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魔王様のご近所征服大作戦  作者: 京 高
第十二章 魔王、鈴木弥勒
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第八十四話 潜入

 クーガの上司に当たる研究者との話し合いは、残念ながらかんばしいものではなかった。

 まあ、どこの誰とも分からない者が突然やって来て実験に参加させて欲しいと言ってきたのだから無理からぬことではある。

 むしろそんな会談の場を設けさせる程の発言力を持つクーガと知り合いになれていたことを幸運に思うべきだろう。

 加えて待っている間は一人にされていたため、魔法を用いて建物内部の構造などを調べることができた点も重要な成果だ。


「クーガ君の危惧していることもよく理解できるし、鈴木さんのような方にフォローしてもらえるのならば確かに実験はスムーズに進むだろう。しかし、これは我々だけで決定できるものではない。大学の方に打診してみるが、あまり期待はしないで欲しい」


 こんな言葉を最後に会談は終了し、研究所から辞することになったが、元々今日一日だけで何とかなるとは思っていない。首尾は上々といえた。

 ただ、やたらと気落ちして所在なさげにしているクーガを励ますのに、想像以上の労力が必要だったことだけは誤算であったのだが。




 翌日の夜、艮の世界で妖精たちの歓待を存分に堪能してから帰ってきたのであろうヒトミを捕まえて、弥勒は〈頭脳科学研究所〉へと忍び込んでいた。

 そのヒトミであるが、夢見心地でとろけたような笑顔を浮かべていたところを強引に引っ張ってこられた反動か、カチンコチンの硬い堅い表情になっている。


「どうして私がこんな、すにーきんぐみっしょんに駆り出されているのよ」


 口を開けば愚痴ばかりという有様である。

 もちろん一人だけいい思いをさせてばかりなのは癪なので連れて来ただけだったりする。しかし、そんなことを言えば拗れるどころか決定的な対立関係に陥ってしまうことは火を見るより明らかなので、


「敵対勢力の中枢に赴くのに戦力を集中させるのは当然のことだ。頼ってしまって悪いが、手助けを頼む」


 ヨイショヨイショと持ち上げておく。

 まあ、何となくというか間違いなくバレているのだろうが、そこはそれ、持ちつ持たれつ――ゲート使用者の設定権は弥勒が握っている――というところだ。

 そもそも敵対管理者に喧嘩を売られた、または陰謀にはめられたのはヒトミであり、弥勒はそこに巻き込まれた形である。

 色々と迷惑を掛けられているので今更一抜けたと放りだすような真似はしないが、ヒトミには当事者として事態の収束に向けてきっちりと動いてもらいたいのだった。

 弥勒たちが漫才のようないつものやり取りをしている一方で、ジョニーは先行して様子を探っていた。ムゲツは少々体格が大きいので外で連絡要員として待機している。


『こちら現場のジョニーっす。奥の部屋では研究者たちが何かやっているみたいっす』


 いやまて、それはレポーターの台詞なので外にいるムゲツが言う方が合っているのではないか?

 建物内部に潜入しているのだから蛇な人の語録を参考にしてもらいたいものである。食べ物に敏感に反応する辺りはまり役といえそうだ。


 閑話休題。

 ジョニーが覗きこんでいる部屋ではデータの解析をしているのか、それなりに遅い時間帯にもかかわらず、多くの研究者らしき白衣を着た者たちが一心不乱にそれぞれの作業に没頭していた。

 その様子は暗示のようなものをかけられて無理矢理働かされているようにも見えるが、そうでもないようにも見える。

 自分の興味・関心のあることが目の前にあると寝食を忘れがちになるのが研究者という生き物の特徴でもあるので、判別が難しいのだ。

 今すぐ彼らの研究内容や研究結果を知りたい訳ではないので、当面は放置でいいような気がする。


『あれ?そういえばここに潜入した目的ってなんだったっすか?』


 事ここに来てハチベエも真っ青なうっかりさを発揮するジョニー。

 だが今回に限っては真ん丸雀だけが悪いとはいえない。なぜなら弥勒が潜入の目的を明確に伝えていなかったからである。

 そもそも弥勒自身これという確かな潜入目標を持っていたとはいえず、ここに来れば何かがある程度の漠然とした認識だった。

 むしろ敵対管理者が進めている計画を邪魔してやろう、上手くいけば謎の魔法使いといった幹部に遭遇できるかもしれないくらいにしか考えていなかったのである。

 そんな嫌がらせの延長のような感覚でいたせいか、報告を受けた弥勒の判断はかえって素早かった。


『作業が遅れればその分実験に影響するはずだな。よし、眠らせて中断させてやろう』


 引き続き真ん丸雀に周囲の警戒を続行させている間に件の部屋の前へ。

 中の人間全てを対象にして眠りの魔法を発動する。

 全員が眠りに落ちたことを確認した上で困惑の魔法――混乱ではないので仲間を攻撃したりはしない。非戦闘員を無力化するのにお勧めの一品――も重ねてかけておく。

 これで仮に誰かに叩き起こされたとしても、意識が朦朧として時間を稼ぐことができるはずである。


「この中に仲間はいなかったのかしら?」

「魔法を使った気配もなければ、魔力の動きも感じられない。事情を知った上で協力をしていた者はいなさそうだ」


 つまりここにいるのは一般の研究員ということになるのだろう。

 それにしても世界にこれだけ魔力が満ちているというのに、人々がそのことに全くといっていいほど気が付かないのはどういう理由だろうか。

 菜豊荘の面々が魔法を使えるようになったことから――彼らが規格外であるかもしれないことは一旦置いておく――この世界の人間が魔力や魔法に適性があることは分かっている。

 実はこれは人間だけでなく全ての生き物に当てはまることである。親和性の程度により得手、不得手はあり得るが、魔法適性がゼロという生命は存在しない。

 これまでそれほど気にしていなかったことだが、考えてみればこれほど不可思議なことはない。間違いなく管理者が絡んでいるだろうから、早めにヒトミに問い質しておいた方が良さそうである。


 だが、まずは目の前――潜入しているので目の前どころか前後左右上下全てを覆っていたりするのだが――のことから片付けていくべきだ。

 おかしな妄執に囚われて余計なちょっかいをかけてきた敵対管理者にはその代金をしっかりと支払わせなくてはいけない。

 真ん丸雀に指示して更に奥を目指す。


「ここからは地下になるのね。……それであなたたちは何をそんなにそわそわしているの?」


 魔法によって難なくセキュリティーチェックをクリアした先には地下へと続くエレベーターが設置されていた。


「地下施設はロマンだからな!」

『地下施設はろまんだからっす!』


 口を揃えて答える似た者主従である。


『どんな研究をしているっすか?危険でやばい細菌兵器っすか?』

『いや、ここは伝統にのっとって巨大ロボットではなかろうか?』

「頭痛くなってきた……」


 ここは〈頭脳科学研究所〉であり、記憶や認識といった研究をしているところである。

 兵器などは造られていない、はずだ。

 楽しそうな一人と一羽の横で、ヒトミは片手で頭を押さえていた。

 そんなとぼけた会話を交わしている間にエレベーターが目的地へと到着する。

 扉が開く前に消身と防音の複合魔法を使う。これで魔力の動きを感知されない限り見つかることはないはずだ。

 ここからはせキュリーティーレベルが一段も二段も上がっているはずなので、用心するにこしたことはない。

 弥勒たちは施設の深奥へと足を踏み出すのだった。


次回更新は2月27日のお昼12時です。

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