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魔王様のご近所征服大作戦  作者: 京 高
第二章 菜豊荘だよ魔王様
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第十四話 一〇一号室住人、四谷一家

「うちの子が迷惑をかけたようで申し訳ありません」

「いやいや、赤ん坊は泣くのが仕事だ。畏まる必要はない」


 その日の夜、弥勒はイロハと共に四谷一家の夕食にお呼ばれしていた。

 あの後三人でどうあやしても赤ん坊、智由ちゆちゃんは泣き止まなかった。ところが最終手段として弥勒が抱きかかえてみたところピタッと泣き止み、その上笑い始めたのである。ホッと一安心、母親である祥子に渡そうとするとまた泣き出してしまい、結局、塾の時間が迫っていたこともあり弥勒が面倒をみることになった。


『元魔王に抱きかかえられて笑っているって……。この子とんでもない大物なんじゃないっすか?』


 とは、イロハも一緒に部屋の中に入ったのを見計らって帰って来たジョニーの談である。

 そしてそのお礼に一緒に夕食でも、ということになり冒頭の家長であるまさるの台詞へと繋がっていったという訳だ。ちなみに大は小学校の教師をしている。


「それに格安で勉強を見てもらえることにもなったし、こういうものを良縁と言うのだろう」


 そう、しばらくして智由が眠りについた後、弥勒は菜豊塾にお邪魔して見学させてもらっていた。そして自分にも国語や算数といった基本的な勉強を教えて欲しいと頼み込んだのである。


「あれには本当に驚きました」


 テーブルに料理を運びながら祥子が言うと、


「でも私たちよりも、子どもたち三人の方が驚いていましたよね」


 同じく料理を運ぶイロハが続けた。


「ニポンの教育水準高さは驚異的だが、その中にどっぷり浸かっていると、そのことには気が付かなくなるものだ。あの子たちには字が書けない大人がいるなんて考えたこともなかったのだろう」

「その通りですね。でもそれ以上に私が感銘を受けたのは弥勒さんの行動です」

「俺の?」


 大の言葉の意図が掴めずに聞き返す。


「はい。今のニポンでは他人の目を気にする人が大多数です。まあそのこと自体は悪いことではないのですが、それがもはや病的といえる程になっています。

 その結果他人を気にし過ぎて何も行動を起こせない、他人と違う行動をすることが恥ずかしいという人が増加しているのです」

「ふむ。そういった気持が分からんではないが、それでは可能性を潰してしまうばかりだな。特に学ぶという行為は世界を劇的に広げてくれる。そのチャンスを自らふいにするなど愚かしいことだとしか思えない」

「弥勒さん、今の言葉を学校で子どもたちに話しても構わないでしょうか?」

「別に構わないが……。学校に通っているのだからそういうことも理解しているだろう?」

「それがそうとも言えません。建前はどうあれ子どもたちにとって学校に通うのは半強制みたいなものですから、やはり閉塞感を覚えてしまうのでしょうね」

「色々と反発してしまう、ということか」


 弥勒の出した答えに大は首肯して返す。


「加えて、私が受け持っている小学生の高学年というと、思春期に入り周囲の目を気にし始める年頃なのです。過剰に意識し過ぎて自ら潰れてしまうことがないように、できるだけ予防線を張っておきたいのです」

「そういうことなら否もない。好きにアレンジして上手く使ってくれ」


 流石に教師だった経験はないが、魔王業をしている時には数多くの部下や後進の指導を行っていたので、人材育成の難しさはよく分かっている。そのこともあってか、弥勒は大の熱意に好印象を抱いていた。

 更に精神論や心の持ちようではあっても、圧倒的な技術力を持つニポンの者たちに影響を与えられるということに、若干の優越感を感じていた。


「難しい話はそのくらいにして、どうぞ召し上がって下さい」


 祥子に促されて全員で「いただきます」と言ってから料理――本日の献立は、白ご飯にわかめのお味噌汁、胡麻ドレッシングをかけた野菜たっぷりの冷しゃぶ――に手をのばす。


「これは美味いな」

「お口に合ったようでなによりです」


 それからしばらくの間は一同黙々と食べ続けた。別に暗い空気になった訳ではないのだが、客である弥勒が一心不乱に食べ始めたために誰も声を上げることができなかったのである。


「はっ!すまない、余りにも美味くてつい集中してしまった」

「そこまで気に入ってもらえたなら、作った甲斐があるというものですね」


 口元に手を当てて祥子が優雅に笑う。弥勒の反応に疑問を持ったイロハが尋ねる。


「弥勒さん、普段はどんな物を食べているんですか?」

「うん?昼はトオマルで買ってきたパン、夜はコンビニだったか、そこで買ってきた弁当が多いな」


 そのため今も問題ない程度には箸が使えているし、ご飯もおいしく食べている。


「それは雀さんも同じですか?」

「ああ、そうだが。それがどうした?」

「アウトです!そんなんじゃ栄養が偏っちゃいます!肥満雀になって飛べなくなりますよ!」

「えっと、イロハちゃんの気にする所って、そっちなの?」


 ジョニーラブ?な態度を隠そうともしないイロハに四谷夫妻は若干引き気味である。

 追記しておくと、ジョニーはイロハがいるのでこの夕食会には不参加である。しかし、弥勒が家をだる際に『また旦那ばっかり美味いもの食べてずるいっす!でもあのねーちゃんは何か怖いっす!』と駄々をこねて床の上を転げまわっていた。


「しかしイロハちゃんのいうことも一理あるな。弥勒さん、外食や出来合いばかりでは高くつきますよ。できるなら自炊に切り替えた方がいい」


 先程の会話で思う所があったのか大が口調を崩しながらそう言った。


「自炊か……。できなくはないのだが……」


 できなくはないのだが、完全に男の料理なのである。材料は全てブツ切りで、調理方法は焼きの一手のみ、更に味付けは塩のみということが多かった。それでも魔王時代に配下への慰労として振舞うと評判が良かったので、定期的に厨房に立ってはいた。


「もしよければ夕飯はうちに食べにきてはどうだろう?」

「ありがたい提案だが、それだと祥子の負担が増えてしまう」

「それは気にしなくても大丈夫ですよ。三人分作るのも四人分作るのも変りませんし。それに智由も弥勒さんに懐いているみたいなので、私としては大助かりです」

「いや、しかしだな……」


 四谷夫妻の攻勢に思わずたじろいでしまう。


「弥勒さん、実は私、祥子さんから料理を教えてもらっているんです。なので、その時に一緒に習うというのはどうでしょう?」


 とイロハが助け船を出してきた。その後の話し合いで材料費は支払う、場所は四谷家で食事も一緒に行うというイロハと同じ条件に収まった。

 余談だが栄養価は改善されたが、食事の質が底上げされたためにジョニーの肥満は加速し、ダイエットに励むことになるのだった。

職業柄お父さんの大は登場機会が少なそうなので、彼中心の話になりました。……なってますよね?


教育論的な部分は「まあ、こんな考え方もあるか」程度に軽く流して下さい。


ちなみに四谷さん一家の名前にはある法則というか、元ネタというか、そんな感じのものがあります。多分すぐ分かると思いますけどね。

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