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魔王様のご近所征服大作戦  作者: 京 高
第九章 魔王様のお仕事は世界の管理?
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第六十六話 テンプレートに流される者、弥勒

「う……、ここは……?」

「ん?目が覚めたか?」


 あの後、ジョニーに敗れた男をそのまま地面に寝かせておく訳にもいかず、弥勒たちは拝殿の裏手に引き上げてきていた。その際、担がずにズルズルと引きずっていたので小さなすり傷やこぶができていたのは秘密である。

 ところで拝殿の裏で弥勒たちが何をやっていたかというと、焼き芋を作って食べていた。認識障害の魔法によってどこの誰かまでは分からないが、近所の子どもという立ち位置を確保しているヒトミは、散歩に出るとこうして何かしら御裾分けをしてもらっていた。完全に確信犯である。

 弥勒にヒトミにフミカ、雀であるジョニーと三匹のウリボウたちが焚き火を囲んで芋を食べている様はなかなかにシュールなものだった。


「気絶する前のことは覚えているか?」

「……俺は、負けたのか」

「そうだ。……ところでいくつか聞きたいことがあるのだが?」

「俺が答えられることなら」

「あ、ちゃんと答えてくれるんだ」


 意外に思ったヒトミが声をあげる。


「敗者は勝者に従うのが当然のことだからな」

「あー、そういうこと」


 それ以上突っ込むとなんだか面倒臭そうなのでとりあえず流すことにしたようだ。そして正確にはジョニーが勝者ということになるのだが、――ジョニー本人は焼き芋に夢中になっていたので――そのことに触れようとする者はいなかった。


「それではまずは……そうだな、どこから来たのだ?」

「ホクカイドだ。二週間ほど前になるか、修行している時にとてつもない力を感じ始めたので、気になってやって来た」


 特異点の性質である規格外を呼び寄せる力に反応したのだろう。それにしてもホクカイドからとなると弥勒はニポン全域に、場合によっては近隣の国にまでその力を垂れ流していたということになる。


「数日前に弱まってしまったが、方角と距離から大体の当たりは付けていたから修行も兼ねてそのままやって来たのだ」


 聞けばこの男、二週間かけてここまで走ってきた――海は泳いで渡った――らしい。大体でも弥勒のいる場所の見当を付けられるほどの頭はあるようだが、基本は熱血修行バカだった。


「しかしそれでもよくここが、いや、よく俺の居場所が分かったな?」

「うむ。胡散臭い格好だったが、あんたの居所を教えてくれた人がいたのだ。占い師のようなゆったりとした服装で頭巾を深めに被っていた」


 それはもう胡散臭いではなく、怪しいと言い切れるのではないだろうか。


「よくもまあそんな人の言葉を信じたものね……」


 呆れたように言うヒトミの隣でフミカも頷いていた。


「騙されるということは俺に隙があったというだけのことだ。それに今回はちゃんとたどり着いている。とは言え、負けてしまっては元も子もないが」

「その心構えについてはどうこう言うつもりはない。ところで、その占い師のような奴は俺について何か言っていたか?」

「強大な力で、世界を我が物にしようとしていると言っていた。あれは演技などではなく、心の底から恐れている眼だった。だからこそ俺もそいつの言葉を信じてみようと思ったのだ」


 できれば信じないでもらいたかったが、今更それを言っても仕方がない。そしてもしかするとその占い師風の男は謎の魔法使いだったのかもしれない。

 いや、正の一件では邪魔をされているので弥勒のことを恐れているというよりは敵愾心を抱いているはずだ。

 そうなると、やはり別の人物が黒幕の管理者によって操られていたと考える方が適当だろう。


「それで、今でも俺が世界を我が物にしようとしていると思っているのか?」

「その点に関しては、俺は騙されていたようだ。あんたは世界征服なんて考えてもいないし、そちらのお嬢さん方や動物たちを人質にとったりもしていない。迷惑をかけた。この通り謝罪する」


 男はそう言って深く頭を下げた。


「分かってもらえたのであればそれでいい。謝罪を受け入れよう」


 この調子であれば、漫画のように「今回は負けたが、次こそは俺が勝つ!」と言って勝手にライバル認定をして再選にやって来るという展開からは逃れられそうだ。


「それで君はこれからどうするの?」

「もちろん故郷に帰って修行をやり直す。あの時俺は雀が相手だと思って油断していた。そんな心の弱さから克服していかなくてはいけない」


 何だか雲行きが怪しくなってきた気がする。

 狙ったものではないにしても結果として雨乞いをしてしまったヒトミにジト目を向けると、素知らぬ顔で焼き芋にかぶりついていた。

 素直に謝るのならば許しても良かったのだが、そういう態度に出るのならば説教確定である。


『ふっ、何回やってもオレの勝ちは揺るがないっすよ!』


 お気楽雀に至っては既に再戦を受ける気でいる。フミカは御愁傷様ですと言わんばかりに顔を伏せているが、あれはただ関わり合いになりたくないだけだろう。その周りをウリボウが走り回っていた。

 どうにかこの流れを回避する方法はないものかと頭を悩ませていると、男が突然がばっと土下座してきた。


「こんなことを言える立場ではないというのは分かっているが、恥を忍んで頼む。今度は一格闘家として戦ってはもらえないだろうか!」


 遅かった。こうなってしまってはもはや止めることはできない。


「ジョニーに、あの雀に勝てる様になったならば、相手をしてやってもいい」


 結局、弥勒の口から出たのはそんなツンデレチックな台詞であった。


「あ、ありがたい!」

「それと今度は連絡を入れてから来てくれ。こちらも色々とやることがあるからな」


 連絡が入った途端どこかに逃げようとか思っているのは秘密である。そんな弥勒の内心を知らない男は勢い込んで「もちろんだ!」と答えていた。


「後は――」

「ホクカイド土産を期待しているわ」


 他にも釘を刺しておいた方がいいことはないかと考えていると、偽装少女が便乗してとんでもないことを言いだした。


「お前は、反省という言葉を知らないのか」

「だってホクカイドよ!美味しい物の宝庫よ!」


 先ほどの失言も、実はこのための布石だったのではないかと思えてきた。折檻、は絵面えづらが悪いのでいつもより五割増しの説教をすることを心に誓う弥勒だった。


「分かった。次に来る時には何か土産を持ってくることにしよう」


 男の言葉に弥勒以外の者たちが歓声を上げた。しかし数カ月後、神社の林の一角に巨大な木彫りのクマが置かれることになることを、彼らはまだ知らない。そして


「美味しい物って言ったのに!」


 というヒトミの悲鳴が響き渡ることになるということは、誰にも分からないのであった。


木彫りの熊さんは今は亡き名工の手によるもので、某鑑定番組に出した結果、高額が付いて新しい観光名物となる……という裏設定も考えていたりしますが、本編で語られることはないでしょう(笑)。



次回更新は1月26日のお昼12時です。

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