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魔王様のご近所征服大作戦  作者: 京 高
第七章 魔王様 イン ザ フェステボー
50/90

第四十九話 宵祭り、出店と少女

ついに連載五十回目です。

読んでくれている方に感謝感激雨あられ!

 土曜日の午後五時、十七時でもいい。十月初旬のこの時期だとニポンの中でも比較的西側にある瑞子町ではまだまだ明るい時間帯である。そんな夕方に、弥勒たち菜豊荘の面々は出かける準備をしていた。


『それでは行くか』

『了解っすー』


 いつも通りジョニーを肩に乗せて外に出ると、大と正が待っていた。


「遅くなってしまったか?」

「僕らが早いだけですから問題ないですよ」

「それに、うちの嫁や娘も含めて女性陣がまだですから」


 女性の準備に時間が掛るのは元の世界でもこちらの世界でも同じのようだ。もしかすると他の世界でも同じかもしれない。今度針生にでも聞いてみることにしよう、などと時間潰しに考える弥勒だった。

 そして、大はさりげなく智由も女性陣に含めていたが、まだまだ赤ん坊枠でもいいのではないだろうか?

 損にも得にもならないような無駄話をしていると、示し合わせたかのようなタイミングで女性陣が各々の部屋から出てきた。


「お待たせしました」


 その分、普段とは違って着飾っているので、待った甲斐があったというものだ。

 浴衣か!?と思った人は残念でした。洋服である。さすがに十月ともなると夜は冷え込んでくる日もあるので、浴衣では厳しい。夏祭りとは違うのだよ、夏祭りとは。

 それにしても猫耳のフードを被せられた智由の姿も着飾ったというのであろうか?確かに可愛くはあるのだが、何かが違うような気がする。本人もそう思っているのか、微妙な表情をしていた。四谷夫妻のセンス、謎である。


「それでは全員揃った所で行くとするか」


 先行している将たち三人と義則を除くメンバーが集まった所で弥勒が出発の声を掛ける。今日はこれから宵祭り見物に行くのだ。神域である神社に入ることができるか分からないし、大勢の人の中には見えるものもいる可能性があるので、義則はお留守番となった。


「この後は〈ベーカリー・トオマル〉で橙子と合流するのだったアルな」

「うむ。皆には悪いが一緒に行ってくれ」


 バーベキューに誘わなかったことで、橙子から次のイベントには必ず誘うように言いつけられていた――彼氏である充は言うに及ばず、将に孝、店の常連となっていた弥勒も――からである。

 そういう訳で〈ベーカリー・トオマル〉で橙子を加えた一行はのんびりと神社を目指していた。


「橙香ちゃん、お父さんは地区の集会場?」

「はい。裏方の手伝いに行っています。でもお祭りが始まる時間には神社にいるって言っていましたから、会えるかもしれないですね」

「最初の獅子舞を見たら、戻ってまた店を開けるんでしょう?」

「そうなんですよ!お祭りの日だから休めばいいのに、帰りに買っていく人がいるはずだからって、聞かないんですよね……」


 そして実際店主の予想は大当たりしていて、毎年大盛況となっているために橙香も強くは言えないのだった。しかしどんなに忙しくても橙子に店番をやらせることはないので、この臨時開店は半ば店主の趣味なのかもしれない。


「いっそのこと出店を出せばどうアルか?トオマルのパンなら間違いなく売れると思うアル」

「そこは出店組合との兼ね合いがあるから難しいみたい。あーあ、もっとたくさんの出店を出してくれればこんなこと気にする必要もなかったのに」


 どんな所にでもしがらみや権益というものはあるようで、上手く立ち回らなければ障害となってしまう。そして神社に辿り着いた一行が見たものは、


「たった三軒、ですか……」


 たこ焼き屋にソフトクリーム、フライドポテトと書かれた屋台だった。薄暗くなりつつある境内で、カラフルな色合いがかえって侘しさを醸し出していた。そしてもう直ぐ祭りが始まるということで、それなりの人が集まって来ているのだが、出店に向かう人は少数だった。


「ああ、これは選択が悪いですね。定番と言えば定番なんですが、昔と違って今ならコンビニに行けばいつでも買えるものばかりですよ。お祭りだからってわざわざ高いお金を払ってまで買う人は少ないということですね」


 言われて思い返してみると、確かにコンビニで見たことがあるものばかりだった。


「結局のところ、流行らないのは時代遅れになっているというのが一番の原因という訳か」

「そうですね。お祭り自体が時代遅れの古臭いものになっているからでしょうね」

「そう、なのか?」

「まあ、その話はまた後にしましょうか。せっかく来たんですから今はお祭りを楽しみましょう」


 確かに祭りを楽しめるような会話ではなかったが、そう簡単に切り替えられるものではないだろう、と苦笑しながらも境内へと足を進める。

 キン、と鳥居をくぐった瞬間に甲高い音が聞こえた気がした。何事かと周囲を見回すと人だけがいなくなっていた。ジョニーは肩に乗ったままだったが、驚きであんぐりと口を大きく開けていた。目と口を大きく開ける真ん丸雀、シュールというよりはお間抜けなだった。


「安心して。ここは隠世に似せて作った空間、針生の隠れ里みたいなものよ」


 聞き覚えのある声に一つ息を吐いて正面の社を見ると、そこには一人の少女が立っていた。


「突然人をこんな世界に呼び込むとはなかなかいい趣味をしているではないか、ヒトミよ。それと、先ほどの俺たちの会話も誘導していたな?」

「興味深い話をしていたからつい、ね。詳しく聞きたいのなら今からでも教えてあげるけど?」

「また今度でいい。それで、一体何の用だ?」

「そう、それよ!大事なお願いがあるのよ!」


 勢い込んで言うヒトミに弥勒は若干引き気味になる。きっと碌でもないことだと思いながらも、それを口にすることだけは我慢する。


「フライドポテトを買ってちょうだい!代金は……じゃない、代わりに後からお礼はするから!」

「はあ?そんなものコンビニに行けばいつでも買えるだろう?」

「分かっていないわねえ。お祭りで買うからいいのよ。例え高かろうが、油がまわり過ぎて不味かろうが、お祭りだからアリなのよ!それに何より、あの店がうちに来るのは初めてなのよ!そりゃあ食べるわよね!食べるでしょう!」


 鼻息荒く力説する少女姿の管理者に、弥勒は今度こそ完全に引いていた。同時にフライドポテトを買わされるのは確定事項であり、ヒトミの分を見て駄々をこねるジョニーの分も買う必要があるのだろうと小さく溜め息を吐くのであった。


リアルでも本当に出店が減りました。

お面に型抜き、焼き鳥にハンバーグ、甘栗にくじびき、他にもいろいろ……。

寂しくなったものです。



次回更新は12月29日のお昼12時です。

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