えていた。

その濡れた瞳で我が子を見つめ、何かを決心した様子で男を睨みつける。

「たとえ私が死んだとしても、必ずこの子は守ってみせる」

「死んでしまえば、守る事も助ける事も出来ない。・・・それでもアナタは死を望むのか?」

「私は死なない」

「愚かな人だ!」男の剣が母の首に斬りかかろうとした瞬間、何か温かいものが二人を包み込んだ。

「何!?」男の剣は弾かれ、勢い良く振りかざした勢いのせいで腕が痺れている。

「魔法か」

二人を包んでいる光は強く光輝いていたが、その光も段々と弱くなっていく。

母の息が上がっている。辛そうな顔をしながら何かを唱えている。

「ママ・・・」

「大丈夫よ、ゼクス。アナタを、必ず、守ってあげる、から・・・ね」

その言葉も顔も優しく息子に向けたその瞬間、母から温かいものが溢れた。

「くっ・・・」母が痛みに耐えている表情を男は冷たく見つめている。

「まさかアナタが魔術師だとは思いませんでした。また不思議な術を使う前に、アナタには死んでもらうしかない」と突き刺した剣に力を込め、傷口を広げる。

「あぁ・・・!!」痛みで悲鳴を上げ、息子を離してしまいそうになる。

だが、再び息子を強く抱きしめ、何かを唱え始める。

母の辛そうな顔を見て、思わず泣き出してしまう息子を宥めている暇さえ無かった。

「先に首を掻っ切った方が良かったな」男は突き刺した剣を勢い良く抜き、血の付いた剣を払い、再び剣を向けようとした瞬間、男の剣が何かの力によって弾き飛ばされてしまう。

「!?」驚いた次の瞬間、男の方目掛け、鋭い何かが男を襲った。

「ぐああぁあ!」目が熱い!目が痛む!視界が暗い!あの女、私の目に向けて何かを・・・!

男が怯んでいるうちに、手にためていた光を息子の心臓に与えた。

その光は暖かく、心地よいものであった。目蓋が重くなっていき、いつの間にか二人は眠りについてしまう。

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