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魔王様のご近所征服大作戦  作者: 京 高
第七章 魔王様 イン ザ フェステボー
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第四十八話 ライオンダンス

 何事かと寄ってくる子どもたちを捌きながら、克也に獅子頭の耳や目、口などを動かしてもらう。そうこうしている間に他の大人たちもやって来たようで、いつの間にか獅子舞の準備が終わっていた。


「それじゃあやるぞ」


 と、開始の合図を出したのは太鼓の前に陣取った佐原である。始めて菜豊荘で使うということ以上に、自分の家のすぐ裏だということもあって張り切っているらしい。

 頭を持っていた克也が半強制的に獅子を使うことになり、別の一人が後ろに入る。もう一頭二回りほど小さな獅子もやって来て子どもたちが二人中に入った。


 そして親子の獅子の舞が始まる。


 二つの太鼓と二つの鐘、たった二種類四つの楽器から溢れ出る音は聞く者の心を掴み、場を支配していく。そしてその曲に導かれるように獅子たちが舞う。

 それは時に激しく、時に緩やかに。勇ましく、またコミカルに。架空の生き物はその一曲の中で与えられた生を燃やしつくすかのように舞い踊る。

 やがて、十数分という長いようで短い時間が終わりを告げる。


「ありがとうございました」


 誰が発したのかその言葉に釣られるようにして拍手が起こる。九月末といっても昼間は未だ残暑の厳しい季節である。獅子の中に入っていた者たちは汗だくで荒い息を吐いていた。


「どうだったかい?」

「太鼓も鐘も、腹に響くいい演奏だった。もちろん獅子の舞も良かったぞ」

「はっはっは。気に入ってもらえたみたいで何よりだよ」


 太鼓を叩いていた佐原と話していると突然歓声が上がる。何事かと思い周りを見回すと、祥子がイロハと一緒に子どもたちにお菓子を配っていた。

 そして一方で大に預けられた智由が獅子に頭を噛まれている。


「あれは何をやっているんだ?」

「ああ、獅子に頭を噛んでもらうと縁起がいいんだよ。取り付いた邪気を払って無病息災でいられるとか頭が良くなるとか言われているな」

「そうなのか」


 のんびり見ていられたのもそこまでで、ふいに何やらおかしな気分になった。よく見てみると、笑い合っている大人たちとは裏腹に智由がものすごく不機嫌そうな顔をしている。


「まさか!?」


 と思ったと同時に魔力の動きを感じる。毎日魔力感知訓練を続けているお陰か、菜豊荘の住人が皆その異変に気付いていた。


「一体どうしたの!?」


 母親である祥子が不穏な気配を察して智由を抱きかかえるものの、魔力の動きは止まらない。どうやら無意識に魔法を使おうとしているようだ。このままでは魔力が暴発してしまうかもしれない。弥勒は急いで駆け寄ると、


「大丈夫、縁起物の一種だ。別にお前をいじめようという訳ではないから力を抜け」


 語りかけながら智由が集めていた魔力を自分の身体を通して拡散させていく。


「もう大丈夫だ。皆、驚かせてすまない、少し赤ん坊が泣きそうになっていただけだ」


 祥子に安心するように伝えた後で、周りにはそう言って回る。多少不思議そうな顔をしていたが、イロハが御花代を渡して上手い具合に誤魔化していた。後で思い出したとしても、決定的な何かが起きた訳でもないので大丈夫だろう。

 こうして一組目の獅子舞鑑賞は多少の騒動が――予想外の所で――起こりつつも、弥勒としては満足のいくものであり、残る地区の舞もさらに楽しみになったのだった。



 木曜日の夜、最後の地区の獅子舞が終わり二〇二号室へと向かう。この日は珍しく住人全員が揃っていたので、かなり手狭な感じになっている。


「結局、智由ちゃんは最初の一回しか頭を噛ませなかったですね」

「本人が嫌がっているのに、やらせるようなものでもないから仕方がないだろうな。それに一回は噛まれているのだから縁起を担ぐには十分だろう」


 無理矢理やって、魔法が暴発するようなことがあっては元も子もない。


「親としては今回のことで獅子を嫌いになっていないかどうかが心配です」

「それは大丈夫だと思うアルよ。今日も獅子舞の最中は楽しそうにしていたようアルし、子ども用の小さい獅子にも触ろうとしていたアル」

「怖がってはいませんでしたよね」


 確かに智由の行動を見ていると、リィたちのいうように獅子は恐怖の対象ではなく、興味をそそられるものであったように思える。少なくともトラウマになっている様子はないので、それほど心配する必要はないのではなかろうか、と弥勒は考えていた。


「それにしても本当にそれぞれの地区ごとに少しずつ動きや曲が違っているんですね」


 全地区の舞を見た弥勒を除くと、今回一番多くの獅子舞を見たのは正だ。その故郷では大々的に祭りが行われていなかったらしく、瑞子町の獅子舞などは珍しくも面白く見えた様である。


「祭りのことを地区単位でやっていると、結構そういう部分は出てくるみたいだな。他の地区への対抗意識があってさ、俺たちだって自分の地区の獅子舞が一番カッコイイと思ってるぜ」


 充の言葉に将と孝がウンウンと頷いていた。普段仲が良い三人であってもその点は同じのようだ。かえってそうした譲れない所があることこそ、長年つるんでいられる理由なのかもしれない。


「まあ、あれだけ違っていれば自分の所が一番だと考えてもおかしくはないだろう」


 例えば、A、B、Cの三つの地区の獅子舞があったとして、AとB、BとCはそれぞれ似ていたとしてもAとCが似ているとは限らない。それほど地区ごとのアレンジが進んでいるのである。そうなると、練習している自分たちの地区のものが一番良いと思っても何ら不思議ではないという訳だ。


「私は子どもが予想以上に多くてびっくりしたアル」


 どこの地区も大体五人前後の子どもが付いて来ていて、そのうち数人は獅子に入ったり、鐘を叩いたりしていた。


「次世代への継承が進んでいるって言えば聞こえはいいんだけど、それだけ大人の数が足りていないっていうのが本当の所だよ」

「つまり、使える大人がいないから子どもが駆り出されているということか?」

「別に強制されているっていうことではないので、そこまで酷くはないですけれど、その傾向は確かにあります」


 少子高齢化による若者不足、人材不足問題はこんなところにまで波及しているのであった。


「弥勒さん、前にお祭りに参加できるのは男性だけだったっていう話をしたのを覚えていますか?」


 イロハの問いに首を縦に振って答える。


「それなのに女の子が結構混ざっていたことに気が付きませんでしたか?」

「!……子どもの数自体も少なくなっているということか」

「男女平等という時代の変化によるところもありますけれどね。でも女の子も動員しなくて回らないというのもまた事実なんです」


 祭りがこの先どのような変化をしていくのか?今の時代の者たちは重要な選択を迫られているのかもしれない。と、壮大なことを考える弥勒であった。


舞のシーンについては過剰な演出がされています。

ネットの映像とかを見て「大したことないじゃん」とか言われても責任は持てませんのでご了承ください。

ただ、生で見て聞くと迫力があると僕は思っています。



次回更新は12月27日のお昼12時です。

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