表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様のご近所征服大作戦  作者: 京 高
第十一章 魔王様と忙しい日々
82/90

第八十一話 土産と調査結果

 交渉を無事に終えた弥勒たちは、それから二日の間のんびりとニュテの街を観光して回った。

 その時、無事に玄人の古い友人たちにも会うことができたのだが、事故に巻き込まれた影響で記憶喪失となり各地を放浪していて、更に記憶が戻ったことでその当時のことはあやふやだ、ということで説明しておいた。

 また、向こうの世界仕込みのデザインもそうした事故の影響を受けたものだと勝手に解釈されたのだった。


「テロージ王、世話になった」

「お陰さまで楽しめたわ」


 玄人に宛がわれた部屋で弥勒たちは別れの挨拶を述べていた。


「なに、楽しんでもらえたのであれば、こちらとしても世話をした甲斐があったというものだ。それにしても……、随分と買い込んだのだな。しかも食べ物ばかり」


 テロージは弥勒とヒトミが抱えている荷物を見て苦笑している。


「大量に食う者がいるのでな。それにのんびりと観光しておいて土産もなしだと、置いてきた者たちが暴動を起こしかねないからな……」


 先週の針生の世界での騒動を話した時でさえ、「行ってみたい!」の連呼になったのだ。騒ぎにならないように予防策は取っておくべきだろう。


「いつでもという訳にはいかないだろうが、また来てくれ。今度はそちらの世界の話も色々と聞いてみたいからな」

「分かった。落ち着いたら顔を出すことにしよう」

「それじゃあ私たちは先に帰るわ。名残惜しいだろうけれど、三日以内には帰って来るようにね」


 弥勒がテロージに再会を約束されている横で、玄人がヒトミに言われて神妙に頷いていた。

 最後に一礼してからゲートに入ると、二人して「「はあぁぁ……」」と深い溜め息を吐く。


「焦ったわー。まさか着いてすぐに向こうの管理者とはち合わせるとは思ってもいなかったわ」

「全くだ。どうなることかと肝を冷やしたぞ」

「それにしても管理者が堂々と王様をしているなんて、異世界おそるべし!ね……」


 そう、何を隠そうテロージはあの世界の管理者の一人だったのである。弥勒とヒトミ、二人も管理者が揃っていたのにもかかわらず、戦うこともしなかったのはこうした裏事情があったからだった。


「あれはやはり規格外を保護するため、なのだろうな。王という目立つ対場にいるのは他の管理者に手出しをさせないためだな」

「そうでしょうね。まあ、終わり良ければ全て良し!ということで」

「あのお祓いは無意味だったがな」


 と、軽口をたたき合いながら帰っていくのだった。




「へえ。これがその世界で買ってきたお菓子ですか?」

「甘みは薄いけれど、素朴で懐かしい感じの味ですね」

「あうばー」


 夕食後、四谷一家に土産に買ってきた菓子を振舞っていた。〈森の館〉での説明をヒトミに任せて――押し付けたとも言う――夕食に間に合うように菜豊荘へと帰っていたのだった。

 四谷一家以外の者たちはアルバイトや仕事に出ていてもうじき帰ってくるという。それならば土産話は全員が揃ってからにしようと、菓子で間を繋いでいたのだった。


 ちなみにジョニーはごく少量でも腹が一杯になるという触れ込みの謎食品を大量に食べて、風船のようになってしまっていた。

 そんなジョニーをボールに見立てて撞いて遊んでいる内に次々にメンバーが帰ってきて、その数が千回になる頃には全員揃っていたのだが、当然のごとくジョニー撞きに熱中してしまっていたのだった。


「今回の異世界訪問の総括をすると、話の分かる相手で助かった、ということになりますかね」

「身も蓋もないが、一言で言うならそういうことになるだろうな」

「弥勒サンともう一人管理者がいても勝てなかったアルか?」

「被害や損壊を一切考慮に入れないのならば勝つことはできただろう。しかしそもそも喧嘩をしに行った訳ではなかったからな。やろうとも思わなかったというのが本音の所だ」

「なにか面白いものありましたか?」

「向こうではミスリルと呼ばれていた魔法金属があったぞ。しかしこちらの形状記憶合金のようにしか加工できていなかったな」


 質問に次々と答えていくと、その度に歓声が上がっていた。

 ジョニーはといえば撞かれまくって疲れたのが良かったのか、元のサイズを取り戻していた。今は智由が食べこぼした土産の菓子を啄ばんで回っている。

 後悔も反省もしない、真ん丸雀であった。


「あ!話は変わりますけれど、年明けから〈頭脳科学研究所〉で何らかの動きがあるみたいですよ」


 イロハが発した言葉に場の空気が引き締まる。


「詳しく聞かせてくれ」

「まずは僕たち学生に向けて開示されている情報、つまりは一般向けのものからお知らせします。

 えっと、研究に参加している全チーム合同で大規模な実験を行うらしくて、その被験者を募集しています。期間は一月の中旬から二月の頭に掛けての約二週間で、定員は三百人。アルバイトという形で募集をかけているためか既に百人近い応募があったみたいです」

「研究内容の守秘のために期間中は拘束されるみたいアル。食事と宿泊場所は大学側が用意するので、貧乏学生がこぞって参加しているアル」

「後、参加者は各授業の試験が免除されるとか優遇されるとかいう噂が一部の学生に出回っていますけれど、こちらはデマの可能性が高そうですね」


 孝とリィの説明に、正が苦笑しながら続けた。


「実験内容については分からないか?」

「完全に不明です。だから胡散臭く思って応募を迷っている学生も多いみたいです。反対に大学が応募主なので多少アレでも問題ないと飛び付いた人もそれなりにいます」

「それについては追加情報が。うちの先生が教授会で聞いた話だと、記憶と忘却について調べる、とか言っていたそうですよ。一番古い記憶はいつなのかを探る実験をするみたいです」


 助手をしているイロハの所にまで流れてくる情報だから、漏れても問題のないものであるかもしれない。むしろ対外的に発表するつもりの情報を小出しにしている可能性もある。それでも実験の傾向を掴めたことは大きい。


「……魔法や薬を用いて、大量の人間に暗示をかける気かもしれない」

「人を集めること自体が目的ということアルか?」

「もちろんイロハが聞いたような実験もするのだろうが、そう考えておいた方が無難だろう」


 それならば参加者の身柄を拘束する理由にも説明が付く。暗示状態で外に放り出す訳にはいかないからだ。

 しかしそうなるとのんびりしている暇はない。早急に以前役場に訪れた研究所に勤めているという彼と接触して、潜入するルートを確保しなければいけない。

 まずは安否確認をして無事であるか調べなければ。


『ジョニー!』

『もぐ、もぐ。うまっ!もぐ、ん?よ、呼んだっすか?』


 鍋に落ち込みそうになりながら黙々と夕食の残り物――集まることになるのは分かっていたので、夕食を食べていない者がいるかもしれないと多めに作ってあったのである――を食べていたジョニーが振り返る。

 ピシッと音を立てて部屋の空気が凍りつく。

 イロハたちが恐るおそる弥勒の顔をうかがうと、そのこめかみには特大の青筋が立っていた。

 怒っている。

 誰かがごくりと唾を飲み込む音が響く。

 しかし真ん丸雀は分かっていないのか『けぷ』と小さくげっぷをしていた。


 無言で窓を開ける弥勒。

 だが、魔法を使っていたのか外の冷気は入ってこない。

 意外と冷静なのか?

 そして外の木の枝に止まっていた梟に話しかけ始めた。


「ムゲツよ、至急あのバカに野性の厳しさと礼儀とその他諸々を叩きこんでくれ」


 弥勒の言葉に応えるように部屋の中に入って来る梟。


『ムゲツのおっさんじゃないっすか。久しブリッ――!?』


 そして無言でジョニーを脚で鷲掴みにする。そのまま窓辺に戻ると、振り返り優雅に一礼して夜の闇に去って行った。


『たあぁぁっすけてえぇぇぇ……』


 後にはジョニーの間の抜けた悲鳴だけが残されていたのだった。


ジョニー……おまえってやつは……。



次回更新は2月21日のお昼12時です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ