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魔王様のご近所征服大作戦  作者: 京 高
第十章 魔王様の異世界探訪記
70/90

第六十九話 異世界への門

今回で20万文字到達です。

同時に連載も70回となりました。

読者の皆様に感謝!

 切っ掛けとなる部分さえできてしまえばあとは簡単だった、とはいかないまでも毎日魔力を込めていき、中継地点となる空間の創造は徐々にだが進んでいった。


「ふう。ここでコーヒーを飲むのもすっかり日課になってしまったな」


 秋の終わりも近付いたこの日、本日分の創造作業を終えて弥勒は一息ついていた。この頃になるとフミカ目当ての客も大人しくなり、少しばかりの常連客という名の熱心なファンが増えたこと以外は元通りの落ち着きを取り戻していた。


「私たちにできるお礼といえばこれくらいのものですから。ゆっくりしていって下さい」

「そうさせてもらう」


 店主である針生と一言二言交わしながらコーヒーを飲む。幾分弱くなった午後の日差しが適度に入って来る店内は落ち着いた大人の雰囲気を醸し出していた。

 しかし、そんな景色から明らかに浮いた一人と一羽がいる。なんちゃってメイド服を着たフミカと真ん丸雀のジョニーである。


「弥勒さん作業の方は順調なんですか?」


 ジョニーのダイエットを手伝いながら――今は縄跳びをしていた。もちろんフミカが廻してやっている――フミカが尋ねてくる。


「それなり、といった所か。今のペースでいけば今月中には形になるだろう。そこからそれぞれの世界へのゲートを開く必要があるから、皆の里帰り自体はもう少し先の話になるだろうがな」

「これまで待ってきたのですから、もう少し待つくらい問題ありませんよ。なんといっても帰るだけではなく、行き来までできるようにしてくれているのですから」

「それに関してはこちらの身勝手も多分に込められているから、それほど気にする必要はない。むしろ制約を与えてしまって申し訳ないくらいだ」


 針生の入れるコーヒーの味にもすっかり慣れてしまったので、これが飲めなくなると結構困ってしまう弥勒であった。

 そして何より〈森の館〉の三人がいなくなってしまっては読むことのできる漫画の量が激減してしまう。管理者になったとはいえ、弥勒の収入は通訳のアルバイト代だけなので、購入することができる漫画は微々たる量でしかないのである。

 最悪立ち読みという方法がない訳ではないのだが、元の世界で魔王という為政者であった立場からすれば、健全な社会環境・経済環境のためにきちんと対価を支払うべきだと考えてしまうのだった。


 そして各地で初雪が観測されたというニュースが聞かれるようになった頃、ついに中継地点が完成するのだった。


「ふうん。ここが中継地点となる空間か。……何もないわね」


 がらんとした空間を見渡してヒトミが感想を口にする。まだ空間そのものができあがったばかりなので当然である。そしてここには何が必要なのか、何を置いておくべきなのかを検討するために視察してもらっているのである。


「広さは学校の教室くらいでしょうか。木材のように見えますけれど、壁や床の素材はなんですか?」


 今度はフミカがコンコンと手近な壁を叩きながら尋ねてくる。


「魔力を固めて創ったものだ。せめて見た目くらいはと〈森の館〉に似せてみた」


 それこそ土壁でも石壁でも金属製のものでも、はたまたぷにょんぷにょんなスライム素材でも再現可能だったのだが、急激な変化があると戸惑ってしまうだろうと考えたのである。

 しかし床の一部くらいはスライム素材でもトランポリンのようで楽しかったかもしれない。


「特に何かが必要ということはないと思うわ。強いて言えば緊急の避難先として使えるように、水や食料を常備しておくといいかもしれないわ」

「私も先輩の案には賛成です。弥勒さんが創ったここは一応異空間ですから、あっちで地震などの災害が起きても影響を受けないので避難場所としては最適だと思います」

「それなら毛布とか寝具も揃えておいた方がいいかもね」

「あ、ラジオとかテレビとか情報を入手する手段も確保しておくべきですね!」


 二人に任せておくと、中継地点ではなくシェルターになってしまいそうだ。弥勒が慌てて止めに入ったのは言うまでもない。しかしそれ以外に必要な設置物というのも特に思いつかない。

 そもそも弥勒たちが漫画の倉庫代わりにしようとしたために、二人の視察が入ることになったのである。それに比べれば幾分かましな利用方法だといえなくもないのかもしれない。

 最終的には、ある程度の量の非常食は置いておき、それ以外は使ってみてから考えようということになったのだった。


 そんな意味があるのかないのかよく分からない視察をする一方で、弥勒は針生たち三人にそれぞれの世界に帰る順番を決めるように指示していた。

 異世界に繋がるゲートは同時に一つしか開くことができない、ということではない。予定では一度に三つ同時に開くつもりでいるのだが、初回に限り一人ずつ帰って様子を見ることにしたのである。

 その際、安全を確保するために管理者である弥勒と、何故かヒトミが同行する――もちろん面白そうだからという理由であり、フミカやジョニーが羨ましがっていた――ことになっている。

 三人の内誰か一人は〈森の館〉に残って隠れ里の維持に努めることになっているので、今回決まる順番で以降も交互に帰郷することになるだろう。そのためか順番はなかなか決まらずにいた。


「まだまだかかりそうねー」


 ティーポットにたっぷりと入れられた紅茶を自分のカップに注ぎながら、ヒトミがポツリと漏らす。その顔には「もう飽きた。暇」と太文字で大きく書かれていた。


「お互いに譲りあっていますから、これは長引きそうですよ。先輩か弥勒さんが介入して決めてしまうという案も視野に入れた方がいいかもしれませんね」


 長い間一緒に暮らしてきて互いに苦労している所を見ているので、つい相手を思いやってしまうために紛糾しているようだ。


「いやよ面倒くさい」


 しかしそんなフミカの提案も一刀両断で聞く耳すら持っていないようである。そしてこれまた大皿に大量に盛られたクッキーに手をのばしていた。

 このクッキーだけでなく、店でお茶請けに出しているお菓子は全て艮が作っているらしい。流石は家事が得意なゴブリンだ、どこかの食べるだけが取り柄の僕とは一味違う。

 弥勒が視線を横にずらすと、ジョニーがクッキーを勢いよく啄ばんでいた。後でダイエットとして消費されることを考えると、食材とエネルギーの無駄なのではないかと思えてくる。せめて体力の増加に繋がっていればマシなのだが、はてさて一体どうなっていることやら。


 三人の話し合いは、待つことに飽きたヒトミにジョニーがしごかれてヘロヘロになっても終わらず、後日改めて決め直すということになったのだが、それでもまだ決まらずに、結局業を煮やしたヒトミの鶴の一声によって針生、玄人、艮の順番となるのだった。


あれ?門ができてないぞ……?

あれ?



次回更新は1月31日のお昼12時です。

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