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魔王様のご近所征服大作戦  作者: 京 高
第十章 魔王様の異世界探訪記
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第七十二話 針生の世界 その二、案内

 キランと真昼のお星さまになった魔物をみて、弥勒は内心力加減を間違えたと冷や汗をかいていた。まあ、ピストルだかビーストだかいう奴の僕らしいので大丈夫だろう。

 多分。

 それにいなくなった魔物よりも目の前にいる美女の様子を探ることの方が重要だ。彼女はあまりの急展開についてこられなかったのか、呆然としていた。


「怪我はないか?」


 と尋ねると、ビクッと体を震わせる。

 その拍子に彼女の長い髪が流れて、覆われていた耳が露出した。

 その耳は長く尖っている。

 エルフだ。

 深い森の中なので彼らがいることは何の不思議でもないのだが、針生からはこの世界でもほとんど他種族の前に姿を現さない者たちだと聞いていたので、あっさり見つけることができて拍子抜けしてしまったのだ。


「俺の言葉は分かるか?突然現れたから戸惑っているとは思うが、こちらには敵対するつもりも傷つけるつもりもないので安心してもらいたい」


 あくまでも丁寧に、そして紳士的に話しかける。もしかすると彼女は針生と同じ一族の出かもしれないからだ。

 そうでなくてもエルフは同族を大切にする。針生がすんなりと元の生活に戻れるように、波風を立てないようにする必要がある。


「あ、危ない所を助けて頂いてありがとうございました!」


 落ち着いてきたのか彼女はがばっと頭を下げた。やはり危ないところだったようだ。助けることができてこちらとしても一安心である。


「互いに聞きたいこともあるだろうが、まずは服を着替えてくれるか。ないとは思うがさっきの魔物が帰って来るかもしれないから、俺は周囲の警戒をしておく」

「ごめんなさい!すぐに着替えます!」


 泉から少し離れた場所で周の気配を探る。弥勒と彼女以外には小動物しかいないようだ。先ほどの魔物の気配に当てられたのか、怯えている。

 もう大丈夫だと言ってやりたいところではあるが、針生ならばともかく異世界からの訪問者である自分が出しゃばり過ぎるのもよくない。

 そうした役目は着替えている彼女や仲間のエルフたちに任せるべきだろう。


「お待たせしました」


 振り返ると着替えを終えた彼女が立っていた。草色に染められた装飾の殆どない素朴な服だが、それがかえって彼女の透き通るような白い肌や陽光に輝く長い髪を際立たせていた。

 それはともかく手足の露出が多いのが気にかかる。腕は二の腕まで、サンダルのような物は履いているが脚は膝上までがむき出しになっている。そんな服装では木の枝や草の葉で怪我をしてしまうのではないだろうか。

 そう考えた所で、弥勒はとんだ思い違いをしていることに気が付いた。人間ならばいざ知らず、森で生きるエルフにしてみればその程度のことはなんの障害にもならないはずだ。


「どうかしましたか?」


 そんな心の変遷が表情に出ていたのか、不安そうな声で尋ねられる。

 別段隠すようなことではないので素直に話すと、彼女は安心したように小さく笑っていた。

 そういえば針生はこちらの服に着替えていたのだろうか?はっきりとは覚えていないのだが、喫茶店のマスターの服のままだったような気がする。


「改めて、危ない所を助けて頂いてありがとうございました。私はミーク、この大森林マニメのエルフ氏族に連なるものです」


 その名乗りからやはりここは針生の故郷の森であるようだ。


「俺は……弥勒という。訳あってこの森出身の者と連れだってやって来たのだが、はぐれてしまったのだ」


 一瞬どう名乗ろうか悩んだものの、結局は一番使い慣れた名前でいくことにした。

 その説明に怪訝な顔をするミーク。エルフが森を出ることは極まれなので、そうした者に心当たりがなかったのだろう。


「そういうことなら私たちの集落に来ませんか」


 それでも助けてもらった恩に報いることを選んだようだ。弥勒はその心根に好感を持ったが、同時に彼女の若干低い危機意識に不安も感じるのだった。


「申し出はありがたいが、そんなに簡単に部外者を入れてもいいのか?」

「本当は細かい審査などが必要なのですが、実は今、私たちとさっきの魔物の主であるピストとの間でいさかいが起きているのです」


 なるほど、つまり敵の敵は味方ということだ。見事に面倒事に巻き込まれている気がしないでもないが、既に針生とヒトミが移動していた場合、エルフたちの協力なしに発見することは困難だろう。

 本来は双方の言い分を聞いてからでなければ介入は控えるべきだが、あの魔物の主となるとどうせ碌な者ではないと思われる。

 ここはミークたちに売れるだけ恩を売っておいた方が良さそうだ。


「ふむ。ならば厄介になるとしようか。だが、その前に一度はぐれた場所に戻っても構わないだろうか?もしかすると、戻って来ているかもしれないからな」

「確かにその可能性はありますね。私もその場にご一緒します」


 ゲートを見られるのは得策ではないかもしれないが、現状目印になるので隠すことはできない。いずれエルフたちに見つかるのであれば、最初からこちらと関係があるものだと周知しておくのも手だ。

 そう結論付けて弥勒はミークを連れてゲートの場所まで戻った。

 二人がそこで待っている、という一縷の望みは天に届かなかったらしい。ゲートの漆黒の穴がぽっかりと開いているだけだった。

 都合が良すぎる願いだということは弥勒も自覚していたので別段落胆してはいなかったが、一方で突然謎のゲートを見せられたミークは驚き戸惑っていた。


「こ、これは一体なんですか!?とてつもない魔力を感じます……」


 見つかり難いようにできるだけ魔力を放出しないように創り上げたが、流石に目前にまでやって来れば、その膨大な魔力に感付かれてしまうようである。


「色々と訳ありということだ。まあ、目印のようなものだと思っておいてくれ」


 ミークには申し訳ないが、彼女にばかり構ってはいられない。木に記したメモにもゲートの周囲にも変化は見られなかった。


「ミークよ、お前たちの集落は、ここからだとどちらの方向にどれくらい歩いた先にあるのだ?」

「え?ああ、あちらの方角に四半刻ほど歩いた所になります」


 と、泉よりもやや右手を指差していた。そちらにあるエルフの集落にいることをメモ代わりにした木に追加で記していく。到着までの時間の方は良く分からなかったので適当に一時間としておいた。


「それでは手間をかけるが、集落に案内してくれ」

「わ、分かりました……」


 ゲートに弥勒の正体とミークは色々と気になっているようだったが、まずは自分の役目を果たすことにしたようだ。

 森に慣れていない弥勒を気遣ってのことか、それとも改めてこちらの正体を探っているのか、その歩みはゆっくりとしたものだった。

 そうして弥勒の体感で一時間半ほど歩いた時、突然それは起きた。


「ミーク!どこへ行っていたのだ!?」


 いきなり頭上の木から男のエルフが飛び降りてきたのである。


「死んだとばかり思われていたハリューが帰って来て集落は大騒ぎになっているぞ!」

「え?ハリュー?」

「そうだ!お前の婚約者だったハリューだ!」


 その言葉を聞いた瞬間ミークは一直線に集落は向けて走り出した。後に残された弥勒はまさかの急展開に呆気にとられていた。


「鈴木弥勒、さんでよろしいか?」


 そんな弥勒にエルフの男性が問い掛ける。


「ああ。そうだが、なぜそれを……というのは愚問だな。針生から聞いたのだろう?」

「はい。それとお連れの方も既に集落に着いています。もうすぐそこですが、ミークに変わって私がご案内します」


 彼の言葉を信じるならばヒトミもいるようだ。弥勒はほっと息を吐いて集落に向けて再び歩き始めるのだった。


はい、ミークさんはヒロイン枠ではありませんでした!



次回更新は2月6日のお昼12時です。

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