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魔王様のご近所征服大作戦  作者: 京 高
第七章 魔王様 イン ザ フェステボー
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第四十七話 らいおんだんす

第七章スタート。今度こそお祭りの話です。

 祭りの日まで残り一週間となった九月最後の日曜日、弥勒にイロハ、四谷一家そして正は菜豊荘の前に集まっていた。昨日からそれぞれ地区内の家々を回っているそうで、獅子舞の景気のいい鐘の音が至るところから聞こえてくる。


「うーん、もうそろそろやって来るはずなんですけれどね……」


 イロハがきょろきょろとあたりを見渡してみるも、それらしき影は見えない。


「今まで菜豊荘では獅子を使ってもらっていなかったからなあ……。いくら御花代が出るとはいっても調整が上手くいっていないのかもしれない」


 と、大が言う。菜豊荘自体は克也や佐原と同じ地区にあるのだが、住人が全て外部の者なので、獅子が回って来ていなかったのである。

 これは別に余所者扱いされていた訳ではなく、瑞子町では各神社が一斉に祭りを行うためにスケジュールが重なってしまい、菜豊荘の住人の多くが実家の方に呼び戻されていなくなっていたからであった。

 現に将、孝、充の三人も実家のある地区の獅子舞や祭りの準備に駆り出されている。ちなみにリィはアルバイトで不在だった。


 さて、そんな今まで来ていなかった獅子舞が今年はやって来るのには理由があった。


 理由その一。針生の喫茶店にて克也が、


「え?ロクちゃん獅子舞見たことないの?それじゃあ今度の日曜日に地区内を回る時に、菜豊荘でもやろうか?御花代おはなだいが出るなら文句を言う奴もいないだろうし、将に相談してみるか」


 理由その二。話を聞いた将が、


「そういうことなら、オーナーである僕がいる地区の獅子も使いにきた方がいいな」


 理由その三。どこからともなくその話を聞きつけてきた孝と充が、


「「住んでいる俺(僕)が何もしないなんて不義理なことはできないよな」」


 理由その四。更にその話を聞きつけた他の地区の者たちが、


「「「「御花代が出るって!?うちも使いに行くから待ってな!!」」」」


 という訳で、結局ヒトミのいる神社の管轄である全ての地区の獅子がやって来る事になったのである。一応そのことをヒトミに話したら、「どうしてあなたはそういう訳の分からないイベントを起こすのよ」と呆れられてしまった。

 そんな経緯から菜豊荘で初めて獅子舞が披露されることになったのだが、そこで次の問題が浮上してきた。順番に使うのか、それとも一斉に使うのか、である。


 実はこの獅子舞、基本の曲調や舞の順序といったものはあるのだが、長い年月をかけて地区ごとにアレンジが施されており、細部は随分と異なっているのである。

 それどころか、なまじ似通った部分が残っているので、同時に行うと他の地区に釣られて混乱しやすいのだ。

 もちろんそんな状態でもきっちり使いこなすのが、使い手たちの矜持ではあるのだが、見る側はそうもいかない。微妙に違ったリズムやテンポに翻弄されてしまう――そのことを楽しむという見方もあるのだが、超初心者である弥勒には厳しい――のである。


 そうした事情があるので、地区ごとに順番に舞ってもらった方が良いのだが、そうすると今度は時間がかかり過ぎてしまう。

 一曲大体十分から十五分程度――伸ばそうと思えばいくらでも伸ばせる――で、参加を表明した地区が十。つまり舞の時間だけで二時間半程度かかることになる。

 さらに準備や片付けなどの時間も入れると、ゆうに三時間を超えることになり、見る側の菜豊荘住人の負担も大きくなる。

 壮絶な話し合いの末、一日に二地区ずつが舞うことになった。


 初日の日曜日以外は夜間となるので、使い手たちの負担が大きくなるのではないかと心配した弥勒たちだったが、「昔はどの地区でも夜に回ることをやっていたし、また復活させる時の練習にもなるから気にする必要はない」と将や克也たちに言われて引き下がることにした。

 それと不公平になってはいけないので、あくまでも向こうの厚意ということで御花代は据え置いたままにしている。


 そして厳正な抽選の結果、今日やってくるのは克也たち地元の地区と、将の実家のある地区の二組に決まったのだが、待てど暮らせど、どちらの地区もやって来ない。


「何かトラブルでもあったのか?」

「それならそうと連絡が来るはずですし……。多分地区の人たちとの話が盛り上がっているだけだとは思うんですよね」

「それはあり得るな。どの地区も高齢化が進んで、お祭りにいけないお年寄りも増えてきたって聞くから」


 ニポン全体で進む高齢化の波は瑞子町でも変わらない、どころか下手をすればその最先端になりかねない状況である。


「地区の人同士の重要な交流の機会になっているということですか」

「特に最近は子どもや女の子が獅子を使うことも多くなったから、余計に話がはずんでいるみたいですよ」


 子どもは地域の宝、といった所だろうか。そんな話をしているとジョニーから念話が届いた。


『旦那―、獅子を積んだトラックを発見したっすよー』


 待つのに飽きて上空からの散策に出ていたのである。


『それで、こちらに向かっているのか?』

『今の所はそうっすね。でも、まだ他に寄る所があるのかもしれないっす』


 本当に見つけただけだったようだ。使えるのか使えないのかいまいちよく分からないジョニークオリティは今日も健在のようだ。


『皆から話を聞いたところによると、今日はそうしたトラックが至るところを走り回っているそうだが、よく菜豊荘に来る地区のものだと分かったな』


 それぞれの地区内を回るのがメインではあるが、中には知人の店や会社に向かうこともある。現に将たちも色々と回る予定だと言っていた。


『あれ?そうだったっすか?』


 だが、ジョニーはそのことを忘れていたようだ。ハチベエ並みのうっかりだ。もしかするとハチベエそのものかもしれない。すっかりハチベエである。


「あ!来たみたいです」


 プップー、と軽くクラクションを鳴らしながらどこかで見た軽トラがやってくる。目を凝らすと運転席には克也が乗っている。

 見覚えがあるはずだ、こちらの世界に来たばかりの弥勒を役場まで乗せて行ってくれた克也の軽トラだった。


『明日の魔法の訓練は覚悟しておくように』


 と言って念話を切る。切れる直前にジョニーの悲鳴のようなものが聞こえた気がしたのだが、きっと気のせいだろう。


「遅くなって申し訳ない」

「先生、おっちゃんこんにちはー」

「来たよー」


 遅れた詫びを入れる克也の声を遮るように荷台に乗っていた子どもたちが挨拶をしてくる。

 見ると、子どもたちの隙間に獅子などが置かれている。いや、逆だ。獅子や太鼓や鐘といった楽器などの荷物を置いた隙間に子どもたちが乗り込んでいるのである。

 中には器用に体を曲げて乗っている子もいる。思わず正が「ヨガか!?」と突っ込んでしまっていた。


「ロクちゃん、これが獅子頭だ」


 初見である弥勒の元に克也が獅子を抱えて持ってくる。


「ほほう。これは精悍だが……、どことなく可愛らしくもあるな」

「そうか?まあ、そうかな」


 目が血走っていたり大きな牙があったりするのだが、それ以上に凶悪な魔物に慣れていた弥勒にとっては可愛げのあるものにしか見えない。

 そして獅子頭を見慣れていた克也は、そんなものかなと思っていたのだった。


獅子舞等に関しては、作者の個人的な見解や解釈が多分に入っていますので、ご注意ください。



次回更新は12月26日のお昼12時です。

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