第四十一話 世界の理、管理者の思惑 前編
前回の前書きの意味が分からなかったという方(僕のことですがなにか?)、投稿日の12月12日お昼12時という意味です。
全くもって下らないです。
でわ本編をどぞ。
「ところで、管理者とは何なのだ?」
少女の名前も決まったところで話を続けることにした。
「呆れた。そんなことも知らないでカミと同じだって言っていたの?」
「同じとは言っていない。大して変わらんと言っただけだ」
「それこそ変わらないわよ!」
ヒトミが怒鳴ると同時に威圧も増していく。しかし、それは先程までとは違って十分に受け流せるものだった。彼女に名前を付けたことで何らかの繋がりができたためか、それとも単純にヒトミが力を加減しているだけなのかは分からないが、楽になったのは確かなので今はそれで良しとしておくことにした。
「まあ、そう怒るな。ほら、これでも食べて機嫌を直せ」
そう言って差し出したのは懐柔、もとい賄賂、でもなくてプレゼントに使えるかもしれないと保険として残しておいた――食べかけの――あんパンであった。
「半分、というか食べかけじゃない」
じと目で見上げてくるヒトミ。そして地味に威圧感が増していた。
「自分用に買ったものだから食べていて当然だ。それに余り多くを恵んでもらっては立場がなくなるだろう?」
「う!痛いところを突いてくるわね……」
「いらないなら俺が食べるが?」
『それならオレが貰うっす!』
『お前は寝ていろ!』
『あべし!』
突然起き上がってきたジョニーにデコピンを食らわせて静かにさせる。魔法を使えるようになったことで弥勒との結びつきが強くなり、更には身体能力まで向上しているので特に問題はない。今のジョニーは数センチ程度の厚みの木の板も貫通できる頑丈さを持っているのだ。
「コホン。それで、いるのか?それともいらないのか?」
「いやいやいや!誤魔化しきれていないから!」
「いらない――」
「いる」
いつの間にか弥勒が手にしていたはずのあんパンはヒトミの手に渡っていた。
「何なのよその子は……。もしかしてあなたが向こうの世界から連れて来たんじゃないでしょうね?」
あんパンをもぐもぐ食べながら「びっくりしちゃったじゃない」とブチブチと文句を言っている。偉者のはずなのにどうにも行儀が悪い。もしかすると、外見通りの精神年齢なのかもしれない。
「事こいつに関しては人のせいにしたくなる気持ちも分かるが、こちらの世界の生まれ育ちに間違いないぞ」
「やっぱりそうよね……。もう!誰よこんなイレギュラーでとんでもな生命体を放っておいたのは!」
ムキーッと地団駄を踏むヒトミ。既に少女というよりも幼女のような動きになっている。アンチエイジング機能でもついているのだろうか?不明である。この場合はただ幼児退行しているだけなのかもしれない。
そしてこっそりとかつしっかりとジョニーがとんでも認定されていた。魔法については触れなかったので元々規格外であったようだ。真ん丸雀は伊達ではなかったのである。
「今の台詞から察するに、管理者というのはこいつのような規格外を保護、もしくは排除するのが役割と考えていいのか?」
「ええ。それも仕事の一つよ。メインの仕事はあなたが魔力と呼んでいるものを、この現世と、私たちの普段住んでいる隠世との間で適切に循環させることになるわ。それで私はこの辺りの担当という訳。そうそう、あなた達が魔法で多少消費した所で影響はないから安心していいわよ」
さらりと世界の秘密をばらされて、弥勒は驚き戸惑ってしまう。
「つまりは魔力がなくなると世界は存在していられなくなるということか?」
「概ねその認識で間違っていないわ。ちなみに現世と隠世は〈鏡映しの世界〉だとか、〈少しだけズレて重なった世界〉とか表現されるのだけれど聞いたことがないかしら?」
「な!?まさかそれは……」
心当たりがあった弥勒は今度こそ言葉を失ってしまう。それは彼がいた元の世界において、神のいる神域を指す隠語だったからである。
「気付いたみたいね。この世界やあなたのいた世界だけでなく、魔力のある世界というのは、大抵この形式を取っているそうよ。とは言っても私たちもあくまで伝え聞いた話だけどね」
「そうなると、勇者を扇動して魔族領を滅ぼさせたのは、あの世界における管理者たちだったということか?」
「そこまでは分からないわ。もしかするとそちらの世界では神がいたのかもしれない。何にせよ、あなたのやろうとしていたことが神、もしくは管理者にとって都合が悪い事だったのは確かよ。例えば将来的に魔力を枯渇させてしまうことになる発明の端緒が見えた、とかね」
ヒトミに言われて思い返してみるが、それらしきものかどうかは分からなかった。
「考えて分かるものでもないわよ。それ以前にあなたが規格外だったから排除されたという可能性もあることだし」
「しかしいくら規格外だったからといって、魔族領全てを破壊するというのはやり過ぎなのではないか?」
弥勒の疑問にヒトミは腕を組んで考え込む。その姿は疑問について考えているというよりも、知っていることを伝えるべきかどうか悩んでいるように見えた。
「自分では気付きようがないから仕方がないのかもしれないのだけれど、弥勒、あなた規格外というだけでなく、特異点としての性質も持っているわよ」
「特異点?何だそれは?」
「簡単に言うと、その世界に囚われないということ。思考や発想が柔軟で豊か。常識が通じないとも言えるかしら。それは時に世界の壁を簡単に打ち破ることがある危ういもの。そして何より危険視されるのが、規格外を呼び寄せ、常識外れの思考を拡散してしまうということ。
要するに滅ぼされた魔族領には、あなたに感化された規格外が多数存在していた、ということかしらね。どうせ潰すなら徹底的に、とでも考えたんでしょう」
魔族として生を受けて数百年、弥勒はこれほど衝撃を受けたことはなかった。だが、それも当然のことだ。ただ目の前の問題に精一杯立ち向かっていただけのはずなのに、世界を滅ぼす危険因子とみなされていたのだから。
奇しくも敵対していた人間たちが言い伝える破滅の使者としての魔王を体現していたというのだから。
体も心も酷く不安定になっていた。立っているのか座っているのかさえ分からなくなってくる。自身を形作っていたものがボロボロと崩れ落ちていくのを感じる。
「しっかりしなさい、鈴木弥勒!確かにあなたは特異点だわ。でも、やってきたことは決して間違ってなんかいない。しっかりと思い出してみなさい、あなたが成してきたことを、そしてそこにあった人たちの顔を!」
ヒトミの言葉に崩れていった欠片たちが再び一つに集まっていく。そこにあったのは笑顔だった。子ども、大人、男に女。その中には魔族ではない人間たちの笑顔もあった。
そうだ!俺は笑顔を生みだしてきた。苦しむだけの人たちに喜びを与えてきた。誰にも文句は言わせない。これが俺の成してきたことだ!
「そう、それでいいの。神でも勇者でもなく、魔王がまいた希望の種は今もどこかで育ち続けている。そのことを忘れないで」
優しく微笑むヒトミの顔は、まさにカミと呼ぶに相応しい慈愛に満ちたものだった。
話が大事になってきちゃいました……。
それでも、ジョニーだけは平常運転です。
次回更新は12月15日のお昼12時です。




